第六章 月光市場のある騒動
セント・エルモ号も心地よさそうに目をとろけさせている。
「では星のかけらを渡して頂こうか」
損をしたわけでもないのに不服そうな顔の長鼻さんに私は星のかけらを渡した。
受け取った星のかけらを眺める長鼻さん。
するとなんだか目つきが柔らかくなったように見えるのは気のせいだろうか。
いいや気のせいなんかじゃない。星のかけらにはそんな効果があるのだろう。
あの心に染み入る潔白な輝きは大げさに言うなら生きとし生けるものの本能に訴えかけるのだと思われる。
私の視線に気づいた長鼻さんはすぐに目つきを険しくして「いつまで店先にいるんだ。用が済んだのならとっとと行ってくれ」と手でしっしと私たちを追い払う仕草を残して店の中へ去った。
そこで私たちも移動しようとしたんだけど、工藤さんがそれを阻止する。
「いやいや、君たち、やはりお金を受け取ってくれ。でないと俺の気持ちが収まらない」
工藤さんはどうあっても引き下がる気がないらしい。するとキネムがセント・エルモ号の鼻筋をなでながら「工藤さんは雑技団の方なんですよね。しかもセント・エルモ号が相棒という事は何かしらの芸が出来るのでしょう? でしたら僕たちに何か芸を見せて下さい」と提案した。
なんて素敵な提案なんだと思った。
そしてそれは工藤さんにとっても同様だったようだ。
私たちは工藤さんがセント・エルモ号の新しい鞍を買うのに付き合って、一緒に月光市場から出た。
たくさんの星明りと月光市場から漏れた淡い光だけが照明の広い広い草原のステージ。
工藤さんとセント・エルモ号の馬術を観賞する。
工藤さんは今までと打って変わって凛々しくなったし、セント・エルモ号は大きく優雅で美しかった。
そんな一人と一頭の息の合った演技は時に心を躍らせ、時には肝を冷やさせ、そして大きな興奮を胸に湧きあがらせた。
つまり、私はすっかりと彼らの演技に夢中になっていたというわけ。




