―Side― 深淵の闇
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とある城の一室で膝を付いたリールイとハイリアの両名が何かを訴えかけていた。
「何故ですか! 何故私達を見逃すようにあの男と取引を!?」
「そうです。 勝算は―――」
リールイ、ハイリアの両名は興奮気味にそう告げる。
無理も無いだろう。 今までの行動を顧みても、我ら魔族に敗北という文字は無かった。
しかし、奴の存在を知った我は考えが変わった。
「勝算など無い。 ゼロだ」
「「っ…」」
言葉に詰まる2人を尻目に再び口を開く。
「我がここまで言う理由―――実際に目の当りにしていないお前達に説明する事は難しいだろう。 だが、これを見てもそう言えるか?」
懐から取り出した水晶を彼らの前へと放り投げた。
「う、嘘だ。 そ、そんな訳は!」
「あり得ない…煉獄に侵入している!?」
「それだけではない。 奴は煉獄という過酷な環境下でもなんら平常な状態だった。 それに加え…ハイリア? お前の力が急激に弱まった原因もこれだ。 ほぼ全ての”魔獣”が狩り尽くされた。 たった1人の手によってな?」
「あ、あ、あ…」
流石の彼女も馬鹿ではない、奴がどういう存在であるかを認識したようだ。
「ハイリアよ。 策としては間違ってはおらん。 しかし、奴が異常なのだ」
「で、ですが…どうして貴方様は奴の情報を?」
「ん? あぁ、逃げ帰ったベルザードの近衛兵から聞いたのだ。 なにやらとんでもない化け物が現れたとな?」
遡る事数週間前の事である。
謀反を起こしたベルザードが、あの死の森を拠点に人間界へ攻め入ろうした。
強情なあの男であれば残虐な行為も厭わない、そう考えた我は直ぐに衛兵を向かせた。
だが、そのすぐ後である―――事件は起こった。
血相を変えたベルザードの近衛兵がこちらへ引き返して来たのだ。
そこで兵の話を聞いた我は軽率な行動を取るまいと慎重に物事を進めてきたつもりだった。
しかし、まさかそれが”あのエルフの女王”の護衛とは―――もう少し注意深く行動するべきだったと後悔した。
そして、かの英雄パーティーとエルフの女王がダンジョンへやって来ると知った我は、持てる力の全てを駆使して奴の動向を探ることにした。
が、それでも結果―――全てを知る事は不可能であった。
「遠目で見ていてもわかる。 あれは”完全に遊んでいた”」
「「……」」
「魔獣相手にだぞ? 腐っても我らが手塩に掛けた魔獣達だ。 それがほんの1時間で…」
今思い出しても何が起きたのか理解出来ない。
だが、唯一の救いはアレが我らにそこまで敵意を持っていないという所だろうか。
話せばわかる、そんな様な人物であったのは確かだ。
「故に厄介なのだ」
あの手の人間は我らを敵とみなせばたちまち牙を剥く。
色々とあの男に説明をしておけばよかったと後悔すら始めている。
いや、駄目だ。 あの場で長く話し込めば要らぬ誤解を生むだけ。
「くっ…」
今まで感じたことの無い感情に我は戸惑った。
何を考えようにもあの男の顔が目に浮かぶ、まるで何かも筒抜けの状態になっている様だ。
実際はそんな事など無い。 あの男は適当に、目の前で起こっている事を普通に処理しているに過ぎない。
だとすれば―――
「ふっ。 我が恐怖しているか…」
長年生きてきて、この様に感じたのはヤツが初めてかもしれない。
恐怖―――そんな言葉で片付けていいものではないのだろう。
あまり強大で、まるで力の暴力を目の当たりにした我は考え方を改めた、と言っても過言ではない。
「となれば、直接あの男の元へ出向く他無い…か」
「!? う、嘘ですよね! 行くというんですか!?」
「何を慌てている? 元々聖女の捕獲は”破壊派”の連中の指金であろう? こちら側の目的はあくまでも”保護”だった。 故に我らの存在をあの男に説明すれば、あるいは――」
こちら側に引き込める。
そう考えた我は指を鳴らす。
パチン!!
