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盆の中からアレやコレ(短編集)

スナホリック

作者: 八刀皿 日音


 ――その島は、とにかく全部砂だった。

 柔らかく、きめ細やかで、美しくもある砂ばかり。


 砂浜は勿論のこと、人々が行き交う道どころか、生活を送る建物の土台、賑やかな商店街の中まで、足下はずっとどこまでも――へりまで行って海に潜り込んでも、やっぱり砂だった。

 『砂』の一言ですべて片付くと言っても過言ではない。


 しかしそんな場所で、わざわざ普通の文化的な生活を営んでいる島民たちは、ごく真っ当にその生活を楽しんでいた。

 実際、他の普通の街よりも、足下が砂で不安定なわりに、社会としてはよほど安定しているぐらいだ。

 砂に足を取られてとにかく歩きにくい(だからここではみんな常に裸足だ)ことさえ目をつむるなら、気候は温暖だし、居心地はすこぶる良い。


 そんな島で、一つの流行が生まれた。――砂掘りである。


 何やら島に観光資源を、ということで始まった温泉掘りが、どうにも島民の気質に合っていたのか、老若男女問わず急速に広まったものらしい。


 面白いことに砂ばかりの島でありながら、掘ると意外に何かが見つかるのだ。

 しかし目標の温泉であればともかく、そうして見つかるのは到底金になるようなものではなく、掘り当てたからといって何を得するわけでもない。


 子供がごっこ遊びでやる宝探しのようなちょっとした充実感は得られるだろうが、それだけだ。

 ときに2メートルや3メートルにも及ぶ大穴を掘る代償としては、あまりにも安い。


 しかし、地味で大変で、報われているとは言い難い作業のはずなのに、誰もが砂まみれになりながらシャベルを振るい、ところ構わずとにかく掘る。

 ただただ掘る。

 何かを見つけるのが楽しいのか、それとも掘ること自体が楽しいのかは分からないが、とにかくひたすら掘り続ける。


 するうち、いつの間にか……島の海岸線は少しずつ少しずつ、迫り上がってきていた。


 海面が上昇した――というわけではない。

 沈んでいるのだ、島が。

 砂ばかりの、砂で出来た島なのに、砂を掘って掻き出し、ところ構わず穴を掘るから、どんどんどんどん沈んでいるのだ。


 しかし、彼らは掘るのを止めない。

 いい加減、島が沈んでいっていることには誰もが気付いているはずなのに、誰もが見て見ぬフリをして砂を掘り続ける。


 どんどん掘る。ずんずん沈む。

 ずんずん掘る。どんどん沈む。


 ――そうして。

 やがて彼らはとうとう、念願の温泉を掘り当てた。


 砂まみれの顔を輝かせ、島民たちは躍り上がって歓喜する。

 その度合いを表すように、温泉も天高く、勢い良く、目一杯に吹き上がる。


 そして――。

 天高く、勢い良く、目一杯に吹き出す温泉にどっぷりと浸かった島は。




 今度こそ完全に、キレイさっぱり沈んで消えた。




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― 新着の感想 ―
[一言] アホなことに夢中になった末に沈むとは、いい感じですね~。 南の島で実際に起こりそうです。 みんなで笑って海に浮かべばきっと楽しいサッ。
[良い点] ただただ普通にゲラゲラ笑いました。 深い御作品だったらすみません (;'∀') でもとても面白かったです!
[良い点] 不条理だ〜明るい絶望。 人間のしていることは全て砂掘りな気がします。 安部公房でしたか、砂の女より救いがない〜 そこだけちょっとあったかい海? 太平洋のあちこちに既にある〜 アトランティス…
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