―Side― エルフの勇者
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サイドストーリーです。
彼の元を離れて1週間。
私事、アリス・ブランヒルデは溜まった書類の処理に追われていた。
城の自室へ籠りきりの私は暫く外出をしていない気がする。
それもそうか…向こうで1週間近く居座った訳だし?
「全く。 こっちに帰って来たら暇じゃなくて助かるわね?」
皮肉気味に1人で呟いた私は散らばる書類1つ1つに目を通していく。
数時間後―
「終わった。 さてと…次は来客ね?」
なんでも今日は人間の国”エデン”から使いの者がやって来るとの事。
まぁ碌な事じゃないのは確かね。
「暫く時間は――」
近くの時計に目をやる。
「余ってるわね」
颯爽とドレスに着替えた私は城の裏手にある馬小屋へと向かった。
「ふぅ~ごめんなさい。 少しバタバタしていてね? ランスロット…久しぶり」
『――――こんにちはアリスさん。 96時間と40分20秒ぶりです』
目の前の白馬がこちらを見や否やそう発言した。
さ、流石はあいつの関係者ね…そういう所は相変わらず細かい。
「こ、細かいわね?」
『何か御用でしょうか?」
「用って程のものじゃないけど、貴方…不満は無いの?」
『不満ですか?』
「ほ、ほら。 私ってさ? 貴方達側から嫌われてるじゃない?」
以前の父の影響とは言え、AI兵器を毛嫌いしていた私は彼等の反感を買っていた。
使い捨ての無人兵器。 そう発言していた私が居たのもまた事実。
そんな人物の私とランスロットは行動を共にする事が不満ではないのだろうか。
『ふむ。 確かに、好きか嫌いかで言えば嫌いな部類でしょうか? しかし、現在の貴女は以前に比べ何かが変わったような気が致します。 あくまで私の憶測に過ぎませんが』
「しょ、正直ね…。 ――――言ったでしょ? 認識を改めたのよ。 あんた達にも心がある…それは紛れもない事実。 結局無人兵器だとか言ってたけど。 貴方達って言う存在は今此処にある、って事を学んだだけよ?」
『成程。 ですが20年ですか…掛かり過ぎではないでしょうか?』
うっ…痛い所を突いてくる。
あんた達の艦長のお陰で向こうの世界のAI兵器達は長い話し合いに応じてくれる事となった。
「その~色々あったのよ! 色々!」
『しかし、アリスさん。 姿が変わっても中身はご健在の様で何よりです。 ”まだ”艦長に好意を抱いていたとは。 あまつさえ、転生とやら?をされてまで追いかけて来る芯の太さ。 脱帽ものです』
「ねぇ? それって褒めてるのか馬鹿にしてるのかどっちよ!?」
『さて? どちらでしょうか?』
むきぃぃぃぃ!
そうやって人を小馬鹿にする所は相変わらずのようねぇ!?
「あ、そうだ。 このイヤリング型の通信機、ありがとう」
『…何故私に? 直接艦長に通信を飛ばしてお礼を言えばいいのでは…』
「いや、だって// 急に連絡したら迷惑だろうし// そ、そ、それに// なんというか、恥ずかしい//」
『…………』
ジッと私を見つめるランスロット。
解ってるわよ。 言いたいことは解ってるわよ!
今現在、彼とこうして会話できているのも、このイヤリングのお陰である。
リュウジ曰く「毎回来られても面倒だから、軽い連絡位はそれでしろ」との事で、私を気遣ってくれてるんだろうけど。
逆に会いに行く条件が狭まったじゃない!!
「何よその顔…」
『ヒヒーン―――』
こいつ、完全に逃げやがったわね!
