青の宝玉の魔法使い
「では、ボス戦になります」「わかった! どんと来い!」
気合を入れてボス戦に臨む三名の魔王。
ゲームマスターはマスタースクリーンなるチャート類のある覆いの中でサイコロを振る。
「ボス、青の宝玉の魔法使いの眠りの魔術がクリティカルしました。みなさんは兵士に捕まり」
がたん。
コタツから立ち上がる神聖皇帝。何があった。
軽く左手を振り上げ、右手で長い髪をかき上げて冷たい目の魔王。
普段はコドモコドモで情けないがやるときはキッチリ殺しにかかる。
そしてオリジナルに至っては巨大な青い斧に手を伸ばし穏やかな笑みが逆に怖い。
『我らに透視能力が無いと思ったか!』
マスタースクリーンはこういう演出のためのごまかしにも使う。
PCの救済のためにも使うので一概に悪とは言えないのだがこの場合は相手が悪すぎる。
極所冷凍魔法を放つ神聖皇帝様。次元の彼方より神族悪霊を次々と召喚する魔王様。青い幻の斧で魂を直接狩りに来るオリジナル。
応戦するGM。何者だよ。そして四人の争いによりコタツは戦場となる。
おかげでとりあえずミカンが凍って全滅した。三人は泣いた。
「作者殿! 山口県熊毛郡上関町祝島より急遽ミカンの補充を頼む!」
なんでそんな僻地なところから取り寄せるんだよ?! 祝島の皆さんごめんなさい?!
「同じく山口県岩国市周東町獺越は旭酒造より獺祭遠心分離機磨きを頼む!」
GM様?! マニアックだな?! おれも呑んだことないよッ?!
「私も酒だ。ジムビームで」
落ち着いているな。神聖皇帝様。
「わたしも! わたしも……えっと。かるーあみるく」
魔王様。なんと申しますか。
「私は、スーパーの剣菱でいい」
おい。オリジナル。マジわかってるな。
「可能ならばカップ酒で良いぞ」
まぁ醸造アルコール入ったほうが安定していて『美味い』のは事実だ。毎年変わるデキを楽しむのとは別の発想だな。
「なるべく臭みの強い酒にしろ」
はいはい。買ってきますよ。
安酒で臭みの強い酒か……おれも詳しくないし酒屋に聞いてくる。
フルーティ系から入って呑みやすい酒、高い酒を呑み尽くして最後は安酒。
なんか理想的な日本酒飲みだな。
作者が寒風に震えながら帰ってくると既に出来上がっている娘三名とGM様。
「おかえりなひゃーい!」
魔王様に抱き着かれた。役得かもしれない。
「考えてみれば私たちは瞬間移動できた」
忘れないでください。オリジナル様。
「獺祭は二か月待ちですよ。GM様」
「『二か月後』にオリジナル殿が旅立って取ってきてくれました」
無敵すぎる。タイムパラドックスどうした。
そしてその酒、俺にもくださいよ!?
「付き合え」
からんと上品な音を立てるグラスは薩摩切子。
丸く削った大きな氷と結露した器、琥珀色の酒が美しい。
芳醇なきつめの香。それを持つ者の悪趣味な金の仮面がきらめく。
「ウヰスキーは温度や水、口に含んだ唾液。器。煙草。
うつろうときと環境でいろもかたちもあじもかおりもかわっていく。
そう。うつりゆく時間を楽しむ酒だ。そう思わないか」
あの。もう1000字突破しているです。神聖皇帝様。酒語りは次回に。
ちなみに彼女たちがプレイするプレイヤーキャラクターは絶賛最終決戦中である。
まだ見習いの身なのに最終シナリオで戦うはずだった各上とガチになったのは眠り魔法クリティカルをなかったことにされてシナリオ(運命)が激変したからである。
「もう、だめかも」
がっくりと膝をつくミザリィ。傷を治すどころか自分自身が限界だ。
「ここまでかっ?!」
魔法切れで杖を握って前線で戦う魔法使いサラマンダー……ってなぜ前衛?! 下がれよ?!
