1.まずは家作り
前の力…と言っていいのか、戦艦そのものを引き継いだ俺は気持ちを入れ替えて、辺りを散策する事にした。
通信の感度も良好。 おまけにうちの連中は全員動けている―――それも、エネルギー源を全く必要としない状態で。
「核融合炉…まじでいってんのか?」
『はい。 どうやら次元の歪に突入した際、何かの拍子で搭載されたエンジンが変わった様です』
「変わったって…魔法じゃあるまいし」
『わかりません。 ですが、現段階で私達は”エイリアンコア”を必要としない仕様に変わりました。 これで廃棄は免れましたね?』
なんて冗談まじりに答えてくれたアルジュナさんは大きな問題に一切触れることはなかった。
『それでは艦長? 我らは要請があるまで待機。 という事でいいのでしょうか?』
「という事もなにも。 お前みたいな? 全長1200mもある巨大戦艦が降りて来てみろ!? それこそ問題になるだろが!」
『確かに。 それは盲点でした。 ここは異世界でしたね?』
「異世界…ねぇ」
嫌でも目に入って来る見た事の無い巨大なドラゴンから、2足歩行をする牛の化け物、おまけにかなり巨大なヘビまで居るじゃないか。
これを異世界なくして何というのか…
「で? 騎士達による情報は?」
『トリスタンの情報によれば、こちらの兵器が全て通用するとの事です』
「へぇ~通用すると」
『はい。 ガラハットの情報ですが、これら全ては艦長の見立て通り――モンスター、所謂魔物と断定しても間違いないでしょう。 それを証拠にこの様な物体が魔物の体内から検出されました』
俺の目の前に現れた半透明のディスプレイ上には、見たこのない黒色の宝石?の様な物の映像が映し出されていた。
なんだこれは?
「分析できそうか?」
『解りません。 我らの知りえる物質ではない事は確かです。 一度艦内へ持ち帰って解析を試みます』
「あぁ、頼んだ」
異世界か。
まさか本当に来てしまうとは…いや、まぁ実際は2回目なんだけど?
1回目のアレはノーカンと言うか、宇宙メインだったし!?
何やら新鮮味が溢れている。
「となれば家でもこの辺に建てるか~」
場所は違えど、当初の目的だった”のんびり過ごす”を実行できそうだ。
そうと決まれば家作りを開始するとしよう。
え? 異世界で不安は無いのか? そりゃまぁ…不安だらけで仕方がないが、流石に慣れたというか…宇宙よりも、こんな綺麗な空気が吸える環境でのんびり過ごせるなら文句はない。
「と言っても! とんでも魔法が使える訳じゃないから? 家の1つも建てられないんだけど!?」
嬉しい事に、ここは深い森のど真ん中だ。
ドラゴンやら何やらモンスターが多いが、まぁこの力が通用するならなんとかなるだろう。
「あ、そうか。 アルジュナ? 円卓の連中を少し寄越してくれ。 今から家をつくる!」
『木造のですか?』
「決まってるだろう。 木造に…」
他に何があるんだ。
『ドラゴンに焼かれる心配等は?』
「ふっ。 そこは大丈夫! 俺の船に腐る程バリアフィールド発生装置が残ってただろう! アレを使う!」
そう、俺は以前買いだめしていた”バリアフィールド発生装置”を有効活用しようと思ったのである。
『成程。 あの”無駄”に買った2000ものバリアフィールド発生装置ですか…後で届けさせるとしましょう。 設計図はこちらで用意させて頂いても?』
「あぁ頼む。 俺は~このレーザーソードで適当に整地しとく」
『ラジャー。 加工等はこちらにお任せください。 艦長は伐採をお願いいたします』
「はいよ」
俺は腰に差したレーザーソードの電源を入れる。
すると真っ赤に輝く刀身が出現、その後摘まみを捻り、レーザーの出力を落とした。
伐って燃えられたら困るからな。 これ位の調整で大丈夫だろう。
ブォン!
バタン!
ブォン!
バタン!
ほんと、ファンタジーな世界に馴染めない兵器だ。
まるで現実味が無いと言うか、剣と魔法の世界でレーザーソードを振り回している俺は異物そのもの。
数時間の時を経て。
彼等の協力の元、小さなログハウスを建てる事に成功した。
「うむ! 数時間でこの出来! 完璧だな、アルジュナ!」
『お褒め頂き光栄です。 ではバリアフィールド発生装置をお届け致します』
「あぁ」
そこで俺は思った。
あいつ…もしかしなくても2000個のバリアフィールド発生装置を持ってくる訳ないよな?
1個で十分なんだぞ? 1個で…
俺の悪い予想は見事命中。
上空からやって来た巨大な深紅の巨人が、10m以上の大きなコンテナを抱えながらこちらへ降りて来た。
ドスン!!
『アグニ! ご命令通り、バリアフィールド発生装置をお持ち致しました! 艦長!』
19mの巨大兵器は俺に一礼した後、コンテナを目の前に置き『では! 帰還致します!』とだけ告げ宇宙へ上がっていった。
「いや、待って? 待って? やっぱりコンテナ事じゃねぇか! ふざけんな! おい! 戻ってこい、アグニ! おい!!」
横幅10m、縦幅6mのそれを眺めながら俺は呟いた。
「どうすんのこれ…」