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「星樹、大丈夫か?」


 一歩進むたびに、全身のあちらこちらに鈍痛が起きる。しかしずいぶん楽になってきたほうだ。それにこの状況で泣き言を言う気になどなれない。星樹は体を支えてくれる国王を見上げ、笑みを浮かべて頷いた。


「痛みはだいぶ引いてきました。きっと『守護の聖歌』を聴かせてくださった皆様のおかげですね」


 あれだけの距離を、一瞬とはいえ意識がなくなるほどの力で弾き飛ばされていながら、打撲程度で済んだのだ。聖楽院で歌の加護を得ていなかった自分が、もしも神殿前でも得ないままあの攻撃を受けていたら――。思うと、ぞっとする。だからこそ、もらった加護を無駄にはできない。


「大丈夫です。歌えます。……早くあの子を助けてあげなくちゃ」


 たどり着いたいちばん奥の扉を見やり、呟いた独り言に、国王が心強い強さで肩を叩いてきた。そうして星樹から手を離し、両開きの扉の前に立つ。


「私が先に入る。合図を出すまでは、絶対にそこから動くな」


 言うと彼は、扉に手をかけた。ぐっと力を入れる。一瞬の静止。そのあとで、重々しい音を立てながら開き始めた。

 ゆっくりと視界が広がっていく。封印の間の全貌が明らかとなっていく。

 想像以上にこじんまりとした部屋だ。その中で真っ先に目に入ったのは、若葉色の絨毯だった。淡い緑色に深い緑色の模様がよく映えている。最奥には紺色の遮光幕。天蓋から吊された幕には、色とりどりの宝石が縫いつけられているようだ。見る角度がほんの少し変わるだけできらきらと星のように瞬いている。そして幕の向こう側に、立派な足のついた箱のような物が。細かな装飾が施されているのが遠目にもわかるその箱は、いったい何なのか。

 疑問を感じた思考は、しかし次の瞬間吹き飛んだ。

 箱の手前に花漣が仰向けに倒れている。胸の上に一抱えほどの大きさをした白黒の物体を乗せた彼女は、顔を大きく歪め、喘ぐように開けた口を震わせていた。

 驚愕と動揺に支配され、叫ぶ。


「花漣ッ!」


 声に反応したか、花漣の呼吸を阻害しているのだろう物が動いた。黒い絹糸を思わせる艶を揺らし、こちらを向く。現れたのは、空色をした二粒の大きな石――双眸。小さな鼻。小さな口。ふっくらとした腕に小さな手。それらを白絹の服で包まれた黒の異形だった。


(あれは、何?)


 姿形は人間の乳児そのものなのに、黒曜石と見間違えるほど黒い肌をしている。そしてたかが赤ん坊の大きさをしたものの体重を受けて苦しんでいる花漣の様子が、混乱に拍車をかけた。


(あれが、魔物なのっ?)


 血の気が下がり、足が震える。痛みがぶり返してくる。何をどうしたらいいのか何もわからない。

 思わず後ずさりをしたそのとき傍らで、ふわ、と風が起こった。

 動いたのは濃紫。

 国王だ。

 彼が走りながら剣を体の横で立てた。あっという間に奥へたどり着き、草を刈るように振り抜く。


 ――ガギャンッ!


 硬い音ともに花漣の上から魔物だけを斬り飛ばした。

 いや、魔物に傷はない。服が破れただけだ。しかし魔物は床を二回転がり、花漣から離れた。


「星樹!」


 しばしの硬直後に泣き出した魔物から目を離さないまま、国王が声を上げる。


「花漣を! 早く!」


 星樹は痛みをこらえて駆け寄った。咳き込んでいる花漣を抱き起こし、半ば引きずるようにして距離を取る。魔物からも壁からも充分離れたところで止まり、床に膝を落とした。花漣の膝に本と杖を預ける代わりにしっかりと支え直し、彼女と自分を意識下におさめて集中する。

