第四章 ある電車での出来事
ソレはすぐに見つかった。
と言うか見つけられなければ嘘だ。
薄闇の中、前方にビル程に背の高い何かが静かに歩を進めていた。
細くて高い四本の足に支えられた胴体から長くて太い首が伸び、その先端にある頭からは二本の角が生えている動物。
驚くことにその体はガラスのように透明で体内にはたくさんの青白い炎が詰まっており、てらてらと揺れ、ちろちろと燃えている。
「あれは……何?」
思わず言葉を漏らすと、後ろから微笑みの女性が「氣燐よ」と答えた。
「亡くなった方々の魂を遠き安住の地へと運び届けるのが役目なの」
「じゃあ、体内で燃えているあの青い炎は……」
「亡くなられた方たちの魂魄」
キネムの一言は嫌にはっきりと脳に刺さった。それはきっと私が大変なものを目にしているのを自覚させられたから。
あんなにも大きな身体に身を寄せ合い燃える数々の魂。
それが尊厳や威厳や崇高な真理などを見せつけながら一歩一歩ゆっくりと歩き、電車の向かう先の線路を横切ろうとしている。
ああっ、この光景……昼間、中岡南高校の文化祭の美術部の展示室で見たあの絵、そのもの。
「先日、僕の母が亡くなりまして」
ピエロだった。
「おそらく、あの中には母の魂もあるのでしょう」
かける言葉を探していると「死してなおあのように気高く美しいのであるならば、死後もそれほど悪いもんじゃありません。そう思いませんか? みなさん」
私たちは誰も答えなかった。
ただ静かに、本当に静かに、闇を薄く照らす氣燐の悠々たる歩みを眺めていた。




