幕間:護衛騎士②
ティモ殿下とミリセント様は今日も楽しそうに過ごしている。
俺は主であるティモ殿下が楽しそうにしているだけでも嬉しくて仕方がない。
昔はあれだけ全てを諦めていた表情をしていたティモ殿下は、ミリセント様のおかげで本当に楽しそうだ。
ティモ殿下は、弟が生まれ、キッド殿下をとても可愛がっておられる。昔からは本当に考えられなかった姿だ。
「今日も僕のミリーは可愛いね」
……ティモ殿下は、交換日記を始める前からミリセント様のことを特別に思っていて、ミリセント様と一緒にいて楽しそうだった。だけど、交換日記を始めて、ミリセント様との距離が縮まって行って、余計にミリセント様のことを大切に思うようになったように思える。
ティモ殿下にとって、ミリセント様という婚約者は可愛くて仕方がない存在なのだろう。
交換日記を始めた当初、ミリセント様がティモ殿下に捨てられるかもしれないなどということを言っていたらしく、そのミリセント様の行動が余計にティモ殿下の執着を増加させる原因の一つだろうと思える。
ティモ殿下とミリセント様は、疫病の終息に尽力をつくした。その結果、ティモ殿下とミリセント様の評判は高まっている。
また、ティモ殿下とミリセント様はショーというものを開催した。
ティモ殿下とミリセント様が考えた衣装をお披露目する場だったが、とても素晴らしいものであった。
まずは王侯貴族たちや裕福な商人の間でのお披露目だったが、いつかティモ殿下とミリセント様は民たちの前でもショーをしたいと言っていた。
見た事がないようなデザインの衣装は、ティモ殿下とミリセント様によく似あっていた。
お二人が身に纏っていたものは、互いに似合うものをよく考えて生み出されたものである。互いの色を身に纏っていたり、本当に仲睦まじい様子を見せていた。
ティモ殿下は大変女性から好かれる方である。
王太子殿下であるという地位もあり、見た目も美しく、何でも完璧にこなす。そういう存在が好かれないはずもない。
ミリセント様よりも、自分の方がティモ殿下に相応しい……などと愚かなことを言い出している令嬢も中にはいる。ミリセント様に直接そういうことを言っている令嬢もいるらしいが、ミリセント様はティモ殿下の婚約者として堂々と対応をしているらしい。
ミリセント様はティモ殿下と過ごしている時の様子からは考えられないが、本当に公の場ではきちんとなされている方なのだ。そういう様子を見て可愛げがないとか、ティモ殿下にはもっと相応しい方がいるとか……そんなことを言っている人はいる。
そう言う方はティモ殿下とミリセント様が共に過ごしている時の様子をご存じではないからそういう事を言えるのだと思う。
そもそもティモ殿下はミリセント様が「凄い」「流石ね」と口にしてくれるからこそ、王太子として必要でもないのに剣や魔法を極めようとしている。
護衛対象の方が護衛よりも強い……という状況にいずれなるのではないかと思えるほどに、ティモ殿下は才能を持ち合わせている。
例えばティモ殿下はミリセント様が婚約者ではなかったらこんなにも努力を重ねなかっただろう。
例えばティモ殿下はミリセント様が婚約者ではなかったらこんなにも人生を楽しめなかっただろう。
ティモ殿下と近しい人達は皆がそれを分かっている。
ティモ殿下はミリセント様が居なければもっと近寄りがたい存在になっていただろう。それに陛下たちとの仲もこじれていたかもしれない。
全部ミリセント様のおかげであると言えるだろう。
「夏には隣国へミリーと一緒に行く予定だから、その時はセッタ、僕とミリーの護衛をよろしくね」
「はい。ティモ殿下」
今年はティモ殿下とミリセント様で、隣国へと向かう予定がある。
ティモ殿下とミリセント様の初めての外国である。俺はその場に付き従うことを命じられている。護衛としてティモ殿下とミリセント様の傍に居れることを俺は誇らしく思う。
何より隣国へ向かう時に連れて行きたい護衛はいるかと陛下に聞かれた時、ティモ殿下が「セッタを連れて行く」とためらわずに言ってくださったと知って、俺は感極まってしまった。
ミリセント様以外に関心も執着も持たないティモ殿下から信頼をもらえているというのは、それだけ俺にとって嬉しい事であった。
ティモ殿下の傍に控えられることは誇らしい。
ティモ殿下からの信頼を得られたことも誇らしい。
俺はその信頼にこたえるためにも、ティモ殿下とミリセント様を守り抜くのだ。
「絵姿のミリーもいいけど、やっぱり見ているとミリーに会いたくなる」
ティモ殿下はミリセント様の絵姿を見て、そう呟く。
「ふふ、やっぱりミリーは可愛いなぁ」
ティモ殿下はミリセント様からの交換日記を読んで楽しそうに笑う。
「セッタ、これミリーがくれたんだ。僕に似合うだろ?」
ティモ殿下はミリセント様から贈られた帽子をかぶって、嬉しそうだ。
ティモ殿下が幸せそうで、婚約者であるミリセント様と仲睦まじい様子を見るのは嬉しい。
……けれどなんというか、恋人がいない身である俺からすればティモ殿下とミリセント様の様子を見たり、惚気にあてられたりすると俺も恋人がほしいなとそんな気分になってしまうのであった。