 紡ぐのは治癒の歌。花漣が歌ったものとは違い、傷を癒やす歌だ。

 効果が出たのはすぐだった。自身の鈍痛が薄くなり、腕の中で花漣が身じろぎした。彼女の浅く不規則だった呼吸が深くゆっくりとしたものに変わっているのが見て取れる。星樹は思わず安堵の息を落としていた。


「花漣っ、無事で良かったっ」

「……星樹……」


 ほんわりと緩んだ花漣の表情はしかし、すぐに曇った。周囲を窺う動きに倣って見れば、再びあの黒い蔦が部屋中に発生している。出所は魔物の体だ。入り口は塞がれ、逃げ場もない。

 星樹は戦う国王の背中を見据え、再び奪われないよう本と花漣を抱き寄せた。


「心配しなくても大丈夫。国王陛下が護ってくださるわ。だからあなたは息を整えることに集中して」

「でも……」


 花漣の顔は魔物に向いたままだ。


「でも、あの子泣いてるわ。痛くて、淋しくて……抱っこしてほしくて泣いてるわ」

「…………、何を言ってるの?」


 本気で彼女の言葉が理解できない。しかし花漣は、閉じたままの双眸から大粒の涙をこぼし、星樹の服をすがるように握りしめてきた。


「泣いてるの。お父さんとお母さんを呼んでるの。ねぇ星樹。どうして? どうしてこんなところに、赤ちゃんがいるの?」


 ――それが脳裏をよぎったきっかけは、涙か、言葉か。

 星樹は走り抜けた悪寒に、ぶるりと身を震わせた。

 これは勘だ。確証は何もない。しかし、神殿の外観と内装。柔らかな絨毯。美しい遮光幕。天蓋。その下に置かれている足つきの箱。それらから受ける雰囲気と理由、意味。そのすべてが繋がった気がするのだ。

 星樹は手に持つ古書を見下ろす。


(もし、私の予想が合ってるなら、この本は……この本に書かれてるのは……)


 にじみ出た生唾を嚥下する。

 本当にこれはただの勘だ。確証はない。自信もない。しかし、試す価値はあるはず――。


「花漣。手を離すわ。自力で座って」

「う、うん」


 彼女の背中を押し起こして離すと横笛を一撫でし、深呼吸。そうして心を落ち着け、持ち直した本の表紙を開いた。背筋を伸ばし、心を込めて微笑みを声に、言葉に乗せる。さながら、幼等部の小さな子たちに読み聞かせるように。




 むかしむかし、あるところに、鳥たちが暮らす美しい国がありました。

 鳥たちはお日様の降り注ぐ枝に止まっては、ピチクリピィ、と毎日大好きな歌を歌って暮らしていました。




 物語るのは『国守の書』に記されたひとつのお話。

 おそらくは、始まりの童話。




 ある日、王様とお后様に子供が生まれました。

 お日様のような金色の、とても可愛らしい王子様です。

 王様とお后様は大変喜び、王子様のために歌上手な三羽の鳥たちをお城へ招待しました。


 鳥たちは、思い思いに祝福の歌をさえずります。

 赤い鳥は歌いました。『王子様は、世界一美しい声を授かるでしょう』

 白い鳥は歌いました。『王子様は、誰よりも上手に歌えるようになられるでしょう』と、ピチクリピィ。




 いつの間にか衝突音が止んでいる。星樹は紙をめくりながら視線だけを上げてみた。

 国王が足を止めている。警戒を解いてはいないようだが、相手の出方を窺うだけである。なぜか。蔦の動きが止まっているからだ。少なくとも攻撃してくる感じがしない。もやに戻っている部分すらある。落ち着いたのだろうか。




