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不老の剣士は呪いを解きたい  作者: こまこま ろにの
冒険者の街エピー
12/18

魔石

体力の消耗が激しい。

一度は撒けたと思った追っ手だが、幾度となく待ち伏せにあい、だんだんと息が上がってきたところに、後ろから足音が聞こえてきた。

しかも悪いことに、最初に比べればかなりの人数がいそうな気配がする。


「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」


いやだ。捕まるものか。意地でも逃げ切ってやる。


土地勘もない路地裏で、追っ手に追われながら右へ左へと走り回ったせいで、いまではすっかり居場所がわからなかった。

それでも私は走った。この闇で、奴らが私を見失うことを願って。


逃げては戦い、戦っては逃げて。

幾度となく繰り返された戦いに、私の体力はガリガリと削り取られていった。


そして、ついに。


「おっと、どうしたお嬢ちゃん。足が止まってるぜ?」


私は走る気力もなくて、荒く息を吐いていた。

男どもは、そんな私を嘲笑うかのように、ぐるりと周りを取り囲んできた。

それはまるで、夕方と同じように思えるが、状況は全く違う。


奴らは数を増やしているが、私がひとりなのは変わらないうえに、さんざん走り回ったせいで、無視しきれないほどの疲労が溜まっている。


男はニヤニヤ笑って近づいて来る。

……もうすぐ、伸ばされた手が私に触れるだろう。


……何かがカチリと嵌まった音がした。

瞬間、伸ばされた手を切り払い、男の首筋を切り裂いた。

辺りに一瞬の沈黙がおりた。


そんな少しの時間を使って、私は呼吸を整えるように大きく息を吸った。


……疲労がどうとか言ってる場合か?違うだろう?こんなところで死にたくなんてない。

だったらさ、抗えよ。野性動物は死にかけが怖いってよく言うじゃないか。

奴らの喉に剣を突き立ててさ、生をもぎ取れ!


ようやくざわめきだした集団に、私は出鼻を挫くように剣を振るった。


地を這うような回避のしにくい足への攻撃。倒れこむ男の顎を蹴り上げ意識を刈り取る。

後ろから突き刺そうと出された剣をぎりぎりで躱し、お返しとばかりに心臓を一突き。

フラフラと踊るようなステップで攻撃を避け、そのたびに両手の刃物が僅かな月光を反射して煌めく。

細かい傷が何個もできた。でも、無視した。

街中での戦闘はご法度ってことも、いまは全く気にならなかった。


……どれほど剣を振っただろう。

周りは、人だった何かがたくさん倒れていて。

私の体は限界に達していた。腕も、足も、もう動きそうになかった。

男の放った蹴りが、見事なまでに腹に吸い込まれていく。


「ぐぁっ!」


ここまでか……。

腹を抑えて蹲る。近くでカランと剣が落ちる音がした。


背中に衝撃が走った。蹴られたのだと、少し遅れて気が付いた。

意識が朦朧としていて、頭があまり働かない。


「このあま……、いったいどんなことをしたのかわかってんだろうな?」


……よく、お前らがやったことを棚に上げてそんなことが言えるな。


口はパクパク動いただけだった。声がでないほど疲労しているようだ。


私はなけなしの力を振り絞って、ポケットに手を突っ込んだ。

特に、状況を打破できるほどの何かは残っていない。そんな物があるのなら、こんなに追い詰められる前に使っている。


私の手には、少し冷たい小石ほどの物が触れた。

魔石だ。


魔石とは、使えば生活が楽になる便利な物であるが、それと同時に劇毒でもある。


私はそれを男どもに見せつけるようにしながら、最後の力を振り絞った。


「ば、かじゃねぇの……?だれ……が思い通り、になる、と思って、るの……?死ぬ方法くらい、準備してるに、決まってる、じゃん……」


私はそれを飲み込んだ。男どもに見えるように。


「――!こいつ!」


男がひとり駆け寄ってきて、私の口に手を突っ込んだ。ひどい、鉄の味がした。


「こいつほんとに魔石を飲み込みやがった!」


腹を更に蹴られた。意識がどんどん薄れていく。

もう、周りの景色もみえないし、周りの音も聞こえない。


……ああ、もっと生きていたかった。こんなところで死にたくないな。

やりたいことが、まだ残っているのに……。


父さんの仇を討つために片手剣を持ったのに……。

母さんの仇を討つためにナイフを持ったのに……。

家族の、友達の仇を討つために強くあろうとしたのに……!

こんなところで、終わりかよ……!


体の奥から鋭い痛みが襲ってきた。まるで、内側から食い破られるような痛みだ。


「――!ぐぅ!い、いやだ……!こんなところで死にたくない……!もっと、もっと生きて、仇を……!」


朦朧としていた意識が一瞬で覚醒するほどの痛みだった。

体がボコボコ膨らんでは潰れ、肌が爛れて、血が吹き出した。

体を抱きしめて耐えようとしたけど、無意味だった。

転がって、叫んで、頭を打ち付けて。


……そんな苦痛は、ふとした時に消え去った。私の意識とともに。


死にたく、ない……

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