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29話(54話)


 女の子が作ってくれた料理は温かくて美味しかった。

 聖女になってから料理は毎回毒味が行われ私が食べるときにはもう冷めていた。

 温かい食事を取ると聖女になる前の教会での暮らしを思い出す。

 またあの頃の様に家族と一緒に大変だけど楽しい温もりのある生活に戻りたい。

 その思いが溢れて涙が零れた。


 聖女になって数年、人前で涙を流すことなどなかった……いや、できなかった。

 久しぶりに人前で泣いてしまって恥ずかしくて女の子の顔を見られなかったが女の子はそんな事を気にした様子もなく、微笑んでそっとハンカチを貸してくれた。

 私なんかが聖女で恥ずかしくなってしまう、こういう心の優しい子が聖女になるべきだ。


「そんなことはないよ。貴女が選ばれた事に何かしらの意味があるはずだよ」

 驚いた目の前にいる女の子は如何して私が考えていることが分かったのだろう?

 心が読めるのだろうか?

「別に心が読めるわけじゃないよ、気付いてないかもしれないけど考えてる事が口に出てるよ」

「っ! ……本当に出てたの」

「しっかりと出てたよ」


 恥ずかしさから、また女の子の顔が見られなくなってしまった。

 女の子はそんな私に気を使ってか、後片付けをしてくると言って食器を持って席を離れた。

 本当になんで私が聖女なんだろう、私よりも気が利く優しい彼女がなるべきだ。

 今度は口に出ない様に意識した甲斐あってか、口には出さなかった。


 女の子は後片付けが終わったのか戻ってきた。

 そう言えば女の子の名前を訊いていなかったと思い訊いてみた。

「名前? う~ん、そうだなぁティアとでも呼んでくれればいいよ」

 明らかに本名を隠そうとしているのは何か事情があるんだろう。

 だけど助けてもらった身としてはそこを深く追求する事はできなかった。


 気を取り直して名前以外にも気になっていた事をいくつか訊ねてみた。

「なんでこんな森の奥深くの小屋に住んでいるの?」

「人が多いところはそこまで好きじゃないからかな」

 人が少ないところだとはいえ、森の奥で暮らすのは如何なんだろう?

「森の中で如何やって食材を用意してるの?」

「魔物や動物を狩ったり、植物を採取して用意してるよ」


 ティアは見た目よりもずっと強いみたいだ。

 私は動物を狩る事ができるかどうかわからない。

 そう思うとティアは私なんかよりも立派な女の子だ。

 それから色々な事を質問したりした。

 そして私のこの小屋での生活が始まった。


 少女と小屋で生活を始めて一ヶ月が経ったある日、小屋の扉をノックする音が聞こえた。

 こんな森の奥深くにある小屋に誰かが来るのは私が此処で暮らし始めてから初めての事だった。

 どんな人なのか興味津々の状態で扉を開けると、そこには女の子を二人連れた私と同い年くらいの男の子が立っていた。


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