自殺考察
「自殺をするなら銃で喉を撃ち抜くのが一番よね」
「いきなり君は何を言うんだ」
「だってそうでしょう?自殺する人間が求めるものは苦しみしかないこの世からの解放だもの。だからこそ最も痛みのない、もしくは痛みを感じる間も無く死ぬことができる方法を選ぶのがベストだと思うの」
「そう言うことを言っているんじゃない。何で僕にそんな猟奇的な話を振って来たのかと聞いているんだ」
「あなたがいかにも死にたそうな顔をしているからよ。まるで屠殺されるのを延々と待ちすぎてスマホゲームにはまってしまった豚のような顔をしているから」
「それは僕が哀れな人間だと言いたいのか?それとも今月の僕の課金額を知っていてそれがあまりにも愚かだと言いたいのか?それとも単純に僕のことを豚野郎だと罵っているのか?」
「全部ね。あなたはどうしようもなく哀れでどうしようもなく愚かでどうしようもなく豚野郎だもの」
「君と知り合ってまだ半月しか経って居ないような気がするがそれは間違いだったかな?たったこれだけの付き合いで僕の何がわかると言うんだ」
「少なくともあなたの今月の課金額は知ってるわよ」
「どうやって調べたんだよ!」
「家に届いてた封筒に書いてあったわ。学生の身分で月に三万円は過ぎた贅沢じゃなくて?」
「他人宛ての封筒を勝手に開けるな!」
「そんなことよりあなたは他に良い自殺方法は思い浮かぶかしら?」
「話をすり替えやがって」
「むしろ話をすり替えたのはあなたのほうじゃない」
「そういえばなんで喉なんだ?こめかみを撃ち抜くイメージの方が僕的には強いんだが」
「どちらも”ほぼ”死亡に至るのは変わらないけど、こめかみに撃つより喉から上に向かって撃った方が確実に脳を破壊できるからよ。聞いた話だとこめかみの場合は運が悪いと頭蓋骨によって銃弾が止まったりして脳死に至らないことがあるみたいよ。銃の中でも威力が小さい拳銃での場合だけどね。やっぱり理想はショットガンをぶっ放すのが一番かしらね」
「そんな知識を知ってなんの役にも立たないぞ」
「全くもってその通り、強いて言うなら小説を書いたりする時に役立つかもね」
「何の話をしているんだ?」
「別に。でもこの方法には致命的な欠陥があります。ズバリなんでしょう?」
「欠陥?何だろうな。思いつかないよ。確実に苦しみが少なく死ねるなら自殺の方法としてはベストなんじゃないか?」
「なんて頭が硬いのかしら。そんなんだとこめかみを撃っても死ねないわよ」
「今のところ自殺願望はないから大丈夫だよ。それより答えを教えてくれ」
「あらノって来たわね。正解は日本で手に入れられないことです。正確には手に入りづらいってところね。免許があれば猟銃や競技用ライフルは手に入るし、自衛隊に入って銃を手にした瞬間に実行に移せば日本国内でも銃での自殺は可能だけど、あまりにも徒労が過ぎるわ。それだけ頑張れるのならば自殺する必要なんてないもの」
「確かにそうだな。僕たち一般的な学生にとって銃なんて空想の中のものだと言ってもおかしくない」
「そうでしょう?だから私は日本人が日本国内でできるベストな自殺の方法が知りたいの」
「まさか実行に移す気はないだろうな」
「今のところはね。でも知識として知っておいても悪くはないでしょう?ただ私が恐れているのはこの小説が自殺教唆だとか言われてネットから消されてしまわないかと言うことよ。まぁ見る人もそうそう居ないだろうからそこまでおっかなびっくり書くこともないでしょうけど」
「さっきから君は何を言っているんだ?」
「気にしないで。それで、あなたに何か良い案はないかしら?」
「そうだな……練炭自殺はどうだろう?自動車の中て七輪で木炭を焚くってやつ。よく聞くし、効果的なんじゃないか?」