 そのときです。

 突然大きな風が吹き、黒い鳥が現れました。それは、悪戯が過ぎて国を追い出されたはずの鳥でした。

 黒い鳥は、ガーガーと嗤い、歌います。

 『俺も呪いの歌をやろう。

  王子の金色の羽は闇のように真っ黒に。石のようにカチカチになるだろう。

  おそろしく醜くなって、一人ぼっちになるがいい!』

 黒い鳥が歌うや否や、王子様の羽が見る見る真っ黒になってしまいました。




 もやの発生源をこっそり見やった星樹は次の瞬間、ぞわりと背中を震わせた。

 魔物と目が合った。こちらを見ている。星樹を見ている。嗚咽を止め、じっと見ている。

 とっさに逃げそうになった体を強引に戻し、星樹は慌てて物語を続けた。




 黒い鳥が高笑いをしながら去ると、まだ歌っていなかった青い鳥が、急いで王子様の傍に舞い降りました。

 『王子様の呪いは必ず解ける日が来ます! これが私からの祝福です!』

 王様とお后様は、心から青い鳥に感謝をしました。けれど、不安は消えません。

 なんとか呪いを解こうと、良い薬があると聞いては東に飛び、優秀な歌い手がいると聞いては西に飛びました。

 国の鳥たちも毎日たくさんの歌を歌いました。

 しかし、どんな方法でも王子様の呪いは解けません。




 声の震えを抑えるのに必死にならざるを得ない。

 怯えたら負けだ。恐怖を声に乗せてしまったら負けだ。




 立派だった王様の羽は飛び続けたせいでぼろぼろに。歌い疲れたお后様の声は枯れてしまいました。

 あんなにも明るかったお城は、今は真っ暗闇の中のようです。

 王様は夜空に向かって、チーチチチと泣きました。

 『あぁ、王子の呪いが解けるのなら、どんなことでもするのに!

  王子が幸せになってくれるなら、私の命など惜しくはないのに!』

 すると、突然星たちがぴかぴかと光り始め、お月様がゆっくりと降りてくるではありませんか。

 驚く王様の前で、お月様は銀色に輝く女の人の姿になり、にっこりと微笑みました。

 『私は月の女神です。

  あなたがたの王子を思う優しさに、心を打たれました。

  呪いが解けるその日まで、私が王子の眠りを護りましょう』

 月の女神様が真っ白な手を振ると、王子様のお部屋は夜空のように輝き出しました。

 『この呪いは、千の昼と万の夜を越える長きもの。

  ですが、必ず解けて、王子は喜びを歌えるようになります。

  鳥の王よ。安らぎの歌を歌い継ぎなさい。

  優しい愛の歌が満ち、王子の眠りが続く限り、この国の平和を約束しましょう』




 本の陰で、魔物が四つん這いになって嬉しそうに歩き出すのが見えた。星樹に向かってくる。


「っ!」


 耐えられたのはそこまでだった。喉の奥から声にならない悲鳴が漏れる。息が詰まり、声が途切れる。

 途端、魔物の動きが止まった。笑顔が崩れ、泣き顔に変わり、再びもやが体から濃くにじみ出す。

 このままではまたあの蔦が発生してしまう。星樹は急いで書面に目を落とした。が、なぜかどこまで読んだのか思い出せない。どこから読んだらいいのかわからない。気ばかりが焦る。目頭が熱い。


(どうしよう……どうしよう……っ)

「ほーら、泣くな坊主」


 そのとき耳に滑り込んできたのは、国王の声。見れば、彼は剣をおさめ、躊躇なく魔物を抱き上げたところだった。

 上に乗られた花漣が呼吸困難に陥ったくらいだ。やはり重いのだろう。両腕のみならず全身に力が入っている。それでも彼は体を揺り動かして魔物をあやし続けた。普通の赤ん坊のように。


「ぶってしまって悪かったな。まだ痛いか? ……そうか、痛いか。よしよし、では私がおまじないをかけてやろうな。痛いの痛いの飛んでいけー」


 すると魔物は、ぴったりと泣くのをやめ、国王を見上げた。すかさず、王が明後日の方向を見やる。


「おっ、痛いのは向こうに飛んでいってしまったぞ。おやっ、もうあんな遠くに……あぁ見えなくなってしまったなぁ」


 きょろきょろと辺りを見渡す魔物の形をした赤ん坊を揺らし、


「どうだ、もう痛くないだろう? よぉく我慢したな。偉いぞ」


 国王はその背中をぽんぽんとあやす。

 やがて揺れと背中を撫で叩く振動とで安心してきたのか、魔物がぴとりと国王の胸に頬をうずめた。甘えるようにすり寄る。


(……落ち着いた……?)


