1話 セカンドセルフ
人生とは面倒くさいものだ。
あとオレはどの位生きなきゃならない?
この毎日繰り返される生活をあと何回続けなきゃならない?
オレは苦しい。
「まだ高校生だ。」
オレが周りに何を言ったって、どうせこんな単純な言葉を返されるだけ、相手にもされない。
昔は友が居た。
アイツになら何だって打ち明けられたし、好みも趣味も合致してたから毎日楽しかった。
まさに「意気投合」する親友と言えただろう。
だが、彼は死んだ。
元々病弱で、学校も度々休んでいたのだが...
まさかこんな早い別れになるなんて思っても見なかった。
その時、オレは「生きる意味」と言うものを見失ってしまったのだろう。
心に大きな穴が空いて...
塞ごうとしても...塞がらない...
一度空いた穴は二度と塞がらなかった。
あれから数年と経ったな...
アイツ以上にオレの事を分かってくれる奴は居ないし、オレからすれば誰もがふざけている様に思えてしまう。
学校の休み時間、クラスメイト達がたわいもない話をしている姿を見ては、ただ五月蝿いとしか思うことも無い。
偶に話しかけられた時は、適当な言葉を返して直ぐに会話を終わらせようとオレはする。
何故なら、長い時間話していると「何故オレは会話をしているのだろう」という変な思考回路に陥ってしまうからだ。
一番ふざけているのはオレなのかもな...
小さい事をいつまでも考えてしまう。
何か意味を探してしまう。
オレは壊れてしまったのだな...
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疲れた....
もう学校なんて行きたくない。
オレはそう思いながら帰り道を歩いて行く。
そしてまた考える。
この道をオレは後何回往復しなくてはならないのかと....
オレは面倒くさい人間で間違いない。
それは自分でも分かってる。
オレは人と顔を合わせるのが嫌いだ。
目が合うのが恐ろしい。
だからいつも下を見てる。
変だな...
だが、通行人はオレが俯いてる事など気にもとめないからいいんだ。
「すいません!!」
誰かが声をかけているのが聞こえた。
別にオレには関係ないからいい...
ふとそう思い、歩くスピードを早める。
「ちょっと待ってください!!」
まさかオレに声をかけているのか?
そう思ったオレは、恐る恐る後ろを振り返る。
オレの勘違いだったら嫌だからだ。
「よかった〜無視されたのかと思いましたよ〜。」
誰だこの人。知り合い...じゃないよな...
白衣着てるし、なんか科学者みたいな...
だが、どこかだらしない。真ん中のボタン外れてるし...女性なのにね...
「なんですか?」
オレはそう訊く。
だがオレの頭の中には「早く帰りたい」という言葉しか浮かんでいなかった。
「いきなり話しかけてごめんなさいね。君が相当思い悩んでいる様に見えたものだからつい引き止めてしまったの。」
変だなこの人。
まあオレが言える立場じゃないか。
だが、どうしてそんな事が分かったのだろうか....
下ばっか見てるからか?
「良かったらさ、私の研究を手伝ってくれない?君みたいな子には丁度いいと思うからさ。」
研究?本当に科学者なのかこの人?
だがオレに丁度いい研究とはなんだ?
本当に変だなこの人。
「なんかの勧誘ですか?オレは帰らせてもらいます。」
「あっ!!待って待って!!研究と言っても絶対に君の為になるものだからさ、一度手伝ってよ〜。」
しつこいし、なんか怖い。
笑顔が不気味だ。
「やめてください!!あなた誰なんですか!!警察に通報しますよ!!」
勿論通報などという面倒くさい事はしないが、あまりにしつこいからオレは最終手段を使うことにした。
「警察!?」
流石にもう諦めるだろう...
「そんな事出来ないくせに....」
オレはその一言に、目を大きく見開いた。
何故コイツそんな事を....
オレの心を読んでいるのか?
「なっ....」
オレは驚きのあまり声を漏らしてしまった。
その瞬間、そいつは不気味な笑みを浮かべ、オレに話しかける。
「君のことならよく分かるよ...この研究は絶対に君の為になるんだ...だから手伝ってよ?」
怖っ!!
マッドサイエンティスト....
まさにこの言葉がコイツにはお似合いだろう...
