第三章 ある夜の星の風祭り
キネムの後を歩いて着いたのは先ほどまでの静けさが嘘のような喧騒がぎゅうぎゅうに詰まった南出商店街。
いつもは店のほとんどがシャッターを下ろした廃れた商店街なのに今夜は脇に露店がずらりと並び、老若男女の人々でごった返していた。店の合間合間には『風』の文字が書かれた提灯が赤くおっとりとした光を放ちながら縦に電信柱に負けないくらい高く積まれていて、これがキネムの言う『星の風祭り』なのだと確信した。
「私、本当に違う世界にいるんだね」と口にするとキネムは「そうだよ」なんて笑い、私の手を取り人ごみの方へ向かった。
路傍に並ぶ露店はどれも個性的だった。
青いカブトムシを売る店。太陽や月をモチーフとしたお面が並び飾られた店。
金魚すくいの金魚は虹色に輝き光の尾を伸ばして泳いでいる。
他にも食欲を優しく刺激する匂いがそこらから漂って、景色は華やかだからまるで夢世界。
けれど懐かしさもある。
子供の頃、つまり見るものすべてがまばゆく輝いていたあの頃の七夕祭りの雰囲気によく似ていたんだ。好奇心に心がひかれる。
「あそこのお店のお菓子がおいしいんだよ」
キネムが指す先の露店には『みず屋のぜりぃ』との幕が下がっていた。
店の奥には太った外人の中年女性。
ウエーブのかかった長い髪は金で目は青、鼻は高く、口が大きい。化粧は厚くて、真っ赤なドレスの装いは純和風の露天商としては異質だ。
「マダム。ゼリーを二つ。僕には魚、彼女には……そうだな、クラゲなんて良いね」
キネムがズボンのポケットから出したお金を渡すと、マダムと呼ばれた女性は「あらぁキネム。久しぶりだわね」と妖しい笑みを浮かべて店の奥から細くて背の高い二つのガラスコップを出した。