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1.みたいならしいだろう、異世界

私、田口直美(たぐちなおみ)がここに来た日。

それは、いつもと変わりない日だった。




「田口さん、ごめんなさいね。どうしても今日いるものだから」


いつものようにお局様から

口調だけは丁寧に、下らない用事を言い使った。


わざわざ社用車が出払ったタイミングで

コピー用紙やら文房具やらを買いに行くように言われたのだ。


アシタクルで頼めば明日には届くだろうに

「どうしても今日いる文房具」のつ い で に !

大量のコピー用紙やらスケッチブックやらシャーペンの芯やら消しゴムやら、色々書かれたついで買いメモと台車を抱えてお使いに出かけた。


全然ついでじゃない!

とは思うものの積極的に人間関係に波は立てたくない。

もう25歳。同じ会社に5年もいるのだ。

怒っても無意味なことはいい加減理解している。



あ~暗い考えはよそう。

ポジティブ大事。足るを知る。

仕事もある。生活も出来る。

恋人も奇跡が起これば出来るかも!

よし、頑張れる!



ネガティブな考えが頭をグルグルするけど、体はきっちりお仕事をしている。

買う物を買い、会社に向かってゴロゴロ進む。

もうすぐ着くというところで、私は会社を見上げた。

小高い丘の上にある会社はどこから行っても、結構な上り坂を上らなければいけない。

文字通り、会社を見上げた。


色んな物を乗せ、かなりの重さがある台車をちらりと見る。

上るしかない。頑張るしかない。

よし、私は出来る子!!


自分で自分を鼓舞して上り坂を上り始めた。





重たい~!

紙って重たいよね。。。

コピー用紙なんてやっぱり明日でよかったじゃない。

仮に今日買うにしても、こんなに何箱もいる!?

絶対いらないと思うんですけど!!

ぜいぜいと肩で息をしながら必死に台車を押し上げる。



あともう少し、というところで油断してしまったんだと思う。

下げてた目線を上げて会社を見上げたその時

支えていたはずの台車がぐらりと揺れ、私の方に下って来た。

慌てて力を入れようとしたけど、重たい荷物にかかった重力はすごく、私は後ろ向きに傾いた。


転げ落ちるか、台車の下敷きになるか。

とっさにギュッと目をつぶり、衝撃に備える。







ドスッと思ったより軽い衝撃がお尻に走り、

ドサドサっと物が落ちる音がする。

幸い私の上には落ちてこなかったようだ。


ほっと小さく息を吐いて目を開ける。




え?ん?


…………………………………ん、と。

え?


______どこだここ?





そこにはレンガと石で出来た町並みが広がっていた。

なんか、おしゃれな街というか。

道沿いに3,4階建の家が並び、その上には澄んだ青空の中に少しの雲。

賑やかな声で行き交う人々は

簡単なワンピースやズボンに上着といった服装で、恐らく西洋人?

明るい髪色の人が多いように見える。


昔のヨーロッパみたいな。

今のヨーロッパにすら行ったことないから想像だけど。

言葉が足りないけど、そんな感じ。


少なくとも

コンクリートで舗装された道と、丘の上の会社ではない。






地面についた手には草とか土の感触がする。

街の中のある、広場みたいな公園みたいな所の端っこの方に座り込んでるようだ。



少なくとも日本じゃなさそう。

日本であれば、テーマパークの中とか?

いや、それにしては広すぎる。



静かに立ち上がり、鞄から社用携帯電話を取り出した。

圏外表示だ。充電はあっても、電話もメールもできない。

自分のスマホは会社のロッカーに置いたままで手元にすらない。



…よく分からない、ということはわかった。

とりあえず目の前のことから片付けよう。



冷静にもなれないまま、

目の前に転がる荷物を台車に乗せ直す。


泥汚れとかがついてなさそうでよかったけど、

コピー用紙が何箱かない。

何かはわからないけど、文房具もいくつかない気がする。

自腹で買い直しかな。やだな。



なにをどうすればいいんだろうか。

乗せ終わって、持ち手に体をあずけるようにぼーっと佇むしかない。



「ねえ、おねえちゃんなにしてるの?ころんだの?」



トテトテと走りよってきた小さな女の子が私に話しかけてきた。

あれ?今、日本語だったよね?