「集まれ! 我が眷属共よ! そして心して聞くがよい! 今から我は! かの者と話し合いをしようと思っている! という訳で!! 魔界の特産品をありったけ持ってこい!! 今すぐにだ!!」
「「「「え…?」」」」
「気が狂ったのではないぞ? この任務は過去最大物となる事だろう。 失敗すれば我らは全滅する」
我の真剣な表情を察してか、全員は息を呑んだ。
「ふっ、憶するでない。 この魔王ハーデスが直接向かうのであるからなぁ! はははははは! あ、後…お前ら2人は留守番で。 絶対に付いて来るでないぞ? 話が拗れるとな…後で厄介だ」
「「は、はい…」」
「という訳で! 魔王軍が四天王達よ! 特産品を集めて再び集まるがよい! 直ぐに此処を発ち! 死の森へ向かう! 武装はするな? 変に警戒されたくはない。 では―――はじめ!!!」
「「「「はっ!!!」」」」
―――――――――――――――――――
とある森の中、全身ローブ姿の者達が全速力で道なき道を進んでいた。
「はぁ…はぁ…どうなってるんだ! どうなってるんだよこれ!! あんな生物が生息しているなど、聞いたことが無いぞ! クソ! こんな森へ迂闊に侵入するのではなかった!」
「ま、待ってくれ! 頼む!! 助け―――ぐぁぁぁぁぁ!!」
「ガオォォォ!!!」
立派なたてがみの獣がローブの人物へ噛み付く。
「ぐふっ…だ、誰か…」
「逃げろ…逃げろ逃げろ逃げろぉぉ!!!」
あまりの恐怖に襲われる人物に目もくれず逃げ帰る者達。
だが――
ドゴン!!
「ウホッ…ウホ!! ウホォォォ!!」
ゴンゴンゴンゴン!!
黒く腕の太い獣がローブの者達へ立ちふさがる。
「くそっ! どうなってるんだ、この森は!! 別動隊は!?」
「は、反応がありません…」
「嘘だろ…やられたというのか!?」
ローブの男は空を眺める。
「なんだ…あれは…」
巨大な翼の大きな口ばしが特徴の黄色い鳥。
無数に飛び交うソレを見て思わず言葉らを漏らす。
「どこだ…ここは…俺達は一体。 何処に足を踏み入れたのだ?」
「た、隊長!! う、後ろからも!!」
「な、なに!?」
「パォォォォン!!!」
ドシン、ドシン、ドシン!!!
「意味が解らない。 俺達はこの森を手にする為に―――命令を―――それが―――」
迫る獣達を前に恐怖した男は錯乱していた。
まるで別世界の光景に、ただひたすら混乱させられるだけであった。
―――――――――
その頃。 同じ森の西側では――
「ギャーーーオ」
ドシン、ドシン、ドシン、ドシン!
地響きと共に真っ赤なソレがローブの者達へ迫る。
「なんだよこれ!! なんなんだよあの化け物は!! くそ! 振り切れない! 誰か…誰か!!!」
次々と木々をなぎ倒し、迫ってくる大きな顎が特徴の13mもある巨大な化け物。
「ひぃぃ! 違う、違う! 我ら魔族がたかが魔物などに! くそくそくそくそくそ!! 何故だ! 何故―――」
瞬間その者の身体は宙を舞っていた。
いや…その化け物に身体を真っ二つにかみ砕かれた。
「ばか…な…」
―――――――――
森の北側では。
「ワオォォォン!!!」
群となした白の獣は吼える。
「ワーウルフ? 違う…なんだこいつら! おい、皆! 何処へ行った! おい!! なんだよこれ…別動隊…くそ…魔力が…」
膝を付いたその時、その人物はその場から一歩も動けなくなった。
何故なら。
氷の上を歩いているとはつゆ知らず、透き通った氷の真下には白黒の見たことも無い生物が口を開けて迫っていたからである。
「うそ…だろ…」
――――――――――
南の森では。
水面から顔を覗かせる緑色の生物。
「ゴォォォォ…」
「くそ! なんで水に中にまで!! ふざけんじゃねぇ!! 来るな! 来るな!!」
その後ろから迫る樺色の生物は巨大な口を開き、その人物の後ろから迫る。
「後ろだと! 何時の間に!! 何故だ、何故こんな事に!!」
これも全部、あの方のせいだ。 この森を攻略しろ等と無理難題を押し付けてきたあの者達のせいだ、と男は思った。
「この森は異常だ」
引き攣った笑みを浮かべた男は両手を広げ水面へ浮かんだ。




