過去
すいません。昨日投稿するかもと言いつつ、投稿できませんでした。
さて書こうと思った瞬間、新しい作品を思いついてしまい、そちらの方を書いてしまったためです。
そのお詫びと言ってはなんですが、今回の話は少し長くしました。
……まあ、そのせいで少し遅れたのでお詫びになっているかは謎ですが。
「おはよう」
「おはよう。ミリア」
朝起きて、母さんに挨拶をしても、いつもと変わらない返事が返ってきた。
……。
今日は私の誕生日。
なにか、誕生日おめでとうとか、言ってくれると思ってた。
起きてすぐに高鳴り始めた胸は、母さんのその態度を見た今、すっかり落ち着いて、私は周りに気付かれないようにため息をはいた。
……忘れてるのかな?
私は肩を落としながら、いつも通りに料理をしている母さんを横目にイスに座った。
「おはよう。今日は早いな」
「おはよう父さん。なんか、目が覚めちゃった」
父さんが挨拶をしてきたけど、父さんの目線は手入れをしている剣から離れない。
……そっか。父さんもか。私の誕生日、ふたりとも忘れちゃったか。
なんだかとっても悲しくなって、窓の外を手持無沙汰に眺めた。
チュンチュンと、鳥の鳴き声が聞こえてきて、朝日が優しく差し込んでいる。
しばらくボーッとしていると、どうやら朝食ができたらしい。
母さんがお椀にスープを盛っている。
「はい、ミリア。あなたも早めに手入れを終わらせてね」
「おう、わかってる」
「……」
出てきたものはいつも食べてる固いパンと、少しの野菜と肉が入ったスープという質素なものだった。
父さんが剣の手入れを終わらせ、母さんも席に着いたあと、サプライズでスープがとても美味しいかもしれないと、淡い希望に賭けてスープを飲むも、やっぱりいつもとあまり変わらない薄いスープで。
薄いはずなのに、少ししょっぱい気がしたそれに、固いパンを浸して柔らかくし、食べた。
「それじゃ、ギルドに行ってくる」
少しした頃、ガタリと音がして隣を見ると、父さんは早くも朝食を食べ終わっていた。
「行ってらっしゃい。気を付けてね」
父さんは立ち上がると、先ほど手入れをしていた剣を持ち、革の鎧を着て家を出ていった。
父さんのその姿をチラリと見て、私はスープを飲み干した。
「……ごちそうさま。それじゃあ、薪を拾ってくるね」
「はーい。ミリアも、気を付けてね」
母さんは、いつも通りに私を見送ってくれた。
……普通。そう、これが普通なんだ。
……なのに、今日は胸にチクリとした痛みがはしった。
「……行ってきます」
玄関に置いてある鉈を持ち、私は早足に家を出た。
◇
「ただいま」
背負っていた薪を、薪を置く場所に置き、ドアを開けた。
窓から差し込む光は、すっかり赤く染まっていた。
私は鉈を壁に立て掛けたところで、少し違和感を感じた。
「……あれ?」
声が聞こえなかったのだ。
いつもなら、おかえりって母さんが、父さんがいれば父さんも言ってくれるのに。
なんだか嫌な予感がした。
今しがた壁に立て掛けた鉈をもう一度手に持ち、そっと部屋のドアに近付いた。
ただいまと言ったから、もし野盗の類いがいた場合、もうコソコソする必要はないかもしれないが、それでも足音を殺してジリジリとドアに近付いた。
静かに、ひと呼吸。
朝とは違う、うるさく跳ねる胸を落ち着かせ、次の瞬間思い切りドアを開けた。
「「誕生日おめでとう!」」
「……は?」
いきなり突入し、鉈を構えた私の口から、間抜けそうな声が漏れた。
ふと我に返った私は、停止しかけた頭をフル回転させ、辺りを見回した。
質素なはずの我が家は、少しオシャレに飾られていた。
父さんと母さんは優しく笑っていて、その奥のテーブルには豪華な夕飯が準備されていた。
「ふふふ。驚いた?ビックリさせようと一週間くらい前からお父さんと打ち合わせをしてたのよ?」
その言葉を聞いて、知らず知らずのうちに、口角が上がっていた。
私はふたりの胸に飛び込んだ。
「とってもビックリした。もう、父さんも母さんも私の誕生日を忘れているかと思ってた」
「忘れるわけ、ないだろう?たったひとりの、俺たちの大切な宝物なんだから。……ま、そのかわり俺の歳は忘れたけどな!ガッハッハッハッ!」
「ちょっとあなた、まだ三十三でしょ?ボケるにはまだ早いわよ」
「おお、そうか!もう三十三か!時間が流れるのは早いものだな!」
そこには、幸せな空気ができあがっていて、さんにん揃って笑っていた。
◇