「うん。転んじゃったの。ねぇ、おねえちゃん道に迷っちゃったんだけど、ここがどこか教えてくれる?」



日本語で返すと、また日本語で返事をしてくれた。



「んと、ヒキラこうえんだよ」



口が…合ってない?

確かに日本語だけど、口の形は違う気がする。

まぁ 言葉が通じるのは幸いだから、気にしないことにする。


さて、ヒキラ公園と言われても全くわからない。



「ヒキラ公園かぁ。住所はわかるかな?」


「んと…………んと……ちょっとまってね!」



どこかに走って行った女の子を、言われた通りに待っていると

女の人の手を引いて戻ってきてくれた。

まだ若そうだけど、たぶんお母さんかな。



「あの、どうかされましたか?」


「あ、えっと…」



住所とか聞いてしまったけど、本当に日本じゃない場合住所なんて聞いてもわからないだろう。

何を優先すべき?

言葉はわかる。お金はたぶん日本円が使えそうにない。

どうやったら戻れるかがわかるのが一番だけど。



「私は…旅行者で。道に迷ってしまったんですが、ここはどこですか?」


「あぁ 旅行にいらしてるんですね。

ここはもう王都シュリシュナに入ってますよ。

どこに向かわれるんですか?」


「ここはもうシュリシュナなんですね。

えっと、まだ宿も決まってないんですよね。

自分の国の道端で転けたと思ったら、この国に来てて」



適当にわかったふりしたけど、全くわからない。

一縷の望みをかけて現状を話してみる。



「あはははは!

そんなに簡単にいらしたんですか。

旅に慣れてるんですね。

シュリシュ語もお上手ですし」



はい、通じな~い。

ということは、少なくとも簡単にポンポン違う国の人間が現れるわけではないんだな。

シュリシュ語が何語かわからないけど、相手にも日本語以外で聞こえているみたいだ。


ああ、益々どうすればいいのかわからない。

う~ん。何はさておき、お金をどうにかするべき?



「ここら辺で食品とか服とか雑貨とか、見られる所はありますか?」



向かうなら住宅街よりはお店が見れた方がいいような。



「では、この道をまっすぐ行って、骨の形の看板のお店が右手に見えたら、」


「あ、ちょっと待って下さい!」



慌てて肩にかけてた鞄から、メモ帳とボールペンを取り出しメモの準備をする。



「はい、お願いします」


「……………………………」


「…?どうかしました?」



なんだか不思議そうな顔をされたんだけど。



「あ、いえ…。この道をまっすぐ行って___」



どうにかお店がたくさんある所までの道順を聞き、お礼を言う。

商店街のようになっているらしく、一気にお店が見れそうだ。

質屋とかがあるかな。

身分証も売れそうなものも何もないんだけど。



「あの~…それ…」


「え?」



静かに指を指された先は手元だった。

といっても、ペンとメモ帳位しかない。

キャラものとかでもない、黒いボールペンと茶表紙のメモ帳。



「これ?ですか?」


「それは、ペンですか?そちらは?」


「??? はい、ボールペンです。

こっちはメモ帳です」


「それは、あなたの国のペンですか?インクは?めもちょうとは…?」



ボールペンって日本だけじゃないよね。インク??

メモ帳はメモ帳なんだけど。



「私の国で買ったものですが…。インクは黒ですよ。

メモ帳は、小さなノート、ですかね」


「あ、はい。黒なのは書いてるのを見てわかったのですが。

インクをつけてないですよね?どうなってるんですか?

