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レッド・アイ  作者: マヤ
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第1話

 かつかつかつ。かつかつかつ。かつかつかつ。

 音。それは軽快でもなく、重いわけでもなく、ただひたすら鳴らす鐘のようだった。廊下に鳴り響くその音の主は……女。それも、若い。恐らく、学生だろう。

 女はゆっくりと、立ち止まる。表情は無。何事にも関心がないのか、表情自体がないのか。立ち止まった先にあるのは、ドア。それを女は開ける。

 開かれたドアの先には、こじんまりとしたオフィスのような場所。タバコの煙が充満しており、それがドアから抜けていく。

 女は初めて、やや不快そうな顔をした。タバコの煙が鼻についたのだろう。

「来たか」

 部屋の中にいたのは、女性。今度は大人だ。茶髪のショートヘアの女は、少しだけ女学生に視線を移すと、吸っていたタバコを灰皿に押し付け、向き合った。

「お前か、私を『刑務所』から連れ出したのは」

 女学生は口を開く。淡々と。

「そうだ」

「今日からお前は、ここで働くことになる。空き部屋は三階にある。そこを使うといい。少ないが、給料も出そう」

「……」

「どうした? 不満か?」

「……私が何をしたのか、知っているはずだろ」

「ああ、お前が『殺した』クラスメイトのことか? 知っているとも」

「人殺しの私にお前は何をさせるつもりだ」

「人殺しがすることは、『人殺し』以外に何かあるのかね?」

「……断る」

「ふむ……それは困ったな。君が適任だと思ったのだが……『能力者』が『視える』君にはうってつけの仕事だと思うのだがね」

「っ……お前っ!」

 そう言って、女学生は殴りかかった。それを、何でもないように受け止めるスーツ姿の女。

「オレの……何を知っている!」

「全てさ。冬鬼摩耶とうきまや。君の年齢、出身、経歴、スリーサイズまで、全てだよ」

「……そういうことじゃない!」

「ああ……君の『力』のことか。君の『眼』は能力者、それに関する力、異能、それらを視認出来るのさ。そして、それに対抗する力も持ち合わせている。君自身は、『能力者』ではないにも、関わらず、だ」

「それよりも、今……『オレ』と言わなかったか?」

「……」

 冬鬼摩耶は黙った。女を睨みつけながら。

「やれやれ……そっちの説明は追々するつもりだったが……どうやら、先にした方がよさそうだな」

 そういって、タバコを蒸す女。

「ふぅー……。その前に、自己紹介といこう。私の名前は、倉崎京子。この町は、私の『庭』でね。そこで好き勝手に暴れている奴がいると、腹が立つのさ。よって、そういう連中を君に始末して欲しいというわけさ」

「お前がやればいいだろう」

「これでも忙しくてね」

「やれない、とは言わないんだな」

 摩耶の言葉を受けて、倉崎は窓の外を眺める。

「君に拒否権はない。断れば、君は刑務所に逆戻りだ。そこで死刑を待つのもよし、私の仕事を引き受けるのもよし、好きに選ぶんだな。どちらにせよ、ろくな死に方はせんよ。私が保証しよう」

「……」

「君は学校のクラスメイト……40名の内、32名を殺害。手には血痕のついたカッターナイフ。逃げ出した数名のクラスメイトは心神喪失で、まともに当時の状況を話せない。状況証拠で君が犯人だと断定されたわけだ。そのカッターナイフにはたった一人の女子生徒の血痕しかついていなかったにも、関わらず、だ」

 摩耶は黙ったままだ。しかし、視線は変えない。倉崎を睨みつけたまま。拳を強く握りしめて。

「そう、実際は違う。君は犯人ではなく、被害者だ。犯人は『能力者』の女生徒……つまり、君の友人だ。理由は不明だが、当然、教室において『能力』を発動。次々にクラスメイトを殺害していった。そして、それを君が止めた。そういうことだろう?」

