機械世界の魔法使いたち
「おいっ?! オリジナルッ?! 早くしろ?!」
先端の曲がった銃を路地の端に出して弾幕を作る『神聖皇帝』。
パンクでサイケなファッションと頭の半分を刈り上げたアレな髪型、そのくせ身体はボンキュッボンな美女である。
ただしその身体はほとんどすべて機械化されており、その皮膚の下はチタンの骨に包まれている。確実に抱くというよりボキボキに折られる。
「もうやだぁ?! おうち帰るぅ?!」
現代によみがえった魔法使いは都市精霊を召喚。
精霊が収集した雷撃は近くの電線や機器から敵をつつむ。
「シット?! 何をするのよ?!」
「どうした『オリジナル』」
楚々とした美女はその見た目に反して言葉遣いが最悪だ。
いつもコンピュータが友達なのでヒキコモリ気質全開ともいう。
「さっきの電気で機器がパンクした。ハッキング失敗」「おいっ?!」「え?!」
戸惑う三人に情け容赦なく降り注ぐ敵の攻撃。
「このトンマどもがぁ!?」チャーリーの罵声が響く。
本来彼の仕事は戦うことではないのだが致し方ない。
「辛うじてコードを引っこ抜いて脳を焼かれずに済んだ」
ちなみに強烈な現実世界酔いをするのでお勧めしかねる荒業である。
ふらつくオリジナルを囲む二人。強烈な火球が三人を包むが辛うじて『魔王』の放った水球がそれを打ち消す。
「ああん?! もう最悪っ?! びしょぬれ?!」
「自分で放った魔法だろう」「サイバーデッキを防水加工していて良かった」
ゴスロリ服は微妙に透けるらしい。
本来なら萌え萌えなのかもしれないが、ここにいるのは野暮な影の仕事人どもである。
最初から露出度は高いが皮のボンテージの『神聖皇帝』はさほど影響はないが『オリジナル』嬢には思うことが多いらしい。
「『赤の宝玉』をよこせ! 汚いドブネズミどもめ!」「濡れ鼠と呼んでほしいわねッ?!」
バラバラバラバラ。
恐ろしい数のサイコロが振り回されるのはこのゲームの仕様である。
スキルの数だけサイコロが振れるのだから大したものだ。
三人は社会的地位で制約を受けやすい『エルフ』であるためさらに特別枠のサイコロを与えられている。判定には強い。
ゆえに何とか死なずに済んでいるが、一発受けたらあっさりお陀仏になりかねない。
代わりにエルフは人間より基本ポイントが低めに設定されてしまうので初期は大変貧弱である。
基本ポイントの振り分けの関係でサムライは借金大王ならぬ借金大皇帝になる。
同じくデッカー(ハッキングを専門とし、この世界においてすべてネットで接続されている周囲の電子機器を操り、小型攻撃機・ドローンやネットで接続された自動車や飛行機を己の意思のみで自在に操るその姿は魔法使いと変わらない)も借金大王になる。
比較的マシなのは魔法使いだが彼女らだって魔導書、魔法強化物品などを買えば金欠になる。
金欠になれば何をすればいいか。
もちろん銀行強盗である。
「あはははっ? 『青の宝玉』の連中の絡んだ銀行を狙ったのは間違いだったね!」
ちゃんと調べろよ!? といいたいところだがこの世界の企業は国家より権力があり、国家は傀儡政権となっている。
どの企業もなんらかのつながりを持っている。変に襲撃したら企業軍が襲ってくる。まして向うが合法的にこっちを殺れる状況に自ら足を突っ込めばこうなるのは必然。
余談だがこの世界。
トービン税が導入されていて、各国の通貨を転がす行為には税を払う必要があり、その税金分が傀儡と化した国連の運営費、テロリズムの本拠地となった発展途上国やついぞ見たことのない貧困層に還元されている。らしい。
らしいというのは三人ともその恩恵にあやかった記憶がまったくないことなのだが。
物心ついたときには路上で置き引きカッパライ。誰が仕込んだのかハッキングな日々だった。
この世界では現金通貨はあまり流通していない。ATMをハッキングすると足がつきやすいので使用済みのキャッシュチケットをクラッキングして不正に習得するのが普通だ。
とはいえ、彼女らの必要額を考えるとやっぱり銀行強盗を考えるべきなので、結果的に敵の本丸に意図せず攻め込むマヌケをかます羽目になっている。
「もうブッ飛ばそう。爆弾あるか。爆弾」『神聖皇帝』がキレて叫ぶ。
「ある。ドローンに載せて蒔くのも可能」そこはとめろ『オリジナル』。
「おし。良い機会だから『青の宝玉』も奪って逃げよう』
逃げ場がなくなって死ぬぞ。逃げるか奪うかどっちかにしろ。『魔王』。
「こんな阿呆どもにこの世界を任せて良いものか」
チャーリーは己のコネクションの少なさを嘆いていた。
しっかりしろ。チャーリー。元はお前の調査不足だ。
頑張って生き残ってもっといいエージェントを手に入れるんだ。