のーと?紙にしては薄いですよね?」


「?????」



ダメだ。何を聞かれているのかさっぱりだ。



「あっすみません!珍しい物でしたので、つい…。

不躾でしたね。申し訳ありません」


「いえいえ。うまく答えられなくてすみません。

こちらはボールペンで、この中にインクが___」





丁寧に聞いたり聞き返したりしてわかったことは。

この国には、この世界には、かな。ボールペンはない。シャーペンも鉛筆もない。

ペンと言えばインクに浸して文字を書く、某魔法学校映画に出てくるタイプのものが最新式。

それすら高くて、持ってるのはお金持ちくらい。一般的には木炭で書かれることが多い。

紙も植物を重ねて作るパピルスみたいなごわごわした物が一番いい紙で、一般的には「木紙」という木の板に書いては水で洗って何度も使う。

というか、ここシュリシュ国での識字率がそもそも高くなさそう。


全体的に「みたいな」「らしい」「だろう」が多くて伝わらないかもしれないけど、私もよく分からないので「みたいな」と例えるしかない。







ついでに色々聞いてみて、信じたくないけど現実味を帯びてきたことがある。

これがもし夢とか本当は頭打って死後の世界だとかでないなら、ここは「異世界」という所じゃないだろうか。


なにをどう定義するのが異世界なのか知らないけど、信じられないけど、ここは地球ではないようだ。


ただ海外に来たにしては、言葉が通じるのがおかしい。

流石に物々交換ではなく貨幣はあって、お金の単位は「カル」とのことだけど、全く聞いたことない。

為替相場を聞いてみたら全く通じず、外国に行く時は金や宝石を持って行って、その国のお金に替えてもらうらしい。



あぁ。なんか頭痛くなってきた。

どうしよう。どうするのがいいのかな。



「まぁ。色々文化の違いってあるのですねぇ。お話が聞けて楽しかったです。引き留めてしまってすみません」


「いえ、お忙しいのに、こちらこそすみません。おかげさまで勉強になりました」



女の子は途中で飽きて、他の子どもの所に戻ってしまったので、この女性が長いこと話に付き合ってくれて本当に助かった。



「あの、これよろしければお礼にどうぞ」



差し出したのはペンケースに埋まっていた、キャラクターもののボールペンだ。

誰かからかお土産に貰ったけど、少し重くて書きにくいせいであまり使わなかったんだよね。

ボールペン、珍しいらしいし可愛いからあの女の子が使うんじゃないだろうか。



「これは?」


「形は少し違いますが、今話したボールペンです」


「え!?いえいえいえいえ!そんな高価なもの頂けません!」



ものすごく焦って拒否される。



「本当に、そんな高価なものではないんです。

木紙に書けるかはわかりませんが、手とかにも書けますし」


「いえ、本当に!ちょっと道を説明しただけですから!

お気遣いなさらないで下さい」



ブンブンと首を振って猛否定されるので、無理に勧めるのも悪い気がしてきた。

でも何かお礼はしたい。あ!



「あの、もう少し。もう少しだけお時間いただけますか?」


「え?はい、大丈夫ですけど」



私はシャーペンを取り出し、メモ帳の上をシャッシャッと走らせる。

さっと描き上げ、描き終わった絵をビリッと切り離して女の人に渡した。



「うわぁ!すごい!なんですかこれ!?」



それはさっきの女の子と2人で一緒に笑っている似顔絵だ。

私、似顔絵を描くのは得意なんだよね。

美術の専門学科にも行って。

絵では食べていけそうになくて普通に就職したけど、周りから描いてと頼まれる、それくらいには描けるんだ。

急いだにしてはなかなかよく描けた。



「すごい…鏡みたいですね。それにこれ本当に紙なんですね。高価なものでしょう?本当にいただいてよろしいのですか?」


「はい。大したお礼が出来ずすみません」



そんなに喜んでもらえれば、こちらも嬉しい限りだ。



「画家さんなのですか?有名な方なんでしょうね。存じ上げずすみません」


「いえいえ、画家じゃないですよ。描くのが趣味なだけで。本当にありがとうございました。助かりました」



ペコリと頭を下げて立ち去ろとしたら、何かお礼をとパンと手作りのお菓子をくれた。

お礼のお礼で不思議な感じだけど、お金が使えない以上食べ物は大事。ということでありがたくいただいた。



さぁ、商店街を目指すか。

私はゴロゴロと台車を押して、勧められた道を歩き始めた。



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