「どうして、お前はそんなことを知っている」

「私も『視える』からさ。それにこの町は私の『庭』だと言ったろう? 私の知らないことなんて、存在しないのだよ」

「じゃあ、お前もそいつらと『同じ』ってことじゃないか」

「しかし、君が私を殺せば、君は刑務所行きだ」

「それは、お前の仕事とやらを引き受けても同じことだろ」

「そこは、私の権限で揉み消すよ」

「……」

「君は、どうして自分の友人がそうなったのか。知りたくはないのかね?」

「……答えろ」

「君が引き受けると言えば、そうしよう」

 沈黙。両者譲らずといった姿勢が数分間ほど続き、重苦しい空気を解き放ったのは、摩耶の方だった。

「わかった、やろう。『能力者』について詳しく教えろ」

「いいだろう。立ち話もなんだ、席に座ったらどうだ?」

 そういって、ソファーに手を向ける倉崎。しかし、摩耶は動こうとしない。

 そんな様子を見て、倉崎は自身のデスクに座った。

「『能力者』……ま、簡単に言えば、人間にはない『力』を身に着けた者たちのことだ。力の種類は様々……空を飛ぶ奴もいれば、火を操る奴もいる。他人の生命を吸い取る奴もな。何でもアリだ。じゃあ、どうして人間にそんな力が身についたのか。少し話は長くなるが……」

「構わない」

 即答だった。摩耶の視線は倉崎を凝視したままだ。眼は赤く光っている。

「そうか。では、話してやろう。この世界は大きく分けて三つある。地上、天界、魔界の三つだ。天界では、天使や神、竜族などが力を持っており、魔界では、悪魔や、妖怪、堕天使、魔神などが猛威を奮っている。天界と魔界は日々争いを繰り広げていた。そして、ある時。地上の存在に気づいたのだ」

「……」

「しかし、地上には大きな壁があった。奴らは地上に現れる事が出来なかったわけだ。大きな壁のせいでな。だが、自身の肉体を捨て、精神体となることでそれを可能にしたというわけだ。そういった連中が人間に乗り移ったのが、『能力者』と呼ばれる存在だ」

「……いきなり、話が突飛しすぎていないか」

 さすがの摩耶も突っ込まざるを得なかったようだ。自身が体験した出来事を加味しても、あまりにもスケールがデカすぎる話。

「まあ、最後まで聞くんだな。奴らの目的は、地上にある大きな壁を破壊することだ。それと、もう一つ。ついでに天界と魔界の代理戦争まで起こしているということさ。まさに、一石二鳥というやつだな」

「急に世界がどうとか言われてもな。私に世界を救えとでもいいたいのか?」

「いや?」

「?」

「言ったはずだ。私は私の『庭』で好き勝手にやっている奴らが気に入らんとな。それを排除してくれれば、それでいい」

「……話はわかった。一つ、質問がある。『能力者』を止めるには、『殺す』しかないのか?」

「ないな。強制的に入り込む事が多いとはいえ、自分の意思で『契約』する奴も多い。どちらにせよ、そうなった時点ですでに『人間』ではなくなったんだよ。殺す以外に方法はない」

「……そう。これ以上、話がなければ私は着替えて休みたいんだけど」

「学生服で行動すると目立つからな。私が選んだ服が三階のクローゼットにある。君の部屋だ。着替えたら、また降りてきてくれ」

「ちっ……休ませろよ」

 そういって、摩耶は部屋から出ていった。すると、倉崎は電話をかけ始める。

「私だ。ああ、冬鬼摩耶の引取りを完了した。以降は、私の監視下に入る。コードXは破棄、冬鬼摩耶に関する全てのデータを処分し、戸籍を抹消せよ。以上」

 倉崎は受話器を置いた。そしてまた、タバコを吸い始めた。

「やれやれ……また一つ、仕事が増えたな」


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