第2話
冬鬼摩耶は、三階にいた。摩耶が部屋に入ると、そこは簡素な部屋だった。白いドアに、全面白の壁。窓が一つ。白いベッドに、木の机。白いクローゼット。他には何もない。
「これじゃ、刑務所と変わらないな……ったく」
そういって、荒々しく服をベッドに脱ぎ捨てる。ブラジャーはつけておらず、白い下着が露になった。
「服は……これか。あいつ、センスないな」
「うるさい、黙ってろ」
「はいはい……」
摩耶の周りには誰もいない。独り言だ。
摩耶の着替えた服は、白いシャツに、黒のテーラードジャケット、紺のカジュアルパンツだった。
「あー、眠てえ。寝ようぜ」
「黙れ」
「つれねえなぁ……オレはお前の身体状況について、代弁してやっただけだぜ」
「うるさい」
摩耶の独り言は続く。着替えの終わった摩耶は、階段を降りていく。そして、倉崎のいた部屋へ戻った。
「ほう、よく似合っているじゃないか」
「そうか? オレは、センスねーと思ったけどな」
「黙れ」
摩耶の口から発せられた言葉に驚く倉崎。が、すぐに冷静な顔に戻った。
「……二重人格か?」
「わからない。感情が高ぶると出てくる事が多い。意識が切り替わったことはない」
倉崎は顎に手を当てる。
「意識がそのままで、言動だけが変わる、か……脳に障害があるわけではないんだな?」
「知らない」
「ふむ……得た能力の弊害か……現実逃避か。わからんな」
「知らないこと、あるじゃないか」
「君が他人の前でそれを披露したことがないからな」
「……いつから、監視していたんだ?」
「別に君だけが特別されていたわけじゃないさ。この町に住む連中は全て監視対象だ」
「……」
「先ほども言ったが、君は天界や魔界の存在が乗り移ったわけではなく、自己が得た力だ。恐らく、自身に降り掛かった危機に対して、能力が発現した……とはいえ、君が初めての例だ。人にそういった力が存在していたのかどうかは、わからないな」
「……あんたは違うってことか? なら、あんたは『能力者』なのか?」
「さて、ね。それについて教える事は出来ない」
「……」
「早速で悪いが、仕事だ。最近、近隣で学生の失踪事件が増えている。失踪した学生と関わりを持っていたとされるのが、この女生徒……三原和子だ」
そういって、倉崎は写真を見せる。それを手に取った摩耶。
「こいつを殺せばいいのか?」
「そういうことだ。が、出来れば能力を発動しているところを、押さえたい。お前の眼で相手が能力者だということが判明したのなら、殺して構わない。相手を視ただけでもわかるのか?」
「わかることもある。それを隠しているような奴はわからない。あんたのように」
摩耶の目が赤く光る。しかし、倉崎は物怖じした様子も見せず、
「……そうか。なら、現場を押さえるしかなさそうだな。お前は、この女生徒を監視して、必要ならば、処理しろ。以上だ」
「わかった」
摩耶は後ろを振り向いて、出て行った。