「あきらめるな!」
ヒサシは短剣じゃなくて十フィートの棒を振り回している。
ぶっちゃけ、素人相手なら短剣を持つより長物の棒のほうが圧倒的に強い。
オリジナルの作者の父も棒が得意だ。判定上は『素手』だが初期キャラクターの盗賊の素手はクリティカル判定はさておき成長によるボーナスが無い普通の武器攻撃より強かったりする。
正直、クリティカル眠り判定魔法の演出という名前のインチキを見抜いていないほうが良かったのだが、現実世界ではプレイヤー、マスターとも絶賛酒盛り中で彼らの窮状は無視されてしまう。
「きゃああああああああっ?!」
「ミザリィぃぃつ?!」「ミザリィ殿ッ!?」
遂に敵の凶刃を幾重にも受けて倒れる僧侶ミザリィ。
ヘラヘラと笑いながらGMはこうのたまった。
「あ、サイコロ振り間違えた~」
正しくマスタースクリーンはこう使う。
「しっかりしてくれ。GMどの」
ミザリィの主のオリジナルは酒に酔えない体質なので真面目に告げる。
「あ、振り直して良いから」「解った。感謝する」
「あれ? 私生きているんだけど?」「ミザリィ?! 大丈夫かッ?!」
駆け寄る仲間。安堵するサラマンダー。
そんなプレイヤーキャラクター側と違ってこちらコタツ側のプレイヤー席。
「あ、オープンダイズクリティカルした」致命的なギャグをかますGM様。
PC側では戦闘は絶賛続行中なので当然ミザリィ嬢は次の攻撃を受け続けるのである。
「ミザリィィっ???????????」「わ、私、やっぱり不幸だったわ」
どん!
神聖皇帝はコタツをひっくり返した。教皇師団。もとい強硬手段だ。
別名、ちゃぶ台がえし、イッテツーン。
転がるオリジナルディーヌスレイトのサイコロは作者に抱き着いてヘラヘラ笑う魔王様の足元に。
結果はピンゾロ。ファンブル。つまり即死である。
「ミザリィ~~~~~~~~~!」「かっ……はっ……。(も、もういい加減殺してよ)」
GMはコタツの外に出たサイコロは無効なる判断を下した。
常識的判断であるが、PC的にはたまったものではない。
敵に集中攻撃を受ける僧侶ミザリィ。別に解決手段が提示されたわけではなく、酒飲みのノリで何度も振り直しを敢行される。哀れな。
「あ、また死んだ」
現実世界でサイコロを手にヘラヘラ酒盛りを敢行する無慈悲な神々(プレイヤー)たちの元。
「ミザリィ~~~~~~~! なんかこの会話何度したっけ? サラマンダー」「さぁ。気のせいじゃないか?」
四十九回目の死亡を記録したミザリィ嬢。
「とりあえず、私が集中攻撃を受けているのが不味いのではないか。何度も振り直せというから従ったが」
冷静というか、もともと酔えない体質のオリジナル様。
酒のみのテンションに付き合えなくなって冷静に指摘する。
正直、妹たちのキャラの支援が欲しいところだ。
虎の子の眠りのスクロールがあったはずだし、ヒサシだって新しい攻撃技を持っている。
特に『空蝉』で敵の攻撃を肩代わりできるのであるからそれを使うべきである。
「いいから、いいから。振り直し振り直し!」
「こうなったらレベル3のキャラがラスボスの攻撃を防ぎきるまで振りましょうオリジナル~!」
「じゃ、私もほんきだしちゃおっ♪」「ふ。異論はない。存分にやれ。GMよ」「やっちゃえやっちゃえ?!」
「『地獄の焔』『死の雲』『隕石雨』『闇の焔』」「きゃー! すてき!」
作者はオリジナルの視線を受けてサイコロに手を加えた。
全部マジックで『6』と書いただけのお粗末なものだったが残りの三人は気にしなかったと追記しておく。
「スゲエな。よく耐えたなミザリィ」
フラフラの血まみれの僧侶は呟いた。
「たぶん、邪神の戯れ……ぐふ」「あ」「あ」
ミザリィは倒れた。生死判定すら強制成功にされてしまう。
酒飲み(プレイヤー)どもはそれでいいが、現場はたまったものではない。
プレイヤーの性格。
長女オリジナル 真面目ボケ。だんだんボケていられなくなった。
次女神聖皇帝 冷静に見えて実は純情。酒豪らしい。
三女魔王 コドモ。酒を呑ませてはいけない。
キャラクターたち。
ミザリィ 不幸がキャラになってきた。(プレイヤーはオリジナル)
ヒサシ ボケが出てきた。(プレイヤーは神聖皇帝)
サラマンダー 杖で殴りかかるワイルドさを出してきた。(プレイヤーは魔王)