「帰りますっ!!」
オレの頭には「逃げろ」という言葉が浮かんでいる。
あまりの怖さにオレの思考回路が正常になったようだ。
「待ってと言ってるでしょう?」
いきなり声色と口調が変わった。
オレは身動きが出来なくなった。
「動けない?動けないよね?だってコレを使ってるから...」
女はポケットから謎の機械を取り出す。
それはトランシーバーのような黒く小さい機械だった。
「コレは私が作った装置。特殊な周波数を出して生物の動きを止める事ができる。」
どうやっても体が動かせない。
だが、それなら何故コイツは動ける?
本当に何者なんだコイツは!!
「私は大丈夫なんだよー、私はこの周波数の影響を防ぐイヤフォンをしてるから、ほらこれっ。」
女は髪を掻き分けて、耳につけているイヤフォンを動けないオレに見せてきた。
「お前...なにする気だ?」
オレは恐怖と不安にかられる。
怖いものなんてもうないと思っていたのだが、この状況はオレの心を恐怖で満たした。
「ジッとしてれば何もしないから...ほら口を開けて...」
女の手には綿棒のようなものがあった。
一体何をする気なんだ?!
「唾液の採取。コレも君の為だから...」
気持ち悪っ!!なんなんだこの人!!
「ハイ終わり!!ご協力感謝します!!」
終わった?....だが何だが頭がボーッとして...
バタッ...
「えっ?あれっ?....まだこの装置も改良が必要みたいね、それとも周波数を間違えたのかも....まあ死ぬわけじゃないし...さようならっ!!!」
女は急いで走り去って行った。
丸で罪を犯した人の様に...あながち間違いじゃない
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頭が痛い....ここはどこだ?
変な夢を見たような...まさか夢じゃない?!
しかも何でこんな道端で倒れて!?
幸い通行人は誰一人居なかったが、なんだか怖くなってオレは走って家に帰って行った。
「はぁ..はぁ..はぁ..はぁ..」
玄関のドアの前で座り込む。
なんか嫌な感じがした。
さっきのは夢だったのか?それとも現実なのか?
「疲れ過ぎているんだ....今日は早く寝よう....」
周波数で動きを止めるなんて...そんな科学技術、存在するわけが無い。
さっきのは夢だ。
オレはそう結論づけた。いや、そう信じたかった。
その日の夜。オレはかなかなか眠りにつけず、目を開いたまま天井を見つめていた。
「オレの為の研究....」
そう、あの出来事の事で眠りにつけなかったのだ。
深く考え過ぎだ。だからあんな夢を見る。
そう、あれは夢。
あんな事があるはずが無い。
だが、もし夢じゃなかったら、
オレは一体...
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「ふぁぁぁ...」
気づいたら朝になっていた。
いつの間にか寝てしまっていた様だ。
また面倒くさい日々が始まるのか....
あれはやっぱり夢だったのか....
まあ当たり前だよな...
オレはどこか残念な気にもなりながらベッドから出ようとする。
「ふぁぁぁ...」
あれっ?今の声はオレじゃないよな...
誰か居るのか...
いや?!オレしか居ないだろう!?
この家にはオレしか居ない。
親はそれぞれ仕事で別の場所におり、家には偶にしか帰って来ない。
じゃあ、誰だ?
オレは恐る恐る布団をめくる。
「あっ...」
「あっ...」
目が合った、オレと....オレと!!?
「うぎゃぁぁぁぁあ!!!」
「お前どこから入ってきた!!!」
「出てけ!!!」
オレはオレに押されて外へ出された。
えっ?!
何でオレがオレを外に出すんだ?!
って、何でオレがもう一人居るんだ!!?
もう訳が分からない!!?
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何故知らない女がオレの家に?!
どこから忍び込んできた?!
まさかドアの鍵を閉め忘れた?!
これじゃ本当に警察へ通報しなくちゃいけなくなるじゃないか!?
((ピンポーン!!ピンポーン!!
ヤバイ!!ヤバイ!!本当にヤバイ!!
そうだ!!一回「どちら様ですか?」とか聞いた方がいいのかも!!よし、そうしよう!!
「どちら様ですか!?」
「オレだよ!!オレ!!」
「いや、誰なんですか?」
「だからオレだって!!」
「何を言ってるのか分からないんですが!?」
「だからお前なの!!オレはお前なの!!」
「はい?!」
こうしてオレの、いやオレたちの生活は奇妙な形で一変してしまったのだった。