第三章 ある夜の星の風祭り
私は夜に出歩く方じゃないから普段の夜の街の雰囲気はよくわからないけれど、それでも十七年間過ごしてきたこの見慣れた街を歩いていると本当に私が別世界へやってきたのかわからなくなる。
だからケータイを使ってお母さんや恵子や奈津美に電話をかけてみたんだけど、コール音すら聞くことができない。
そして空だ。煙のような天の川や、溢れて落ちてきそうなほどに細かい光が無数に瞬いている夜空はやはり私の知っている街にはないもので存在しえない。
また街に人の気配はなく、しんと静まり返った家々。吹く風は妙に柑橘系の清涼な匂いを含んでいた。
さらに隣を歩くキネム。夜に映える透きとおるような白い肌を持つその姿はまるで物語で読む妖精のよう。
こうやってよく考察することで、外見は似ていてもこの世界の雰囲気は私が知っているのとはまるで違うことを思い知った。
「とりあえずは人のいる所へ行ってみよう。頼りになる人もいるしさ」
「人のいる所ってどこ?」
「祭りだよ」
「祭りなんてやっているの?」
「今日は七月十日、星の風祭りの日だからね」
「今日? 十月七日でしょ?」
「いいや、こちらの世界では今日は七月十日、星の風祭りの日なのさ」
キネムは迷いを見せずに歩き、私はそれに従う。
いったん異世界なんだと意識してしまうと本当になんておかしな街だろう。街と言うものには良くも悪くも汚れや臭さがなくちゃならない。でないと現実味がない。
なのに今日の街はとても美しく、清々しく、どこを見ても潔白だ。それでいて懐かしい。
本当に懐かしい。
私は過去に、この街のこの雰囲気を体験していたりする?
そんな気さえする本当におかしな街。