61.無限牢獄
気軽に感想いただければ作者のモチベに繋がります!
よろしくお願いいたします。
イルダを治療カプセルへ移動させた俺は、暫くの間目を瞑り深呼吸をした。
まさか異世界に来てまで、あんなおぞましい物を見てしまうとは…流石の俺も今回は堪える。
『バイオインプラント。 我々の技術レベルに到底及びませんが”彼等彼女らを使う”為であれば、効率的な手段です』
「使うか…」
相手の人間の殆どは20代前半で、戦闘経験は皆無の素人ばかりだ。
加えてあの迷彩服は纏ったギアを隠す為のカモフラージュだろう。
人間を物の様に扱う。
まるで3年前の光景を再び目の当たりにしている様な気分だった。
『艦長。 もう一度問います。 本当によろしいのですね?』
何度も問いかけて来たアルジュナは再三同じ言葉を繰り返した。
恐らく俺の身を案じての事なんだろう。
だが、俺の意志は揺るがない―――何故ならこんな思いは他の連中にさせたくはないからだ。
これは俺のエゴでしかない。 非人道的な行為だが、奴らに残された道は”それしかない”
ディスプレイに目を通した俺は呟く。
「インプラント排除後の救出確率0%」
残念ながら俺達の技術レベルでも彼等を救う手立てはない。
いや、正確に言えば…脳に直接埋め込まれたインプラントを排除できたとしても、その後遺症は計り知れないものだ。
「皮肉な事に。 ナノマシン治療も、イルダの様な遺伝子レベルが異なる存在でなくては受けられない」
『はい。 我々の技術は人ならざる存在に特化したものです。 ですが―――』
これもまた皮肉な事だが。
”この世界の人間”であれば話は変わって来る。 何故なら魔力というものを宿しているからだ。
だが、今回の相手は正真正銘”ただの人間”。
どうあがいても救う手立てはない。
「こういう時。 正義のヒーローが居てくれれば、丸く収まるんだろうけどな?」
『―――そうですね。 ですが、あの悪夢の様な光景を再び実現させる訳にはいきません。 例え非人道的な行動であっても』
「解ってる。 ただ言ってみただけだ。 いくぞ…」
『――はい』
―――――――――――
俺は巨大な門の前へやって来た。
見れば見る程、不可解な構想だ。 どうやって自立しているのか謎が深まるばかりである。
俺の予測が正しければ…目的の人物と接触できるだろう。
ガチャ…ギィィィ!
『目標。 来ます』
「了解」
さて、どんな奴なのかご対面といこう。
「おや? これはこれは、お客様とは珍しい」
白いタキシードに身を包んだ仮面の男が門の向こうから現れた。
ん? 誰だ? 報告と異なる人物だが、なにやら異様な気配を感じる。
「で? 単刀直入に聞きたい。 お前は何者だ?」
「私ですか? そうですね~ゴミ処理担当とでも名乗っておきましょうか」
「ゴミ処理担当?」
「えぇ。 例えば、貴方のようなねぇ!!」
男は突然、剣を手にすると俺に斬りかかって来た。
「おっと…」
が、既に予測済みの俺はギリギリの所で避ける。
「!? ほぉ~? では、これでどうですかね? ふぅん!」
再び俺の懐に潜り込んだ男は鋭い突きで俺の頭部を狙う。
っと、こんな事をしてる場合じゃないんだがな?
「で、だ。 この門の正体が何か聞いても?」
「!?!?」
攻撃をかわしながら俺は男に尋ねる。
なに、アルジュナのガイド通りの攻撃を繰り出してくれるもんだから…予想に反していたというか…まぁいい。
「成程…ほぅほぅ。 貴方が例の危険人物ですか」
すかさず距離を取った男は再び口を開いた。
一体何がしたのか、俺には解らん。
「危険人物?」
「えぇ、噂はかねがね。 やはり、実力行使ではどうにもなりませんか。 やれやれ、これは困りましたね」
「で? 解決しそうか?」
「えぇ。 問題ありません。 では、次の手段と行きましょうかね? こちらへどうぞ、お客様」
何を思ったのは手招きした男は門の中へ入る様、指示してきた。
門の中へ入れと?
しかし、目の前は黒い靄の様なものが発生していて、中の光景なんて見えたもんじゃない。
「入れと?」
「えぇ!」
『艦長、危険です。 罠の可能性もあります』
だが、折角の機会だ。 門の中へ侵入してみるとしよう。
中がどうなっているのかも気になるしな。
「しゃあねぇ、入って見るか」
「どうぞどうぞ~こちらへ」
ギィィィ。 バタン!
―――――――――――――――
目の前に広がる光景。
それは俺の予想を遥かに超えるものだった。
地球じゃない?
いや、これは寧ろ…
「無限牢獄、我々はそう呼んでおります」
「無限牢獄…」
果てしなく続く牢獄、うめき声の様なものも聞こえれば…叫び声も聞こえてくる。
更には何かを恐れるような声――
「どういう事だ?」
「成程~ここへ侵入しても問題ない。 という事は”大罪者”ではないという事ですか。 ふむふむ、興味深い。 これ程までに人を殺めて居ながら…罪人ではないと? ほぅほぅ~」
「ん?」
男の口振りからして、やはりここへ侵入させた理由は碌な事じゃないらしい。
大罪者? どういう意味だ?
「全く。 おい、さっさと説明しろ」
カチャ。
銃口を男の額に当てた俺は「全部な?」とだけ告げ、男を睨む。
『だから言ったではないですか、罠だと』
というか、アルジュナ。 何処でも通信を飛ばしてくるんじゃねぇ。
ん? まて!? お前、こんな意味不明な所でも通信を?




