ねんがんのれべるあっぷがやってきたぞ
『助かりました。冒険者の皆様。では我々は姫を護衛して旅を続けることにします。これは少しばかりのお礼です。では』
騎士団はそう告げると嫌がる姫君を連れて馬車を移し替え、去っていく。
残ったのは半壊した馬車に盗賊たちの遺骸。傷だらけになりながらわずかな金貨を握った三人の冒険者。
セッション終了。
得た財産がそのまま経験値になる。つまりレベルアップだ。
「傷を治す術をやっと手に入れるのか」
前回ずったぼろにされて死にかけたミザリィ(オリジナル)。
教会に借金して手に入れたプレートメイル(キャラクター作成時の『所持金』にて買ったものはGMが許可する限りどんなものでも入手可能だがゲーム開始後の所持金もしくは借金の負債額が10倍になるルールがある)が無ければ死んでいる。
僧侶は武器防具ともに重武装が可能だがHPは盗賊と同じだ。
ミスすればあっさり死ぬ。初期僧侶は回復役と勘違いされて集中砲撃喰らうし。
逆に装備できる品の少ない盗賊はなぜか金持ちになる。
金持ちは盗賊やらない。なぜだ。
初期装備購入ボーナス金で魔剣を買っても盗賊の短剣ならばお釣りがくる。
「これで隠密とバックスタブ(背面攻撃)を手に入れた」
急所突きしか使えない軽装戦士でしかなかったヒサシ(神聖皇帝)。
彼はかなりのパワーアップを果たした。
「わーい! 鑑定を手に入れた~!」
全然パワーアップしていないぞサラマンダー(魔王)。
でもHPは増えるし微々たるものだがパワーアップもする。
累積HPが平均値より極端に低い、あるいはダイスの目が『1』の場合、『1』が出る限りHP再上昇判定を行うことができる救済もある。
魔法使いのHP判定はサイコロ一個を一回振って2で割った数字がそうなる。これを業界用語で『1/2D』と呼ぶ。
つまり魔法使いは三分の一の確率でHP再上昇判定がある。
再上昇判定を連打してHPを4増やし、さらに6を出してHPを7増やしたサラマン
ダーに二人の仲間は告げた。
「今日からサラマンダーが前衛」「死ぬわ?!」
振るダイス数が少なく、HPの低い職業はまれにこういう逆転現象を起こす。
ちなみに二人はサイコロ1つだ。
余談だが特殊技能がまったくないといっていい戦士はサイコロ二つである。
二つのサイコロのうち片方でも一の目が出れば追加判定でもう一個のさいころを振れる。両方一なら二つとも振れる。高レベル戦士はほとんど死なない。
装備も盗賊たちの遺品を得てパワーアップ。
彼ら三人は盗賊たちを荼毘に伏してとりあえず旅立つ。
この辺は律儀というかプレイヤーたちの性格が出たらしい。
「嫌々って感じだったな。姫さま」「ヒサシ。あなた何を考えているの」「二人とも、良いか。我々は駆け出し冒険者なのだ。私の魔法など大した力はない。魔法なんて名ばかりだ。奇跡が使えるわけではないのだぞ。妙なことに首を突っ込むな」
旅の空。
整備された街道を踏みしめつつ三人の冒険者は歩く。
秋風が程よく吹き、木枯しの匂いがやってくる季節が近づいている。
早く目的の城塞都市につかねば今年の冬は凍死間違いなしだ。
冬の間は貯えを駆使してなんとかしのぐ算段だがそうはいかないのが世の常である。
「この金貨があれば少しはもつかな」「楽観的ね。ヒサシ」「魔法代が欲しいのだがヒサシ、融通してくれ」「私なんて来年の春までに大金貨一〇枚用意しないと……怖気がするわ」
『お金なら、あります!』
がばっと立ち上がる魔王様に突っ込むプレイヤーキャラクター三名。
『黙っていてください。そっちにいてください』『はい……』
頼むからメタネタは勘弁してくれ。