「却下よ」
「なんでさ」
「無知というのはやはり愚かなことね。良い?練炭自殺はいわゆる一酸化炭素中毒による自殺なのだけれど楽に死ぬことができるのは高濃度の一酸化炭素を一気に吸引した場合のみよ。ゆっくりと一酸化炭素濃度が上がる場合は地獄を見るわ。まず末端神経が麻痺して手足を動かせ無くなる。この時点でもう逃げることは不可能ね。そして次に起こるのが強烈な吐き気と頭痛。そして次第に呼吸ができなくなって死に至る。どう考えたって死に至るまでが苦しすぎるわ。やったことはないけど資料を見ているだけでも吐き気がしたわ」
「見たのか。資料を」
「もちろん。私は苦しみのない自殺を提唱します!次!」
「うーん。じゃあ七輪つながりで焼身自殺はどうだろう?」
「あなた、やっぱり豚ね」
「酷い!」
「酷くない。酷いのはあなたの思考よ。苦しみのない自殺をと言っているのになぜ一番苦しい自殺方法を上げるの?頭がおかしいんじゃないの?この課金豚!」
「課金は関係ない!僕も楽しんでゲーム会社も設けられるWIN-WINな関係じゃないか!……で、そんな苦しいのか?焼身自殺って」
「苦しいなんてもんじゃないと思うわよ。だって焼身自殺の死因は衰弱死だもの。皮膚の大部分が焼失することによって身体から水分がなくなり脱水症状になる。そして衰弱死するっていう過程らしいわ。ネットで見たけど、灯油を被って火をつけてそのまま三十メートル歩いて絶命したなんて話があったわ。三十メートル燃えながら歩くのってどんな気分なのかしらね。絶対にしたくないことの一つだわ」
「そんな壮絶なものだったのか……いや考えを改めさせられたよ。火拳のエースに憧れた僕だけど流石にそこまで本格的なコスプレはしたいとは思わないな」
「焼身自殺をコスプレと言えるあなたの神経が分からないわ。ちゃんと真面目に自殺について考えて」
「なんで自分がするわけでもなくそんなことを考えなくちゃいけないんだろう……?」
「さぁ次よ。ハリーアップ!」
「なんで外国人のテンションなんだ……じゃあベタに首吊りはどうだろう?」
「あなた、あまり思いつかなくなって来たでしょう?」
「あ、バレた?だってこんなこと考えることなんてなかったし、ドラマで見るような方法しか思いつかないよ」
「ドラマといえば投身自殺は思いつかないの?二人の恋人が追い詰められて影に飛び降りるってやつ」
「君と一緒はごめんだな」
「あらダーリン、そんないけずなこと言わないで?……おえっ。自分でやってて吐き気を催したわ」
「自業自得だろ。でどうなんだ?首吊り」
「うーん悪くはないかもしれないけどやっぱりインパクトにかけるわね。比較的楽に死ねそうなイメージはあるけどやっぱり苦しい時間があるだろうし、もう少しアピールポイントが欲しいってところね」
「何のアピールだ。何の」
「首吊りさんにはもう少し頑張っていただきたいところね」
「なんだその新しい妖怪は。一反木綿的な何かか?」
「海への投身自殺さんは論外ね。死ねない可能性の方が高そうだもの。ビルの上からとか電車に飛び込む方の投身自殺さんは結構優秀なんじゃないかしら?残された遺族のことを考慮しなければだけど」
「なんだか妖怪大戦争みたいになってきたな」
「そうね。海外の勢力、拳銃自殺さんが日本に襲いかかる姿が見えるわ」
「それは一大事だな。日本勢力は負け必至だ。負けたらどうなるんだ?」
「日本国民全員が拳銃自殺する」
「それは何とスプラッタな」
「くだらない話はやめましょ。あなたのバカが感染る」
「君だってノリノリだったじゃないか」
「あなたがあまりにも可哀想だったから乗ってあげただけよ」
「ひでぇや。それで結局どうするのが一番良いんだ?」
「そうね。自殺なんてしないのが一番じゃないかしら」