魔の城塞都市
『迷宮探検競技』。
悪名高い城塞都市の国技と言ってよい競技。
かの城塞都市の地下に広がる古代の上下水道。
その地下には古代の魔物、迷い込んだ浮浪者や犯罪者。
そして今なお残る古代の遺産。
それらを求めて入り込んだ哀れな二次犠牲者。
死者が集いて貯まった魔力が遺品に宿った霊刀魔剣。
そして膨大な命を吸い上げ、それ自体が魔物化した地下遺跡。
これらの脅威、富の配分を一挙解決すべく領主が行うイベントである。
冒険者たちは迷宮と化した上下水道にて魔物や悪霊の駆除活動を行い、その過程で得た戦利品を独占する権利を国家から正式に保障される。
そしてその様子は魔物と化した『迷宮』と領主の利権の都合から、外にいる領民たちにすべて実況中継。
その結果は賭け事となり、年に一度の祭りとなって国民を熱狂させる。
駆け出し冒険者の三人にとって競技の優勝争いは関係ない話だが、それだって生活費を稼ぐためにその辺の農民や農奴、職人の作った簡易パーティとともに初期層の駆除活動には参加することは可能だ。
可能である。普通は。
「で。こうなるわけか」「相変わらず貧乏籤ね。ヒサシ」
肩をすくめる盗賊。同じくうんざりとする完全武装の僧侶。
僧侶と言えば日本人としては神聖な職をイメージするが、実体は回復魔法を使う戦士である。
「きびきび働け。二人とも」
装備品の短剣より明らかに武器として優秀そうな一〇フィートの棒を手に罠を警戒する必要もなければ魔物と直接刃を交えずに済み、今のところ罠探しに何の貢献もできない魔法使いは楽なものである。『明かり』の術だけ維持していればいい。その『明かり』だって念のためランタンと併用である。
三人は遺品探しの依頼をしていた。本当に貧乏籤である。
「なんでこんな仕事」「教会の指示」「クソッたれ教会め。呪われろ!」
迷宮に入った人間は死ぬと速やかに魔物化した迷宮に消化されてしまい、あっさり骨になる。
その間は大した魔物は湧かないので信徒やお金のない農奴などは教会を通じて遺品探しを依頼する。
生臭坊主たちは危険な迷宮に潜りたくない。ならば駆け出しの出番である。
「骨見つけた。ナマンダブ。ナマンダブ」「なんだその呪文は。ヒサシ」「サラマンダー。いや、俺の故郷の呪文さ」「盗賊が慰霊の呪文? 呪われるわよ」
「おい。なんかあるぞ!」
遺品あさりが仕事だが金目のものは持って帰って問題はない。
全ては三人の自己判断と言う名前の良心にゆだねられる。
そして良心を優先するほど三人の冒険者には軍資金はないのだ。
「宝石。かな」「真っ赤ね。不気味だわ」「だが、高く売れそうだ」
お互い首肯し合う三人。
この宝石が、そしてすれ違っただけだった姫君が彼ら三人の運命を大きく変えるとは、今の時点では誰も知らない。
一方。
「うーん」「うむ」「これは」
三人の魔王は湯あたりならぬコタツに当たってダウンしていた。
風邪をひくので程々にしてくれ。