幕間 非日常
「あーあ、見回りかよ。面倒くせぇな」
私こと、ヒラリーは、隣にいる真面目そうな男、ディックとふたりで街を歩いていた。
日はまだまだ上ったばかりだ。店もあまり開いていないし、時々すれ違うのは武器をもった冒険者くらいなものだ。
「そう言うな。これもしっかりした仕事だぞ」
「はいはい、わかってますよー。まったく、少しはサボることも考えないと、気苦労で禿げるぞ」
「ふん。サボりすぎて頭がとろけているような奴には言われたくないな」
なんやかんやで駄弁りながら、私たちは街を見回っていた。
……今日も、本当は一日平和なはずだったんだ。
事件といえば酔払いが何かを壊した、とかそんなレベルでしかなくて。
……しかし、そんな幻想は次の瞬間には音をたてて崩れさっていた。
「だからお前という奴は……」
「――待って」
私はそれに気が付いたとき、とっさに彼の言葉を止めた。
私の真面目な顔を見て、彼にもなにかが伝わったのだろう。
彼は言葉に被せ気味になにかを言われると、いつもむすっとした表情になるが、今は真面目な顔をして私の目を見てきた。
「……どうした?」
私はスンスンと鼻をならした。
「血の匂いがする。それも、これはひとりとかいうレベルじゃない」
彼は目を見開いて、鼻をならした。
「……わからん。やっぱりお前の鼻はおかしいな」
そして笑ったが、目だけは全然笑ってなかった。
「案内してくれ」
◇
その匂いにだんだん近付くごとに、彼の顔に皺ができてきた。……きっと彼にもこの匂いが感じられるようになったのだろう。
私の鼻は周りの奴らよりも敏感だから、今はこの匂いで嗅覚が麻痺しかかっている。
「もうそろそろあんたにもわかるようになったろ?もう臭くてかなわん。あとはあんたが探してくれ」
私が鼻を押さえて手を振れば、ディックは仕方がないとでも言いたそうにうなずいた。
そして、それから少ししたところの角を曲がると
「おいおい……、こりゃ想像以上だな」
「……ああ、そうだな」
大量の血が地面に吸われ、たくさんの男が倒れていた。
「……おい、ディック。他の仲間を呼んできてくれ」
「……わかった」
ディックが背を向けて走っていくと、私は鼻を押さえている手をどかしてひとりの男の下に行った。
(……脈がない。死んでいる。死因は……頸動脈を切られているからたぶん失血死だろうか?……ん?)
目の端に映ったそれは、かなり場違いなものだった。
(女だと?なんでこんなところに倒れていやがる?)
私は、血濡れているが、整った顔立ちをしている白髪の女――少女と言っても差し支えない――に近付いた。所々に黒のメッシュが入っている。
私は少女の手をとった。
(――!脈がある!呼吸は……正常か)
少女をよく見てみると、ボロボロの服を着ていて、全身に細かい切り傷があった。
なんだか、悪い予感がして止まらなかった。