 黒い体からは、蔦はもちろん、もやも出ていない。おとなしく国王に抱かれているだけだ。どうやら本当に一段落ついたらしい。

 星樹は息をつき、いつの間にか本を握りしめていた手から力を抜いた。膝の上に置き、本を閉じる。

 しばし、無言。

 やがて少しばかりの不安がよぎり始めた頃、静かに揺り動いていた国王がようやく顔を上げた。花漣を見やる。


「歌姫。歌えるか? 『国守の聖歌』を」

「今、ですか?」

「ああ。今だとも」


 その声にためらいはない。どうやら国王も、この再封印の儀式が持つ意味に気づいたのだろう。

 ただひとり、魔物の心に気づき、案じ、しかし事態を理解できていないがゆえに戸惑う花漣の、その手を握り、星樹は促す。


「歌ってあげて、花漣。あなたにしかできないことよ」


 困り顔で迷っていた花漣だったが、やがて決心の色を表情に浮かべ、立ち上がった。まっすぐに国王たちに向き直るなり、一瞬で集中が高まる。




   眠れ 眠れ いとし子よ

   お月様の揺りかごで




 それは、『国守の書』に童話とともに記されていた、題名のない歌。

 やはりあれが『国守の聖歌』だったのか。




   千の花が 微笑むのは

   万の星が 輝くから




 花漣の歌声に合わせて、国王が赤ん坊を揺りあやす。

 ただただ優しい光景。

 ――なぜだろう。目の奥がつんと痛い。




   眠れ 眠れ かわいい子

   鳥が歌う子守歌




 一番が終わったところで、花漣が止まった。見上げた星樹に、微笑みを向けてくる。


「星樹、笛を吹いて」

「えっ? でも……」

「お願い。星樹の笛があったら、きっと、もっと上手に歌えるから」


 聖歌の邪魔にならないだろうか。心配し、国王を窺うと、彼が柔らかな笑みのままで頷いた。

 国王の許可は出たが、本当に大丈夫なのだろうか。

 不安は消えない。それでも、効果に問題が出たらすぐに演奏を止めれば済む話なのかもしれないと腹をくくると、星樹は本を足元に置いて立ち上がった。帯から白木の笛を抜き、指を位置に合わせ、持つ。

 星樹は目を閉じた。本に書かれていた楽譜を脳裏で一通りなぞると、合う音を選び、旋律を組み立てる。


(大丈夫。きっといい音楽を奏でられるわ)


 自身に言い聞かせるようにして心を決めると、唇に笛を当てた。再び目を開け、傍らへと視線を向ける。

 深くなった花漣の微笑み。

 言葉のない合図。

 星樹は下腹に力を入れるように息を吸った。

 星樹の笛と花漣の歌が、室内に響き渡り、柔らかく溶けてひとつになる。

 伴奏の旋律は即興で作ったものだ。当然合わせるのも初めてだ。なのに、どこで強弱をつけるのか、どこで息継ぎをするのか――花漣の歌がわかる。星樹の演奏が伝わっている。

 楽しい。嬉しい。心地いい。この、胸の温かくなる気持ちが、あの魔物と呼ばれる子供にまで届けばいい。

 癒やしと無償の愛でできた歌を、心を込めて奏で続ける。

 すると、赤ん坊が国王の腕の中で身じろぎした。小さな口で大きなあくびをして、目蓋をぴったりと閉じる。

 変化があったのは、そのとき。天蓋に吊されている遮光幕が、ひとりでに揺れながら広がり始めた。壁に、天井に、床に、さらに廊下、その向こうにまで広がり、景色が紺色で覆われていく。まるで夜が訪れるように。無数の宝石が輝く様は、光景と相まって本物の星空のようだ。いや、それだけではない。遮光幕が広がったことで、天蓋につけられた大きな飾りが現れていた。それは三日月型の大きな水晶細工。

