37.どちらにも非がある
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「まじかよ」
目の前の映像を見て俺はそう呟いた。
『艦長。 ちとこれは、多くないですか?』
「多いって言うか…凄い数ですよ! ご主人様! こんなんどうやって対処するんですか! ご主人様!?」
相手の数はざっと見積もって6000強。
魚の様な頭で緑色の鱗を体中に纏ったそいつらは、充実した装備を手に大群で押し寄せていた。
問題はそこじゃない。 流石のシャークとクラーケンでもあの数を相手にするのは難しい。
勝ち負けの問題ではない、あれだけの数だ。
広範囲に渡る殲滅兵器を搭載していないシャークにとって、これほど分の悪い戦いはないだろう。
しかし、サフィーニアの情報によれば魚人族は水中でかなりの機動性だと聞く。
となれば…奴らを振り切って人魚族の街へ侵入を許せば―――
『恐らく。 戦闘力の低い人魚族は敗れるでしょう』
「だよな」
どちらかと言えば、人魚族は知識に長ける存在であり…基本的に平和主義者の集まりだと言う。
まさに真逆の魚人族にとってこれ程のチャンスを逃す筈が無い。
「奴らの目的は1つです。 私達の身体なんですよ!!」
「「………」」
一瞬、助けるのを止めようかな? なんて事も考えた。
が、一度引き受けた手前、今更感が否めないというか―――
再び俺はディスプレイを操作し、音声のミュートを解除した。
「くそぅ! 俺達にだってその権利はある筈だ! 何故奴ら人魚族は亜人を好む! 特に人間が好みと聞くでは無いか! 何故だ! 何故我らに1人として言い寄って来る人魚族がおらぬのだ!」
「お、落ち着いて下さい! 王よ!」
「これが落ち着いていられるかぁぁぁ!! 確かに、我ら魚人族はこうやって静かに生き長らえて来た! しかし! しかしだ! こうして近くに居て…このように存在している我らが何故嫌われる!! 私は忘れんぞ! 人魚族のあの言葉を!」
怒りに我を忘れた魚人族の長と思われる人物は続ける。
「500年も前の話だ! サフィーニア・ローレライに言われたあの言葉を忘れるわけがないだろう! 「あら、ごめんなさい? わたくし、魚人族には興味ありませんの。 だって顔が魚なんですわよ! 無理! 絶対無理!!」等とぬかしおってぇぇぇ!!」
え~端的に説明すると。
元々共存していた筈の人魚族と魚人族は目の前の彼女、サフィーニア・ローレライに惚れた魚人族の長が玉砕した結果。
この様な状況になった様である。
いや”2人のせいで”と言うべきか、ベラベラと昔の話を長が話してくれるお陰で色々助かる。
事の発端は彼の玉砕から始まり、人魚族の長…サフィーニア・ローレライと魚人族の長様との長きにわたる戦いが幕を開ける。
「あの女はこう言ったのだ! 私が人魚族の女性を片っ端から狙っている獣の様な奴だと! そこで奴は言った! あの女は全魚人族の顔が気持ち悪くて見ていられないとな! どうだ!? 酷いだろう!? そう思うだろう!?」
「え、えぇ! 確かに! 許せません! 我らを侮辱するような、その様な発言!」
思わずため息を付いた俺は本人に尋ねる事とした。
「なぁ、サフィーニア? なんか魚人族の長が、お前が全魚人族の顔が気持ち悪くて見ていられないとか言ってたって話になってるけど?」
「はぁ!? 何をおっしゃいますか! そんな訳はありません! あの魚人族の長! グレイプが特別気持ち悪いんですわよ! あんな野蛮な見た目のクサレ魚野郎だけですわ!」
とまぁ、この様に怒り心頭の彼女は毒を吐く様にそう告げる。
再び映像に目を向けた俺は思わず頭を抱えた。
『まさか、戦争の原因が男の嫉妬とは―――』
「それだけじゃねぇだろ?」
ジッと俺はサフィーニアを見つめた。
こいつもこいつでグレイプって奴が相当苦手なのか、あいつの話になると我を忘れた様な態度に変貌する。
お陰で、先程までの様に正常な判断が出来ていない様子だ。
と、なると―――話しの大筋は見えて来た。
「クッソぉぉぉ! 難しい! これは非常に難しい!」
はい、全部殲滅なんて簡単な話で終わればいいが、今回ばかりはそうもいかない。
魚人族も溜まりにたまっているものがあるんだろう、今にも突撃してきそうな勢いだ。
しかし、あの様子だと話し合いに応じる訳もなく。
『クラーケンが出て行っても無理ですかね?』
「無理だろうな…あれは完全に血迷ってる」
『あらら…』
出来れば傷つける事無く、穏便に戦いが始まる前に無力化したい所だ。
だが、残念ながらうちの連中はどれもかれもが殺戮用の兵器しか積んでいない。
無力化どころの話では無くなる―――いや、方法が無い訳じゃない。
あるにはある。 が―――
『彼らを呼ぶのですか?』
「彼ら?」
首を傾げるサラと心の底から嫌そうに発言するアルジュナ。
アルジュナの発言が全てを物語っていると言っても過言ではない。
奴らを…奴らを要請する他ないのか!
震える手を必死に抑えながら、俺はディスプレイを操作し『要請』ボタンを表示させる。
『艦長。 他に方法が――』
「あるのか?」
『………』
反応が無い。 という事はそういう事だ。
敵の数は6000…そいつら全てを無力化する事が可能な奴らはあいつらしか存在しないだろう。
『艦長!? もしかしてあいつらを呼ぶ気ですか!? か、考え直したほうが!』
「地上のあらゆる環境、海中全てに対応でき、空中での動作も難なく熟す、宇宙空間での戦闘を可能にした存在―――」
これだけを聞けばとても素晴らしい存在にも思える。
しかし―――
「武装の総数は数知れず。 あらゆる環境に対応する為の追加装備まで大量にある。 しかし! ガーンデーヴァに積んでいる装備は殆ど奴らの物! 次元格納では対処しきれない量と奴らの移動用のビークルから小型船舶、戦艦…上げればきりがない! 低コストでお喋りで…もろくて…割を食う奴ら!”WLAH(無線部隊)を呼ぶ!! いいか、呼ぶぞ? 今すぐ呼ぶぞ!?」
震える手を抑え、必死に目の前のボタンを押す決意を固める俺。
『艦長、押すのですね? 押すのですね?』
『まじか~…だったら帰った方がよさそうですね…』
「WLAH?」
無線LAN…では無く、無線部隊…これは俺がソレっぽく略したものである。
「はぁ…」
ポチッ。
俺はゆっくりとボタンを押した。
ピピッ!
『WLAH部隊へ出撃要請。 目的地はこちらで自動設定致します。 水中用パックを装備後、直ちに専用ビークルへ搭乗を願います―――出撃時間は約5分。 ―――さぁ? 文字通り――”馬車馬”の様に働きなさい? クズ共がぁぁぁぁぁ!!』
キー――ン!!
久々に聞いたアルジュナの叫びのせいで、耳鳴りが酷い。
『『『『『『サー! イエッサ――!!』』』』』』
W=Work
L=Like
A=A
H=Horse
略してWLAH。
意味は”馬車馬のように働く”である。
「ば、馬車馬隊…」
「馬車馬隊!?」




