失血死
初めまして子寝虎です。
やっと本編が始まりました。
少しでも多くの人に楽しんで貰えたらなって思ってます。
では、いい夢を
平和な日常。なんて平和な日常なんだ。
そんな風に感じたのはいつ以来だろう。暖かい日差しを浴びながら僕は今にも夢の世界への旅行に旅立つ寸前にいたその時だった。
「いつまでもぉ寝るな!」
バシッ!綺麗に乾いた音が教室に響いた。教師の右手が僕のつむじをひっぱたいたのだ。
「うぐっ!」
僕は風船から空気が漏れたような声をあげた。一瞬で現実世界へと連れ戻されたのだ。せっかくドリームツアーに行こうと思っていたのに……。
「寝ぼけた顔をしないでさっさと教科書を読め」
「へーい」
寝ぼけた顔をこすると席を立ち、折り目がついていない教科書を開いて僕は読み始めた。
何故かわからないが非常に眠たくなる月曜の6限目。それが終わっても7限目が待ち構えており、7限目が終わったとしても休みまで4日もあるという現実を思い知らされる時間。
学校に通う誰もが辛いと感じる時間だ。
いつもならばドリームツアーを満喫しているところだが、今日は何故か飛行機の出発を待つロビーの所で教師に引き戻されたのだった。
教科書を読み終えると教師の目線が別の生徒へと向いていた。
暇な時間が瞬く間に僕の目の前へと現れた。どうやら僕の隣にはサボローがいるらしい。
僕はポケットからスマホを出しメールの確認をした。
………。どうやら今日のバイトは無しのようだ。流石に今日もバイトがあると3日連続になってしまう。それは身体がもたない。
ほっと一安心をし、僕はメールの画面を開くと友達のサクヤに「今日、バイトないし帰りにゲーセンいこーぜ」と送信しようとした。しかし、その想いはサクヤには届かなかった。
「コータローくーん。なーにしてるのかなぁ」
目の前に鬼がいた。でっかい鬼が僕の集落を襲い、大切なものを盗んでいったのだ。
つまり授業をサボってスマホいじっているのが教師にバレ、没収されてしまったのだ。
さらば、僕のスマホよ………。
〜2〜
「ギャハハハハハハハハハ」
サクヤは大笑いをしていた。いや、流石に笑いすぎだろ。
結果的に僕の大切なものは鬼から返して貰ったが、反省文やらお説教やらで時間がかかりすぎてしまったのでゲーセンに行く暇がなくってしまったのだった。しかし、せっかくの暇なので家に帰るのももったいない。
そういうわけで今、男子高校生のフードコートで駄弁りましょうの会の真っ最中だ。
サクヤは近くのハンバーガーショップで買ったチーズバーガーほうばりながら「いいもの見た」と笑顔にオッさんのような顔で
「それにしてもスマホ取り上げられた時のお前の顔は傑作だったぞ」
と僕を煽ってきた。
「うっさい。それ以上言うな。」
「まーまー、結局戻ってきたんだから良かったじゃん」
「そーだけどさぁ」
僕はブツブツいいながら元凶であるスマホに視線を向け、ネットの2ちゃんねるを開いていた。
今の時代、この機械さえあればどんなことでも知ることができる。かつ暇つぶしにもなる。
僕はいつも通りゲームの攻略法を調べようとして開いているわけだが、ふととあるネットニュースに視線がいってしまった。
昨日のN市での殺人事件の話だ。テレビでのニュースではどの局も騒がしく取り上げできるのだが、これといって重要な情報は流れてこない。そんななかでここの掲示板には「N市の殺人事件について詳しく教えます!」とタイトルに書かれているのだ。
僕は別に興味があるわけでもないが少し気になったのでその記事に目を向けて見た。
流れるように記事を読んでいるとまるで、喉に魚の骨が刺さったような違和感が脳を襲った。考えすぎなのだろうか。そう考えていると僕の口はサクヤへと助け舟を求めだした。
「なぁ、サクヤ」
「どうした?」
「この記事、どう思う?」
僕はそう言うと自分のスマホの画面をサクヤの顔へと近づけた。
「あぁ。隣のN市の殺人事件の事か。確かに殺された人の数は多いけど……。これがどうした?普通の殺人事件だろ?」
