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第四章 ある電車での出来事
氣燐が線路を横切ると私とキネムは自分たちのシートへ戻り、遠ざかっていく氣燐の大きな後ろ姿を窓から目で追った。
氣燐がはるか遠くまで行くと隣の車両から次第に声が上がった。
どうやら氣燐に心を奪われていたのは私たちだけではなかったらしい。
考えるまでもなく当然の話だ。私たちが生き物である以上、あの神々しい姿を無視できる者はいない。
神はいる、と確信させられたのだから。神の世界とほんのひと時とは言え、つながることができたのだから。
『お待たせいたしました。運行を再開いたします』
スピーカーが鳴って電車が動き出す。
そしてピエロは「今度こそ行きます」と隣の車両に向かう。
派手で陽気な格好であるのに、背中に糸のほつれを見つけた途端、強烈な哀愁を感じて胸がいっぱいになった。
「疲れたら無理せずここへ戻っていらっしゃい。私の隣は空けておくわ」
微笑みの女性に言われて振り向いたピエロの顔はパッと晴れやかだった。




