疫病④―8歳―
リド暦787年 六の月 一日
ミリー。調子はどうかな?
僕の方は例のミリーが言っていた彼を探してみようとしたけど、流石に見つからなかった。
まだその例の彼の両親はなくなってないんだろうね。今の所、まだ広まっていないからだろうけど、なんとか抑え込めたらいいと思うのだけど。
疫病が広まらないように封じ込めることは出来ているけど、まだ薬が出来ている状態ではないから安心はできないからね。それを納めるようにどうにかしないとね。
ティモ
リド暦787年 六の月 四日
私の調子はすこぶる良好よ。まだ家にはたどり着いていないわ。
探してくれていたのね。ありがとう。
そうね、おそらくまだ亡くなってはいないと思うわ。彼がどうか憎しみに捕らわれなきゃいいけど。
彼が国を憎んだらティモが危険だもの。
そうね。ティモが先に動いてくれているからまだ疫病は広まっていないけど、まだまだ油断は出来ないわ。
お母様が死んでしまうのではないかって、不安になってしまうの。
ミリセント
リド暦787年 六の月 七日
その彼が僕を憎まなかったとしても、僕っていう王族を憎む人はいないわけではないと思うけどね。
でもまぁ、僕を憎む人が少しでも減ってくれるならそれが嬉しいかな。結局、王族であるのならば、どれだけ善政を敷いたとしても憎む人は憎むからね。
公爵夫人の事が心配になる気持ちはわかるけど、死なせないために僕たちは全力で動いているんだから、もう一息頑張ろう。
ティモ
リド暦787年 六の月 十日
そうね。昔の私は王侯貴族ってキラキラしていて、幸せしかないってそんな風に思っていたけれど、実際になってみると華やかなだけじゃないものね。
ええ。お母様を死なせたりなんか絶対にしたくないわ。お母様のお腹にいる子供にも生きてほしいもの。
それに国民たちにも疫病が広まってほしくないわ。国内の疫病が治まったら広まっているという隣国の助けにもなりたいわ。
ミリセント
リド暦787年 六の月 十三日
もうそろそろ家についたかな?
そうだね。平民の中には王族や貴族の事をただ恵まれて生きていると思っている人もいるけど、責任というものがのしかかるからね。反乱でも起こったらこの地位は失われる可能性もあるし。
ただ貴族の中にはそういう事を考えずに好き勝手している貴族もいるからどうにかしないと。
そうだね。国内が治まっても隣国が広まったままだとまた疫病が入ってくる恐れがあるからちゃんとそのあたりは収束に向けて行動しないと。隣国への貸しも作れるし。
ティモ
リド暦787年 六の月 十六日
もう家にいるわ。少しだけ久しぶりにお母様の顔を見たらほっとしたわ。お母様はつわりで少し苦しそうだった。こんなお母様が疫病にかかったら大変だから、より一層私もお母様を守るために頑張らなければと思ったわ。
ティモは本当に八歳だけど大人びた考え方よね。でもティモらしいわ。
そうね。どこから入ってくるか分からないから、ちゃんとそのあたりはしておかないと。
ティモが持たせてくれた紙芝居、孤児院でやってみたら大好評だったわ。こうして自分の作ったもので楽しんでもらえるの嬉しいわ。
お母様にも褒められたの。お父様も頭を撫でてくれて嬉しかったわ。
ミリセント
リド暦787年 六の月 二十日
そうだね。僕もキッドや母上のことを見ていると、より一層、疫病が広まらないように頑張らなければと思ったよ。
僕はよく「本当に八歳か?」って言われるからね。
紙芝居が好評だったなら良かった。流石、僕のミリーって、僕も誇らしくなったよ。
僕もミリーの頭撫でたいな。
ティモ
リド暦787年 六の月 二十三日
私もよく「八歳!?」と驚かれるわよ。
お父様の手伝いをして領地運営の手助けとかしているのだけど、手紙でしか話したことなかった人には驚かれたりするわ。
紙芝居がこうやって出来上がったのもティモのおかげよ。ティモが私の事を後押ししてくれるからだもの。私も流石、ティモといつも誇らしいわ。
いいわよ。ティモは婚約者だから私の頭を撫でても。でもその代わり、私にもティモの頭を撫でさせてね? いつもティモは頑張っているもの。頑張り屋さんのティモを私はいつだって褒めたいだもの。
ミリセント
リド暦787年 六の月 二十六日
僕もミリーも実年齢に驚かれて、お揃いだね。
ミリーは本当に優秀だよね。僕はいつだってミリーが僕の婚約者であることが誇らしくて嬉しいよ。ミリーが僕のことを誇りに思ってくれるならそれだけでも嬉しいよ。
僕の頭なら幾らでも撫でていいよ。ミリーが望むなら幾らでも撫でさせてあげる。
ミリー、あと朗報だよ。疫病の兆しのあった村に派遣されている医者からの報告だけど、薬が出来そうだって。その薬が上手く作用してくれるなら疫病を抑えることが出来ると思うよ。
ティモ