「わ、解ってるわよ! お礼は今夜言う! さてと、まだ仕事が残ってるからこの辺で! また来るわ」
『はい。 何時でもいらして下さい? 愚痴位であれば聞いてあげましょう』
ちょっと上から目線なのが腹立つけど、ここは我慢よ。
「………」
とりあえず睨み付けておいた。
――――――――――――――――――――
「お久しぶりです。 女王陛下殿」
赤髪の女騎士が膝を付きそう告げた。
なんだ―――
「何よ…また見合いの話しかと思ったら。 貴女だったのね、アルメイア? いいわよ頭を上げなさい。 どうせここには私と貴女の2人しかいないんだから」
「で、ですが…」
「お堅いことはなし。 私達の間柄じゃない?」
「そ、そういうならば」
恐る恐る辺りを確認した彼女は、周りに誰もいないことを確認するとホッと胸をなでおろしていた。
「国に仕える騎士様は大変ね? それも騎士団長となると…あんた? 全然休んでないでしょ?」
役半年ぶりの再会だが、それでも彼女が疲れ切っている事は明白。
首元からチラリと見える生傷に乾ききった唇。
それらが全てを物語っていた。
「いやはや、アリスの洞察力には恐れ入るよ。 その通りだ。 どうにも、異世界から召喚したという勇者達が曲者でね? どれこもれも手の掛かる連中なのだ」
「あはは…確か5人召喚されたんだっけ?」
「あぁ。 予言書によれば5人の人間の勇者が世界を救う――等と掛かれてはいるが、俄かに信じられん。 1人は女タラシの駄目男。 1人は真面に会話すら出来ん少女、更には変に自信だけはいっちょ前な自信過剰男。 理屈ばかりで戦おうとしない少女に! 怪力脳筋少女! このメンバーはなんだ!? 勇者とは普通1人ではないのか!? だってそうだろ!? お前達エルフの国の勇者もお前だけだ! くっ
…どうなって―――」
なんともかなりお疲れの御様子。
頭を抱えた彼女は暫くの間1人でブツブツと何かを言っていた。
5人の勇者ね…なんというか。
元異世界の人間からしても、やっぱりあいつと比べるのは色々間違っているのかもしれない。
彼女の名はアルメイア・コレスニコフ…エデンの国王に仕える、王国騎士の中でもトップ中のトップ…20歳にして騎士団長まで昇りつめたエリートである。
その腕を買われてか、今現在は勇者達の御守を任さている。
「で? 愚痴を言いに来た訳じゃないんでしょ? アルメイア?」
「――――あぁ勿論。 勇者召喚に伴い、やはり”魔族”の連中が動き出した。 今は各国を周り、最後に此処へたどり着いたという訳だ。 目撃情報は多数上がっている。 なんでもあの”死の森”を拠点に――」
え? なんて? 聞き間違いかしら?
「魔族が動き始めようと―――っておい? 聞いているのかアリス?」
「今何て言った!? もう一度繰り返してもらえる!?」
「ん? 死の森を拠点に魔族が動きを始めようとしていると」
「あぁ~えっと…何? アルメイア…そっちは問題無しって事でいいわよ?」
「は? 問題なし!? だ、だが…死の森を拠点――」
「それがそもそも無理な話しだっていってんの!!」
「いや、しかし…例え魔族とはいえ。 束になって森を攻めればあそこの魔物位――」
あぁっと。 私の言葉が足りなかったようね? どうにも話が通じていない。
それもそうか―――アレの存在を彼女にはまだ報告していなかったし。
「えっと。 話が長くなりそうだから、端的に言うわね? ”彼ね?”本当に死の森の中心に居たわよ? 家を作って暮らしてたわ」
私の言葉を聞いた瞬間。 全てを理解したのかアルメイアの表情はみるみる青ざめていく。
「嘘だろ? 本当に見つかったのか!? アリス!!」
「えぇ。 そして、聞いて驚きなさい? あいつ、自分の力を全て有したまま…こっちの世界に来ちゃってんのよ」
「おいおいおい…私はてっきり! あの異世界勇者の様に力を授かって来るのかと…それに――」
「えぇ、私の様に転生するのか。 でしょ? 答えは私達どちらもハズレ! 恐らく、今頃痛い目をみているのは―――」
「魔族――」
今回ばかりは悪名名高い魔族の連中にも同情せざる得ない。
なんせあの男は敵と解れば例え同じ人間相手でも容赦はしない、話し合いの余地なしと判断した時点で奴らの命運は尽きたも等しい。
5年間付き合いのある私でも未だに彼の戦力を把握しきれていないのだ。
まず私が彼と敵対する事になれば、一目散に首を垂れ…地面に頭を擦り付ける。
位には未知数の男である。




