幕間:侍女④
「ティモ、愛しているわ」
「僕もミリーのこと、愛しているよ」
ミリセント様とティモ殿下は、よくそうやって愛を囁き合っております。
今回、ミリセント様が少し不安に思うことがあると交換日記で書いたところ、お忙しいだろうにティモ殿下はすぐに駆けつけました。これこそ愛のなせる業でしょう。
ティモ殿下がミリセント様を溺愛していることは紛れもない事実です。というより、ミリセント様以外の前ではあんな甘い表情をしないもの。
それなのに相変わらず、ティモ殿下の妻の座を狙っているらしい者達が色んな策謀を巡らせているようなのです。本当に腹立たしいというか、何処に目が付いているのかと疑いたくなる。
確かにミリセント様とティモ殿下は、パーティーなどではそれなりの節度を保っています。それは王太子とその婚約者が人前でべたべたといちゃついていても問題だからでしょう。あとは二人っきりの時の可愛いミリセント様を他の者達に見せたくないというティモ殿下の独占欲もあるかと思います。
年々その愛情が重いものになっているのは、おそらく気のせいではないでしょう。
ただミリセント様側からの愛情も、とても重いものですけれども。
お二人はいつか一線を越えてしまうのではないかというのは、心配しております。王侯貴族というのは純潔であることを望まれるものです。中にはもちろん、そういう風に婚姻前に関係を持つこともなくはないですが。
「ティモ……」
ミリセント様はティモ殿下が帰られてから、とても寂しそうな様子を見せておりました。
きっとずっと一緒に居たいと、そういう思いでいっぱいなのでしょう。このお二人は長い付き合いだというのに、ずっと長い間、交友を持っているのにお二人は飽きもしないのです。
そういう部分は素敵だなと正直思います。
共に居る期間が長ければ長いほど、その相手がいるのが当たり前になり――そしてこんな風に心から残念がったりなどが出来なくなることも当然ある。
私の同僚の侍女も長い間付き合っていた相手とそういう理由で別れたりもしていた。ミリセント様とティモ殿下の間にはそういう互いに飽きるということがない。
寧ろ、もっと一緒に居たいという気持ちが増しているようだ。
ミリセント様もティモ殿下も、次期王妃と時期国王として節度を持った接し方をしている。同じ領地に居る場合でさえも、必要な社交ややらなければならないことがあれば別行動をしていたりもする。……そういうところをきちんとしているからこそたまに不仲説が出るのかもしれない。
ただ他の何よりも互いを優先して、責務を放棄してずっと一緒にいることが愛では決してないのに。
……ただ最近この国内では、そういう風な愛情を見せつけているカップルが有名になっているから余計に比較されているのかもしれない。
もちろん、そのように周りから見て目に見えて愛情が溢れているのは悪いことではないけれど、ミリセント様とティモ殿下の仲は素晴らしいのに! とそうも思ってしまう。そもそもミリセント様とティモ殿下は二人でいる時は本当に甘い。
膝枕をしていたり、寄り添いあってくっついていたり、口づけをしていたり……。
この前はとあるパーティーの後、疲れたらしいティモ殿下がミリセント様の肩に頭を乗せて甘えていらしたの。
ティモ殿下はまだ十五歳なのに、完璧な王太子と噂されている。誰にでも人当たりが良くて、周りが想像する理想の王子様……。しかしミリセント様の前では年相応で、態度が異なる。
それはミリセント様も同様だと言える。ミリセント様はとても美しく成長され、人を寄せ付けないような冷たさを持っているように見える。あくまで見た目はだけど……、大人っぽくて、年々色気が増しているというか……。そんなミリセント様がティモ殿下には弱音を見せて、愛らしい様子を見せているのです。
私はミリセント様の侍女だからこそ、そのような素晴らしい場面を何度も何度も目撃することが出来、なんと素晴らしいことか!! と私は毎回、嬉しくなっています。
ミリセント様のティモ殿下への態度を他の殿方が知ったら、絶対にときめいてしまうこと間違いないでしょう。普段の冷たさを感じる様子とは全く違って、結構甘えん坊です。
ティモ殿下もそれが分かっているからこそ、公の場では取り繕っているというのもあるのだと思います。
可愛いミリセント様を他の男性に見せるなんてティモ殿下が許すはずがありません。
「学園に入ったら沢山の同年代の令嬢達とティモも関わることになるわよね。……取られてしまわないように頑張らないと」
ミリセント様、そのような心配は絶対に不要ですよ?
ティモ殿下のことを考えているうちに、そのようなことが心配になったらしいミリセント様にそう思うしかありません。
学園生活ではこれまで関わったことのない令嬢や令息たちと関わっていくことがあるでしょうが絶対にティモ殿下はミリセント様以外見ません。
きっとこういった不安もミリセント様はティモ殿下に共有するでしょうから、その後は溢れんばかりの愛情を伝えられることでしょう。
……好きな人に告白も出来ていないままの私は、それを少しだけ羨ましく思うのでした。




