幕間:侍女②
ミリセント様が十歳の誕生日を迎えた。
なんだか、十歳になったミリセント様はティモ殿下との距離を縮めたように見えた。
「ティモがかっこよすぎるわ。ああ、もうどうしてあんなにイケメンなのかしら」
「……ああ、もう!!」
ミリセント様は十歳の誕生日をティモ殿下にお祝いしてもらえて幸せそうにしていた。
なんだろうぽーっとしていたかと思えば、恥ずかしそうに顔を覆っていたり、本当にかわいらしい。
ミリセント様とティモ殿下が幸せそうに、仲睦まじい様子に私は尊いです。
ミリセント様は本当にティモ殿下の事を愛していると思う。今までも少し遠慮していた部分もあったかもしれないですが、十歳の誕生日を終えてミリセント様はより一層素直になられたというか、より一層ティモ殿下への気持ちを実感したように思えた。
ティモ殿下は大変異性に好かれる方で、ミリセント様に成り代わろうとする愚かな令嬢もいるけれど、ミリセント様は上手い具合に手綱を握っていた。なんというか敵対するではなく、何だかんだ仲良くなるのがミリセント様の凄さだと思います。
私はこんなに素敵で、素晴らしい公爵令嬢を主に出来てとても嬉しいです。とても誇らしいです。
隣国へと向かった時も流石でした。
あの時は、ミリセント様にエルコッペ殿下が興味を抱いてティモ殿下が嫉妬をしておられました。ああ、互いに愛おしいと思いあっていて、何処までも仲が良いのに嫉妬をして、本当に尊い関係です。
私は隣国に一緒に赴く事が出来て、とても幸せな気持ちになったものです。
カメラというミリセント様とティモ殿下で完成させた代物はとても素晴らしいものでした。
ミリセント様とティモ殿下の尊い記録を撮ることが出来るというだけでも、素敵なものです。色んな関係からまだ市政には広められておりません。私はこれが平民達にも広まるようになったら是非とも購入したいと思います。
「……もう」
ある日のことです。
ミリセント様は、恥ずかしそうに顔を赤くして、ティモ殿下との交換日記を読んでおりました。
ちなみにそんなミリセント様のすぐ傍には、ティモ殿下の使い魔であるモア様がいらっしゃいます。
モア様はミリセント様とティモ殿下の交換日記の運び手なのです。そういえばあの交換日記には、ティモ殿下が王宮魔法師に頼んで、ティモ殿下とミリセント様以外には見えないようにしているそうです。
……ミリセント様とティモ殿下の個人情報が多分に含まれていますからね。下手に他の誰かの手に渡れば大変なものです。だからこそそれも仕方がないと思いますが、交換日記に国宝レベルの魔法をかけるなんて流石ですよね。
ミリセント様はどうして顔を赤くしているのだろうか、と気になりますが、私はあくまで侍女なので、かわいらしいミリセント様を見ながら口元を緩ませるにとどめます。
私がミリセント様とティモ殿下の尊い関係はミリセント様の口から語られなければ分からないのです。ああ、でもミリセント様の侍女だからこそ、この尊い関係を見ていられるのだと思うと幸せで仕方がありません。
ミリセント様とティモ殿下の関係を、政略結婚だと勘違いして口さがないことを言う者がいないわけではない。――ティモ殿下が何処までも、年相応ではなく、ミリセント様が関わらない時はいつも何にも興味を持たない冷酷な様子を見せているから。
だけど私は知っています。
ミリセント様の侍女として、ティモ殿下がどれだけミリセント様の前だと年相応なのかを。そんな噂を吹き飛ばしてしまえる仲睦まじい現実があることを私は知っています。
「エドナ……ティモが本当にかっこいいのだけど」
「それは前から分かっていることでは?」
「そ、そうだけれど……なんだろう、ティモってばあの、誕生日の時から本腰いれてきているっていうか……」
私には分からないことだが、やはりミリセント様の誕生日の時に何かあったのだろう。
あの時に、ミリセント様はティモ殿下と話があるといって、私とティモ殿下の護衛騎士であるセッタさんは部屋の外にいました。誰も中に入れないようにして、扉を開けている状況でですが……お二人が秘密のお話をしていたのは確かでしょう。
ミリセント様が話した事に、ティモ殿下は優しく笑ってました。
ミリセント様は何か感動なさったのか、泣きそうになりながらティモ殿下に抱きしめられておりました。
……お二人ともまだ十歳だというのに、なんでしょう、もっと大人の恋人同士のような雰囲気でした。
あの時のことでティモ殿下はミリセント様により一層容赦なく、愛を囁いているのではなかろうかとは想像が出来ます。元々から驚くほどにミリセント様に愛を示していたのに、もっと容赦ないとは……もうミリセント様がティモ殿下の愛を疑うことはなくなるでしょうね。
「ねぇ、エドナ。ありがとうね」
「どうなさいました、突然……」
「私は恵まれているなと思っているのよ。ティモが私の婚約者で、私の事を愛してくれているのもそうだけど……。私がこうして幸せに過ごせているのは、エドナのおかげでもあるもの」
「私もミリセント様が主で幸せですよ。こちらこそありがとうございます」
はっ、思わず仕事中だということを忘れて、感動して感涙してしまう所でした。
ミリセント様がそう思ってくださるというだけで泣きそうです。いえ、仕事が終わったら思い起こして私は大泣きすることでしょう。
――ミリセント様も十歳になられました。
これからミリセント様は徐々に大人の女性になられることででしょう。私はその成長を見届けたいです。
もちろん、ミリセント様とティモ殿下の仲をもっと永遠と見届けたいという気持ちも当然あります。
私はそれを見届けられることが楽しみで仕方ないです。




