1 今日は厄日なんだと思う・・・
この日の俺はめちゃくちゃ運が悪かった。
それはもう厄日と思うくらいに・・・
だからあんなことになったんだと、そう思う・・・
ストレスマッハの受験を終え、春から高校生になった俺、百瀬 響。
ガキの頃は高校生がすげー大人に見えたもんだが、いざ自分がそうなったら
全然そんなことはないんだなと思いながらも、至極平穏に過ごしてきた・・・んだが
この日、ゴールデンウィークもとっくに終わり、6月も近づいてきたとある平日、
俺の平穏な生活を揺るがす出来事が待っていた。
・・・話せば長くなるからダイジェストでいくぞ。
朝、目覚ましが電池切れで鳴らなくて寝坊する。
リビングに「旅行に行ってくる」と書かれた親の書置きがテーブルにあるだけで
朝食は用意されていない。仕方ないから牛乳一杯だけ飲んで家を飛び出す。
次に、いつも通ってる学校までの最短ルートが工事中で迂回を余儀なくされ、
さらに迷子の老婆に声をかけられ、断り切れず目的地まで送り届け
ようやく学校についた時は、二時限目がすでに始まっていた・・・
・・・これだけでも、この日の俺の運の悪さがうかがえるだろう。
言っとくが、俺はそこまで運の悪い人間ではないぞ
この日だけ!特別に!ありえないくらい悪かったんだ!!
・・・話を戻そう・・・
で、遅刻はしたが無事に学校に着いた俺だったが、それだけでは終わらなかったんだ。
それに気づいたのは昼休み。
昼飯を買いに購買部に行こうとしたら、財布がどこにも入っていなかった。
俺は絶望した!!
朝飯も食ってなければ昼飯も食えないとか、どんな拷問だよ・・・
友人はそんな状況を憐れんでくれたが、おごってくれる奴は一人もいなかった。
お前ら薄情すぎんだろ・・・
まぁ、最終的には事情を知った担任の吉川先生が昼飯をおごってくれたけどな。
ありがとう先生。だけど、成長期の男子生徒に焼きそばパン一個と牛乳だけとか・・・
全然足りないんすけど!
あと俺、焼きそばパンよりコロッケパンの方が好きなんだよなー
・・・って、おごってもらっといてそんな贅沢言いませんよ?
・・・まぁ、そんなこんなで運の悪さが続いた俺に、追い打ちをかけたのは放課後、
担任の吉川に頼まれて第三資料室(別名:物置)に荷物を取りに行った時のことだった。
帰宅部の俺はいつもなら真っ先に帰るんだが、今日は不運続きで疲れたんだよ・・・
机に突っ伏して休んでたら、吉川先生がやってきて雑用を押し付けてきたんだ。
まぁ、昼飯をおごってもらった恩もありますし、多少は頼まれてやりますよ。
ってことで第三資料室にやってきた俺は、頼まれた荷物をすぐに見つけてたんだが
・・・ここで好奇心さえ出さなければ、今も生活は平穏のままだったかもしれない。
頼まれた荷物の中身が気になった俺は、吉川先生に頼まれた荷物・・・
見つけやすいように赤く塗られた段ボールを開けて中を覗いた。
「うわぁぁぁぁ!!!!」
赤い段ボールに入っていたのは、こちらをギョロっと見つめている血まみれの生首だった。
・・・もちろん作り物のな・・・だけど、あの一瞬じゃ判断できねーっての・・・
驚いた俺は背後にあった棚に思いっきりぶつかり、その拍子に一冊の本がバサリと落ちた。
「やべぇ・・・どっから落ちてきた・・・」
元の棚に戻そうと落ちた本を手に取り持ち上げた時、ぴょんと黒い曲線が二本見えた。
瞬間、俺は持ち上げた本をそのまま床に叩きつけた。
「ぎゃふん!!」
「え・・・?」
てっきり黒光りするアレかと思ったんだが、本を叩きつけた時に聞こえた音が
音ではなく声のような気がして、俺は恐る恐る本を持ち上げた。
本を持ち上げると、本の下にいたのは黒光りするアレじゃなくて、
手のひらサイズの小人の人形だった。
・・・いや、ピクピクと体を震わせているから人形じゃなさそうだ・・・
その小人っぽい何かは、ピンク色の長い髪をしていて、黄色い服を着ていた。
さらに、トンボっぽい透明な翅と二本の触角があり
ファンタジーものでよく見る<妖精>のような見た目だった。
・・・妖精に触角ってあるのか?
「・・・い、たたた・・・ゆ、優秀な私じゃなければ死んでました・・・」
妖精らしき小人はぶつぶつ言いながら起き上ると、キョロキョロとあたりを見回した。
・・・これ、写真撮ってTV局とかに送り付けたらUMAとかいって騒ぎになるかな?
なんて考えてたら、妖精っぽい何かが俺の方を向いて顔を上げた。
なかなか可愛い顔をしている。と、その時の俺はのん気にそう思った。
そして、妖精っぽい何かは俺と目が合うとパアっと笑顔になり、
パタパタと背中の翅を動かして俺の目線の高さまで飛んできた。
その瞬間、俺は嫌な予感がした。
妖精っぽい何かはキラキラした瞳で俺にこう言った。
「見つけました!あなたこそ我々の世界を救う勇者!!」
「は?」
嫌な予感ってのは当たるもんだよ・・・
俺が何か言う前に、妖精っぽい何かの全身が発光し、俺は光に包まれた。
次に俺が目を開いた時に、目の前に広がっていたのは
第三資料室の風景ではなく、木々が生い茂る森の中だった。
・・・この瞬間、俺の平穏だった日常は音を立てて崩れていった・・・
*おまけ(ダイジェストでカットした部分の補足的な何か)*
針の止まった目覚まし時計とにらめっこの後
「やっべえ!寝坊した!!」
慌てて着替えてリビングに
「母さん朝ごはん! ・・・あれ?いない・・・」
テーブルの上に「旅行に行ってきます。父と母より」という書置きを発見
「ま た か !」
朝ごはんを食べてる余裕はないと牛乳だけ飲んで家をでる。
最短ルートの手前に「工事中」の看板とガタイのいいおっちゃんが立っている
「は?工事?嘘だろ?なんでこんな日に限って・・・」
無理やり突っ切るのは近くにいるおっちゃんが怖いので断念。迂回へ
迂回ルートは倍以上の時間がかかる
迂回中、とあるお店を探している老婆に声をかけられる
「そこの学生さん、このお店にはどう行けばいいのですかね?」
「え?あー・・・この店なら、この道真っすぐ行って右に曲がってずっと進んで・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「案内します・・・」
遅 刻 確 定
*****
という感じで事細かく書いてたら、学校にたどり着くまでに一話分になってた・・・
さすがにそれはないわーと、カットしていった結果、ダイジェスト風になりましたとさ。