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3 一時間だけなら勇者になれなくもない

前回までのあらすじ


学校から異世界にやってきた俺は、妖精から勇者の資質があると言われ

異世界アーヴィルの勇者になってほしいと頼まれた。

しかし俺はそれを断った。理由?そんなもん沢山あんだろ。

で、そしたら妖精は頭を抱えながら「なんでー!?」を連呼してる。



「なんでですか!?なんで勇者になってくれないんですか!?

 なにが不満なんですか!?なんで助けてくれないんですか!?」


妖精は納得できない表情で必死に俺に問いかける。

うわ・・・目が血走ってるよコイツ・・・こえぇ・・・


大体、なんで?って言われてもなぁ・・・


「俺には俺の生活があるんだぜ?それなのに突然勇者になれって言われても

 はいわかりました、なんて言えるわけないだろ。」


大体、異世界の勇者なんてやってたら俺の青春終わっちまう!

元の世界の生活と青春を犠牲にして勇者になるなんてごめんこうむる!

あと、元の世界で行方不明とかいって警察沙汰になっても嫌だしな。


「この世界と貴方の世界、どっちが大事なんですか!」

「自分の世界に決まってんだろ!」

「ガーン!!」


俺の言葉にショックを受けた妖精はヘナヘナと力なく地面に降りていく。


どう考えても見ず知らずの世界の方が大事とかありえないだろ。

むしろ、そう言えるやつがいるならそいつこそが本物の勇者だろうよ・・・


まぁ、とにかく・・・


「さっさと俺を元の世界に帰してくんないかな?」


そう妖精に言った瞬間、やつはピクッと軽く動き顔を上げた。

その顔は「いいことを思いついた」といった顔で、俺は嫌な予感がした。


「ふふふ・・・帰りたいですか?帰りたいですよねぇ?

 優秀な私にかかれば、そんなことは簡単ですけどね~。」


ふわっと俺の目線の高さまで戻ってきた妖精はそう言ってきた。

ニヤニヤと有利に立ったようなその表情を殴りたいと思った俺は悪くない。


「帰りたければ勇者になるのです。この世界を救うと約束してくれるのなら、

 すぐに元の世界に帰してあげますよ。」


・・・やっぱコイツ・・・バカだ。


「それ、世界救わなくても帰してあげますって言ってるようなもんだぞ。

 約束すれば元の世界に帰れるんだからな。」

「・・・しまったーーー!!」


俺の言葉に相当なショックを受けてるのか妖精は頭を抱えている。


「うぅ・・・優秀な私が、こんな些細なミスをしてしまうなんて・・・」


どうみても「優秀」にはまったく見えないんだが・・・完全に自称だろ。

どっちかというと落ちこぼれの方が合いそうだな・・・


「せっかく・・・勇者を見つけたのに・・・」


妖精は涙を浮かべ震えながら涙声で訴えはじめた。

勘弁してくれよ・・・もう帰りてぇ・・・


「私にはこの世界を救う力がないから勇者に頼るしかないのに・・・」


妖精は俺をガン見しながら語ってる。


「異世界の勇者は優しくて私たちの世界を喜んで救ってくれるはずなのに・・・」

「勇者にどんだけ夢見てんだよ!」


現実を見ろ、とツッコミを入れたとこで何も変わらないのが現状だ・・・


いい加減帰りたいところだが・・・

この様子じゃ、俺が勇者になるって言うまで帰してくれそうにないか・・・


正直、面倒事は避けたい性分なんだけど・・・

さっきの約束を利用して元の世界に帰してもらうべきだったか?

いやでも、ぬか喜びさせるのも可哀想だしなぁ・・・


せっかく高校生になったんだ、高校生活は楽しみたい。

旅行でしょっちゅう留守にするけど家族で過ごす時間だって大事だ。


そして・・・小さい体で泣きじゃくるこの妖精も放っておけない。


なら俺ができることは?すべてを捨てずに済む方法は?


それは・・・・・・


「・・・一時間・・・」


それが、俺が悩んだ末に出した答えだった。


俺の言葉に妖精は顔を上げて不思議そうな表情を浮かべた。

泣きはらした目は真っ赤になっている。


「学校も家での生活も俺は捨てられない、けど・・・

 授業の終わった放課後、一時間程度なら勇者になれなくもない。」


自分で言ってて、かなり無茶な要求だと思う。

でも、これ以上は譲歩できないんだよなぁ・・・


つーか、放課後一時間だけの勇者ってなんだよ、どんだけ限定的だよ。


俺の言葉を聞いて、最初はキョトンとしていた妖精だったが

すぐに花が開いたような笑顔になってお礼を言ってきた。


「この世界を救ってくれるのならば、それでも構いません!」

「いいのかよ・・・まぁ、いいけど。」

「では、早速賢者様に会いに・・・」

「待った。」


俺の袖を掴みどこかへ連れて行こうとした妖精を制止し、腕時計を見せた。

時間は4時半を回っていた。


「悪いけど時間切れだ。続きは明日にしてくれ。」

「そうですか・・・わかりました。」

「んじゃ、俺を一旦元の世界に帰してくれ。」


そう言うと、妖精はもう嫌な顔せず「わかりました」と返事をした。


「では目を閉じてください。いいですか?動いてはだめですよ。」

「お、おう・・・」


そういや初めてここに来た時、五体満足でよかったとか言われたな。

異世界を移動するのって実は危険が伴うのか?


目を閉じてるから何も見えないが、一瞬体がすごく軽くなった感じがした。

そしてガクン!と突然全身が重くなり、冷たい床っぽい何かに倒れ込んだ。


なんか頭がすげーくらくらする。

体がすげー重いし、目も開けられねぇ・・・声も出せねぇ・・・


ボロボロな感じの俺の耳にあの妖精の声が聞こえてきた。


「それでは明日、ここでお待ちしています。必ず来てくださいね。」


俺はその言葉に返事を返すことができなかった。


本当に元の世界に帰ってきたのか、それを確認することもできず

俺の意識はそのまま遠ざかった・・・・・・


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