2話 錯乱と混乱
「ーー」の線で二人の「オレ」の視点が交換します。
((ガチャッ
オレは恐る恐るドアを開けた。
目の前には不法侵入してきた女が居る。
見た目から推測するに、オレと同年代くらいだと思うが....何故家に不法侵入して、オレの隣で寝ているんだ....
しかも訳の分からない事を言ってくるし....
一人称「オレ」とか、ヤバイ人なのは確かだ。
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オレはどうすればいいんだ?
目の前には何故かオレが居る。
まずオレは「オレ」なのか?
なんか体がムズムズするような気がするし....
頭が混乱する....
「あなた誰なんです?勝手に人の家に上がり込んできて...」
変だな...オレはただ自分の家に居ただけなのに。「勝手に人の家に上がり込んできて」とか自分に注意されるなんて....
それにしても、なんか背が縮んだような気もする....目の前の「オレ」の方が高くて....
って、今はなんか説明しないと....
「オレはお前...佐藤剣なんだよ。信じてもらえないかもだけどオレも訳が分からなくて...」
「オレ」はどのように受け止めるだろうか。
まあ自分の事だから警察に通報なんて面倒くさいことは流石に....だがこうゆう場合はやり兼ねないかもな....
逆の立場だったらオレは多分通報するし...
頼むから信じてくれ!!
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コイツは何を言ってるんだ?
「オレはお前」とか意味が分からない。
しかもなんでオレの名前を知って....
もし、コイツの言っていることが本当なら、もう少し詳しく、オレしか知らない事を...
「オレの誕生日は?それとスマホの暗証番号は?」
誕生日なんて親と死んだ親友しか知らない。
まして暗証番号はオレ以外知る者は居ない。
「誕生日は6月9日。暗証番号もオレの誕生日で0609だ。」
なっ?!なんだって?!
コイツ全部知ってやがる!?
まさか本当に!?
コイツはオレ....なのか?!
「あの...」
女がオレに近づいてくる。
オレは後退りした。
「なっ...なんだ?」
「寒いから...中に入れてくれないか?」
オレは驚きのあまり、女の格好に気をとめる余裕もなかった。
オレは恐る恐る目線を下に向ける。
「し..し..下着っ??!」
「クションッ!!」
何故こんな寒い時期に肌着と下着だけで外を...
いや外に出したのはオレなのだが、色々とおかしいだろ!!
オレはドアから顔を出し、周りに人が居ないかを確認する。
幸い通行人は居なかったが、面倒ごとに巻き込まれるのも時間の問題だと思ったオレは、仕方なく女を家の中へ入れる事にした。
「入れ!!」
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「えっ?!いいのか?」
どうやら信じてくれた様子だ。
もしくは周りの目を気にしての事かもしれないが....あと寒いし...
((ガチャンッ
風が肌に当たらないから外よりはマシだ。
だが何故オレはこんな格好を....
アレッ?なんかおかしいような....
ヌッ?!
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はぁ、最悪だ。
何にもないいつもの生活の方が全然マシ...
変な事に巻き込まれるし...昨日だって...
アレッ?昨日って...
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「君のことならよく分かるよ...この研究は絶対に君の為になるんだ...だから手伝ってよ?」
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あの女科学者....
唾液の採取とか気持ち悪いことをして....
まさか、アイツの仕業か?
「ギャァァァ!!」
なんだなんだ!!?
次々と面倒なことが起こるな...
「どうした?」
「助けてくれ....」
女は目に涙を浮かべている。
一体何があったのだろうか?
「だからどうしたんだ?!」
「体がおかしいんだよ!!オレなら分かってくれるだろ!!こんなの認めない!!絶対あの科学者の仕業だ!!」
なんでコイツ科学者の事を....
「オレ」だから当たり前なのか?....
「何でこんなロングヘアー?!やっぱり背縮んでるし、なんかなくなってるし....」
「おいっ!!そこまでにしておけっ!!」
「これじゃ本当に女じゃないk...」
「静かにしろっ!!!」
「....はい」
見た感じ本当にコイツはオレのようだった。
なんていうか...言動がオレそのもので、ある意味怖い。
どうやら「オレ」は自分が女である事を知らなかったようだ....あからさまに分かるはずなのだが...
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本当に女だ...
オレは「オレ」じゃないのか?
オレは...この体は誰なんだ?
....オレは「オレ」だよな....
意識だって、この記憶だってオレそのものだ。
だが、目の前にも同じオレが居て、自分と同じ記憶と意識を持っている。
どちらかが偽物だとすれば、それはおそらくオレの方だ。あっちの「オレ」じゃない。
自分でも言うのもなんだが、オレは理解力がある方だと思う。
小さい事ですらも深く考えてしまうオレの変な思考回路のおかげなのかもしれない。
しかし、なんか嫌だな....
「オレ」じゃないんだ。
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「オレ」が黙り込んだ。
俯いて、ある一点を見続けている。
無理もない。
自分が自分でないのだから。
「オレ」はどんな心境をしているのだろうか。
「オレは違って、向こうの「オレ」が本物」
とでも思っているのだろうか。
嫌だな。
オレが「オレ」じゃないんだ。
オレはどのような言葉を「オレ」にかければ良いのか困ってしまった。
そしてふと顔を上げ。言葉を考えようとする。
だが、考えようとした手前。
あることに気づいてしまった。
時計....
8:35....
うぎゃっ?!
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「ヤバイ!!ヤバイ!!」
なんだ突然?
急に「オレ」が暴れ出した。
「どうした?」
オレは困惑しながら、どうしたのかと「オレ」に訊いた。
「あと10分で一時間目が始まるんだよ!!」
オレは急いで目線を時計に向ける。
8:35....
「ヤバイ!!ヤバイ!!」
「オレ」たちは暴れ始めた。
「いやいや!!なんでお前もドタバタしてるんだよ?」
「なんでって?」
「お前は確かに「オレ」だけど、体はオレじゃないから学校なんて行かなくていいんだよ!!逆にオレが行かなきゃならないだろうが!!」
「あっ、ほんとだ。やったぁ〜」
学校に行かなくてもいい!!
これ程幸せなことがあるだろうか!!
「何喜んでんだ!?お前もオレの支度を手伝え!!」
「わかった!!」
オレは急いでバッグを取りに行く。
オレは「オレ」だから、昨日までの記憶はどちらも同じ。
昨日までの物の場所なら分かる。
「はい!!どうぞ!!」
「ありがと!!」
「いってらっしゃい!!」
「行ってきます!!」
やっぱり変だ。
オレが「オレ」にいってらっしゃいなんて...
これは夢じゃないよな...
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オレが「オレ」に行ってきます?!
やっぱりおかしいよな...
あ〜だめだ。
朝は頭が回らない。
何がなんやら分からなくなって...
いやいや、今はそれより学校に!!
それにしてもアイツはいいよな....学校に行かなくていいんだから。
「オレの為になる研究。それはあっちの「オレ」のことか?」
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あのマッドサイエンティスト。
確かにオレの為になる研究を....
いや、それならあっちの「オレ」は?
「オレの為」になってないよな?