「そういえば、本当はまだ私って十三だよね?」
「……?どうして?誕生日は今日でしょ?」
「そうだけどさ、私って月が出てから産まれたって言ってなかったっけ?」
「……ああ、そういうことね。それじゃあ、確かにミリアはまだ十三ね」
夕飯を食べ、ゆったりとした時間が流れていた。
私は、こんな幸せがずっと続くと思っていた。
……いや、実際は本当に続くはずだったんだ。
偶然がいくつも重なったせいで、本来は起こり得ない、その日の悲劇が起こってしまった。
「……!」
「――痛っ!」
「な、なに?」
遠くで、ゾワリとしたなにかが発生した。
父さんは酒が入っているにもかかわらず、無言だが、鋭い視線をそちらの方に向けた。
母さんは、いつもの優しそうな顔を、今は苦痛に歪めて頭を押さえた。
私は驚いて、ふたりの間で視線を左右に振っていた。
「……おい母さん。大丈夫か?……そうか。だったら、ミリアを連れて避難してくれ」
「え?で、でも――」
「いいから。あっちの方角でなにかが起こっているいから、そうだな……。南門だ。南門の方へ避難してくれ」
父さんは私の言葉に被せ気味に、優しいが否定を許さないという感情の篭った声で、そういった。
「……わかったわ」
母さんは頭を片手で押さえて、残った手で私の腕を掴んだ。
「……あなた、気を付けてね」
母さんは最後にそう言って、家を出ようとした。
……しかし、全てはもう、手遅れだったのだ。それを間近で感じた瞬間から。
もし逃げるんだったら、そのなにかを感じた瞬間に街の外にいて、それから全速力で逃げなければいけなかった。
無論、それが起こった瞬間に街の中にいた人にはそんなことができるはずもなく。
「――!危ない!」
ソレが起こった時、母さんがとっさに結界をはったおかげで、私と母さんは助かった。
しかし、少し遠くにいた父さんは、母さんの張った結界に入れなかった。
家が崩れ、父さんが吹き飛ばされたと思った瞬間。
ガシャンと結界が音をたてて破られた。
そして、なにか、衝撃がやってきた。
……それが、母さんが思いっきりぶつかったのだと気付くまでに、少しの時間を有した。
「……母、さん?」
一番星が輝きだした空を遠目に、私の上から退かない母さんの顔を覗き込んだ。
……母さんは、目を見開いて、息をしていなかった。
「……嘘だよね?嘘って言ってよ……。サプライズだって……。さっきみたいにさあ……お願い……」
母さんは、それでも動かなかった。
どころか、なぜかどんどん体がゾンビのように腐っていった。
悲鳴を上げて、後ろに飛び退くと、手になにかが当たった。
嫌だ、振り返りたくない。
そう思っても、振り返るしかなくて。
「――ひっ!」
そこには、父さんがいた。
……修正。父さんだったものが、あった。
そこに倒れていたものは、父さんのお気に入りの服を着ていた骨だった。
それは、体の端が少しずつ朽ちている。
ハッとして振り返ると、母さんだったものもまた、体の端から朽ちていっている。
「……嘘。嘘嘘嘘!嫌だ!嫌だよ!なんなの?私がなにかしたの?私なんにも、悪いこと、してないよ?どうして、どうしてこんな目にあわないといけないの……?」
私は膝を地面について、父さんの頬に触った。
瞬間、それは全身が塵になって消えた。
振り返り、母さんの手を掴んだら、それもまた、全身が塵に変わってしまった。
「……夢だ。これは夢だ。質の悪い夢だ。……そうだよ、覚めてよ。悪い夢なら、今すぐに!」
現実逃避は、それほど長い時間は続かなかった。
「……ほう?生き残っている奴がいるとは、珍しい」
声が聞こえた。ハッとして振り返るとそこには、金の王冠、赤いマントを身につけた男がいた。
そいつは、禍々しい、それこそ先ほどの気配を煮詰めたようななにかを発しながら、まるで本物の王のように悠然と近付いてきた。
男は、私の少し前まで歩いてきたところで、胸を押さえて、ぶつくさとよくわからないなにかを呟いた。
「……まだ、馴染んでいないか。少し、制御ができなくなりつつある」
男はチラリと私を見たあと、なにかを思いついた悪ガキような、しかしそれとは比べられないほど邪悪な笑いを浮かべた。
「……そうだな、その手があった」
男は私を指差し、呪文のようななにかを呟いた。
男の指から、夜空に負けないほどの、漆黒のなにかが飛び出し、私の胸に吸い込まれていった。
ズキンと激痛がはしり、私は胸を押さえて踞った。
意識があったのは、ここまでだ。