「殺人事件に普通があるのかどーかは知らないけどさ、ほらここ読んでよ」
そういって僕は自分が違和感を覚えた場所までスマホに指を走らせた。
そこには『ーなお、警察は失血死した遺体の近くに血痕のようなものが見つかってないことから別の場所で犯行が行われた。とか言っているが噂によれば遺体の服にも身体にも血の色に染まった所は見当たらず、さらに言えばナイフのような鋭利なもので刺された痕も見つかっていないらしい。』と書かれていた。
「確かにその噂が本当なら奇妙な事件だけど。単なる噂だろ?」
「そうなんだけどさ」
確かに根も葉もない噂だ。それにネットで見つけた情報なんて簡単に信用できるものではない。
だが、僕の心拍数は確実にワンテンポを上がっていた。そして、その心臓の鼓動は脈を走り右手が、左手が、両足が、そして脳が震えていた。
恐怖だ。僕は今この事件に怯えているのだ。
最近奇妙な奴らと夜に鬼ごっこしたり、普段会うはずもない異常現象とデートしたりしているせいで脳内に「ありえない世界の存在」という概念が消えてしまったいるのだ。
結論を言うと、今僕はとんでもないことを考えていた。
普通に考えたら自分に全く関係のない事件だ。しかし、それは普通に考えた場合の話だ。
僕は口を開き、震えてている喉を動かしサクヤへと問いかけた。
「もしもこの噂は事実だとしたら、もしも刺し傷が見当たらないのに失血死していたとしたら……サクヤは誰が犯人だと思う?」
ごく普通のありきたりな質問。
「これの犯人か?うーん……」
サクヤは店の天井を数秒見つめると両目を閉じ、ゆっくりと口を開いた。
「もし事実なら、おそらく犯人は医療関係者だろうな」
そう言うとサクヤはコーラを飲み干した。
「だいたい何がいいたいのか分かるけど」
「まぁ、仮定の話だ。失血死で人を殺す場合、もちろんだが身体から血を抜かなければならない。それをナイフ無しって考えたら注射を使って血を抜き取る方法しか思いつかない」
サクヤはそう話出すと飲み干したコーラの中身を確認し、ブシャッ!っと片手で握りつぶした。
「まあとはてきとーに『輸血ご協力下さい』とか言っといて客を集め、人間が死ぬ量の血液を抜き取る。そして、集まった死体を夜中のうちに廃工場に捨てる。まぁ、だいたいこんな感じだろーな。」
それはそれであり得るようなありえない話だ。
「けど、それだとー」
「あぁわかってる」
僕がサクヤの考えに石を投げようとした言葉に被せるようにサクヤ自身が自分の意見に石を投げた。
「動機がないっていいたいんだろ。」
全くその通りだ。その考えには動機がない。
もし、血が欲しいなら普通に輸血業者を装いながら殺さない程度に血液を集めた方がより多くの血液が集まるだろう。
「そして、その方法で人そのものを殺したかったのならリスクが高すぎる。殺したい人間を殺すのに時間がかかりすぎるんだよ。」
確かにそうだ。サクヤの考えは現実性はまだあるが確実性が少なく、かつコストもかかりすぎる。そんな犯行を犯人が好んで行うとは思えない。
「つーか、なんでそんなこと聞くんだよ。探偵ごっこでもしたいのか?」
「この歳になって探偵ごっこはないよ」
「なら、どーした。もしかしてバイトのことか?」
僕は静かに頷いた。僕のバイトは少し特殊なのだ。悪く言えば後始末、よく言えば人助け。それが僕のバイト………「退魔師」の仕事だ。
「だとしてもこの件はオカルトとは関係ないだろ。」
「いや、そんなことはないよ。」
サクヤは首を傾げた。そしてまた数秒考えると目を丸くして飛び上がった。
「おい、まさかだとは思うが」
「 そのまさかだよ」
僕は魚の骨らしき違和感を取り除くべく、喉に手を突っ込むような声で喋りだした。
「刺し傷を残さずに失血死させる人の血を喰らう夜の王」
心臓が壊れそうだった。喉が震えていた。ただ怖かったのだ。その化け物のことを口から出すのが。しかし、僕の口はもう言葉にしていた。その名を
「ヴァンパイアだよ」
僕が言葉を奏でた瞬間、現実が消えていく音がした。