 天にかかる月そのものの色で輝き始めるとともに、歌が終わる。星樹もまた、ゆっくりと笛に吹き込む息を抜く。残響がやんわりと空気を揺らし、静けさを残して優しく消えた。


「あぁ、よく眠っている」


 国王が、ゆっくりと天蓋の下に置かれた箱へと向かうと、中へ赤ん坊を降ろして横たえた。そうして顔を星樹たちに向け、起こさないよう囁く。


「ありがとう、姫たち」


 その微笑みと言葉で、星樹の肩から重いものが落ちた。本当に終わったのだ。再封印に成功したのだ。これで国に平和が戻るのだ。安堵と、他にも様々な感情に揺さぶられ、自然と頬が緩む。

 不意に温かい感触を手に受けたのは、そのときだった。驚き、振り返ると、笑顔を浮かべる花漣がいた。


「伴奏してくれてありがとう。やっぱり星樹の笛はとても素敵ね」


 どんなにきつい言葉をぶつけても、花漣はいつもこの笑顔で礼を言うのだ。星樹が嫌っていることを薄々は勘づいていそうなものなのに、こうして近寄ってくる。どうしてそんなことができたのだろう。いや。それよりも、ずっと彼女の好意を無碍にしていたことが申し訳なくてたまらない。

 星樹は笛を帯に差し、花漣に向き直った。


「私、あなたに謝らないと……」


 小首を傾げるその無邪気さで、罪悪感がさらに煽られる。たまらず、星樹は顔ごと目を伏せた。


「さっき。あなたが、蔦に絡め取られて消えてしまったとき。私……ほっとしたの。私の前からあなたがいなくなって、ほっとしたの。あなたが死んでしまったと思ったら、ほっとしたの」


 握った手から、己の震えが伝わってくる。


「私、ずっとあなたのことを誤解してた。いいえ、あなたのこと、ちゃんと見ようとしてなかったっ。歌姫になったのは偶然でも、歌姫として頑張ってたのは、あなた自身の力なのに……っ」


 視界が緩み、涙が床に落ちていく。


「ごめんなさいっ。私、あなたの才能に嫉妬してたんだわっ。きっと、自分で思ってる以上に、あなたのこと傷つけた……。本当に、ごめんなさい、花漣っ」

「星樹……」


 歪んだ視界の中で、花漣が杖を手放した。そうして空いた手を、さまようように星樹へと伸ばしてくる。星樹の、頬に。


「泣かないで。わたしは傷ついてなんかいないから。だから、そんなふうに泣かないで」


 顔を上げると、不器用な仕草で涙をぬぐいながら、今までに見たことのない微苦笑をする花漣がいた。


「星樹は、いつだって優しかったわ。わたしの目を、一度だって哀れんだりしなかった。普通の子たちにするのと同じように接してくれた。先生たちに甘やかされてるって、悪口を言ったりもしなかった。私に悪いところがあったら、ちゃんとわたしに向かって、叱ってくれた」


 閉じた目蓋の端から、涙がこぼれ落ちる。


「星樹は、優しいわ。だからわたし、あなたの優しさに甘えるばっかりで、あなたの気持ちにぜんぜん気づいてなかったのね……。わたしこそ、ごめんなさい」


 花漣が両手で星樹の右手を取り、握りしめた。


「だから、おあいこ。ね? もう謝らないで。わたし、星樹に泣いてほしくないわ」


 そう言う彼女の表情は、すでにいつもの微笑みに戻っていた。

 赦してくれている。

 わかるから、余計に涙が止まらない。


「花漣っ」


 驚く彼女の体をおもいきり抱きしめて、星樹は震える声のままではっきりと続けた。


「もう絶対に間違えないからっ。だから私、あなたと、本当の友達になりたいっ」


 腕の中の硬直はわずか。耳元で自分とそっくりの震える息を感じたあとで、背中に温かい感触がした。

 何度も頷き、抱きしめ返してくれる手の優しさに安堵する。

 そんな視界の端に、こちらを眺めて幸せそうに微笑んでいる国王の姿が見えたのが、照れくさくも、嬉しかった。

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