あの後
A子さんが部屋を出ていったあの日、私、ちゃんとブログ書いてたんですね?(笑)
最初はA子さんが残していった言葉がよく理解できていなかったのね。
無意識にブログ書いてるうちに事態がわかってきて、パニックになっちゃった。
あの時、A子さんに夫くんが浮気してるよって言われて思い浮かんだ女の人の名前が二人。
一人はA子さんね。
自分と浮気してるってことを私に告げたのかと思った。
もう一人は去年夫くんの部署に新入社員として入ってきたB子さん。
この人がどういう人かというと…
なんでもモノをハッキリ言っちゃう超問題児。
この人が入ってきてから女子社員の仲がめっちゃくちゃになったらしい。
自分からは会社のことあまり話さない夫くんが、B子さんの所業の数々を楽しそうに話してくれたことがあって、その時アレ?珍しいなと思ったんだよね。夫くんが会社のこと話すなんて。
ひょっとしてB子さんのことを気にいってんのかな?と、ちょっと気になっていた。
だからかな、なんかとっさにこのB子さんのことが頭に浮かんだ。
もしかしてA子さんは夫くんの浮気の現場見たの?
A子さんを連れ帰った日は夫くん、飲み会だって言っていたけど、もしかして…もしかしてB子さんと二人で出かけてた?その時にA子さんと会ったとか?
ううん、やっぱりA子さんとの可能性の方が高い。
偶然会ったと言うのは嘘だったりして…とか、もう、いろんなことグルグル考えすぎて、最終的に頭真っ白になった。
気がつくと私はキッチンでお料理をしていた。
夫くんの夕飯作り。
アレだね?
頭真っ白になると、結果体はルーティーンを無意識にこなすね?
頭真っ白のまま私は普段通り夫くんを迎え入れてご飯を食べさせてお風呂入って寝た。
夫くんを問い詰めることもなく。
次の日はお互いの実家にお歳暮持って行来ました。
その時、お母さんに「にゃにゃ子ちゃん、元気なくない?」って言われたけれど、「そんなことないよ〜」と言ってごまかしました。
けどきっとごまかせてない。
お母さん変な顔していたから。
でもそれ以上は聞いてこなかった。
多分それは親心。
私は夫くんにA子さんから聞いたことを問いただす勇気がなかった。
だってそれが真実だとしたら、私、どうなるの?
どう対応したらいいの?
結婚してまだ一年しか経ってないなのに…
そりゃあ熱愛っていえるほどの恋愛じゃなかったかもしれないけど、私は会った時からずーっと今まで夫くんのことが好きだったんだよ?
元カノ家につれてくるって変な行動をした後も。
もし浮気を認め、謝ってくれても私はその裏切りを許せない。
ほんとは、ハッキリ聞かなきゃいけない。
事の真相を。
それはわかってたんだけど…できなかった。
私はA子さんが出ていってからの数日間は頭の中に言葉は入れず、ただ小さなキャリーバックを持ってこの家を出る自分の映像を浮かべて過ごしてた。
そうやって自分の心を慰めていた。
だって実際にそれをするのは勇気がいる。
私、会社辞めちゃってるから、離婚しても、もとの生活に戻れない。
親も悲しむだろうし。
離婚をじゃなく、私が辛い思いをしたことを。
私のこと、へなちょこだと思う?
打算的だと思う?
でもね、昨日までの暮らしとは違う道を選ぶって、とても勇気のいることで、それと決別しなければならなくなったとき、昨日までの日常は自分がどんなに実力者であったかを自慢し勝ち誇ってくるんだよ。
私は鬱々としながらもその日常に服従するしかなかった。
事態が動いたのはおととい。火曜日の深夜。
夜中、私がトイレから帰ってベッドに再び入った時だった。
振り向いて夫くんが私に声をかけてきた。「にゃにゃ子、なに?」と。
「あ…起こしちゃった?ごめん」と言った私に夫くんはもう一度「にゃにゃ子、なに?」と言った。
「A子が出ていってからにゃにゃ子変。出ていってからの方が変。何か…あった?」
…聞かれたから、聞かれたから答えた。
「A子さんが…出ていくとき…○○くんが浮気してるって…言った…」
私はダブルベッドの中、顔の半分まで引き上げた布団の縁を力いっぱい握りしめた。
夫くんは少し体を起こして私の方を向き「にゃにゃ子…それを、信じた?」と言った。
その静かな声に私は答えられなかった。
夫くんは暗闇の中、無言で私に背を向けて再びベットに体を横たえた。
その時、私と夫くんの立場が逆転した。
A子さんがこの部屋に来てからずっと私は責める立場だった。
けれど夫くんがダブルベッドの中で私に背を向けた瞬間、私は夫を信用しない妻として逆に夫くんに責められる立場になってしまっていた。




