キャラクター設定は実は一番楽しい時間なのかもしれない
『かの登場人物の生まれた背景を決めて、むっつの能力値をさいころ三つで決めて、さらに種族や所持金、所持品等も決めていく』
ぎこちなくもサイコロを振る三名の女性。
ときどきサイコロがこたつから落ちて無言で誰が取りに行くかをけん制し合う。
「緑茶が入ったぞ」「ありがとう。作者様」どういたしまして。
しかめつらをしたりサイコロの材質に興味深々だったり。
そこ。そこの魔王様。口に入れるな。あんたは子供か。
「オリジナル。このサイコロの材質はなんだ」「プラスティックだ。樹脂に近い」「琥珀のようなものか」「まあな」
冷静に会話してスルーする二人。
隣ではサイコロを飲み込んで悶絶する魔王様。
部下には見せられぬ姿である。
「職業はどうします?」GMの言葉に答える神聖皇帝。
GMとは進行役であり、魔物やプレイヤー以外のキャラやその他シナリオ進行を担当する。
神聖皇帝はちょっとだけ頬を赤らめたがその顔は金色の悪趣味なお面で隠れているのでお目にかかることはできない。
「勇者です」「却下。そんな職業はありません」職業選択の自由はないのか。
「では戦士」「私も戦士」「私もだ」
何故に戦士……戦死するわっ?! PTはバランスを考えて組もうね?!
『戦士、盗賊、野伏、僧侶、僧正、魔法使い』
この六つしか選べないというGMに不満ぶうぶうな神聖皇帝様。
「それでは魔法を使いながら剣を使えないではないか」「この世界では普通です」
色々逡巡していた神聖皇帝様は面頬を押さえて呟いた。
「『盗賊』でお願いします。名前はヒサシ……きゃ(はあと)」
勇者からいきなり盗賊か。凄い落差だな。
白目を向ける二人の魔王たち。盛り上がる神聖皇帝。
「二つ名は心を奪うあなただけの盗賊」「長い。却下」「却下だ」
既に三姉妹は冷戦に突入だ。いつ温戦になるか未知数だ。
「盗賊と言うが、私の世界でいう忍びの者か」「です。泥棒とは限りませんね。諜報や斥候を得意として、暗殺術のような軽装にして不意を打つ攻撃を得意とします」
初心者は盗賊と聞いて嫌な顔をすることが多いが、魔王たちは見識が広いらしい。
「戦士は戦うしか能がありませんが、それゆえ演じる余地があって楽しいです」
「野伏はルールを熟知すると楽しいですよ。狙撃も盗賊同様にこなせます」
「僧侶は僧侶系魔法使いであると同時に近接戦闘もこなします。
僧正はひ弱で成長も遅いのですが魔法使いと僧侶の両方の術を使いこなします。魔法使いは強力な術とマジックアイテム作成能力を持ちます」
「種族ですが」「理解できぬ。問題なく交配できる種族は皆同じ種族であろう」無駄に分類学の知識を披露してはいけない。魔王様。
「私は僧侶だな」オリジナルは答える。
名前はラッキィで……とつぶやく彼女は唐突に飛び上がる。
見ると全身に鳥肌。何があったのだろうか。
「う、うむ。名前はミザリィだ」なぜ震えている。憑りつかれているのか。
「では私は魔王使いで『先輩』です!」
魔王様。地味に誤字している。魔法使いだろう。
はきはきと答える魔王だが、その腹には一〇個目のミカンが投入されたばかり。そろそろ破裂するのではないか。
却下。他作者の作品のネタは辞めろ。マジで。
「じゃ、じゃ、さらまんだーでいいや」
おい、魔将。哀れだな?!
ここに三人のキャラがそろった。
人間の盗賊ヒサシ(神聖皇帝ディーヌスレイト)。
半妖精の僧侶ミザリィ(オリジナルディーヌスレイト)。
機械人、もといエルフの魔法使いさらまんだー(魔王ディーヌスレイト)。
この三人である。
「では、最初の物語は皆さんが街道を歩いていると……」
物語を開始するGM。
しかし三人は既にその場にいなかった。
「車を使ったほうが楽だぞ。ミザリィ」
「うむ。快適だな。この馬なし馬車は」「ですね!」
和気あいあいと神聖皇帝操るファンタジーな世界にはない自動車に乗って旅を始めるプレイヤー三人。車種はなぜかダイ〇ツミゼット。
戸惑いつつも応じるプレイヤーキャラクター、ヒサシ、ミザリィ、さらまんだー(なぜかひらがな)とともに荷台ではしゃぐ魔王さま二人。
『戻ってきなさい』
大きな文字が天空に表示され、三人は元の世界に戻った。
RPGプレイヤーの夢、自キャラとのコラボを余裕でこなす魔王様方。やっぱり無敵である。