第三章 ある夜の星の風祭り
渡されたコップには薄い青のゼリーが入っているのだけれど、どういう理屈か中で一匹のクラゲがぷかぷか泳いでいる。キネムの方は三匹の白い魚がすいすいと泳いでいた。
「はい、これ」
パフェを食べるときに使うような銀色の細長いスプーンを受け取るもどう対処すべきかわからない。心地よさそうに泳ぐこのクラゲを食べろと言うのだろうか?
「食べられやしない物を出したりはしないよ」
私がまごついているのを見かねたのか、マダムはその外見とは真逆な流暢な日本語で言った。
そしてキネムが手本を見せるようにゼリーへスプーンを入れる。
「本当の魚がいるわけじゃない。幻燈だよ。コップに仕掛けがあるんだ」
すくったゼリーを口へ運んだキネムの笑顔を見て私も腹を決めた。
ゼリーにスプーンを刺すと、スッとゼリーが裂けて春風のような香りがはじけた。
中で泳いでいたクラゲは歪みながらスプーンを避けて、形を戻す。
面白い。
かわいいクラゲを眺めながらゼリーをすくい、食べてみた。炭酸飲料のようにぱちぱちと舌の上で跳ねたゼリーは噛むごとに極上の甘さを口内へ振りまき、ほんのりと鼻を抜ける。
そして絶妙ななめらかさと心地よい刺激を持ったのど越しで胃へ向かうのだけど、その時には口に残ろうとする甘さも一緒にのどへ落ちて口の中は歯磨き後のようにさっぱりと爽やかだ。
「おいしい!」
「あたり前さ。私はまずいものを作ったことがないんだ」
マダムの自信満々な笑みもこの味を前にしてはまったく嫌味にならず、それはもう心底感心するばかりだった。




