メンバーがリプレイ小説を書きだすと卓が荒れる
「……」「……」「……」
にらみ合う三人のディーヌスレイト。そしてGM様。
その視線の先は不穏な様子を見せるGM様のサイコロに。
もちろんマスタースクリーンはあるのだがこの三人には透視能力があるので全然役に立たない。
『……』『……』『……』
表面上はおとなしく卓に座って穏やかに進行しているがその実はサイコロの目を。
『運命操作』『因果応報』『念力』『斥力』『風の手』『重力の刃』
お互い必死で弄っていた。どうしてこうなる。
三人とGMは各々リプレイ小説を書きだしてなろう投稿をはじめていた。
ちなみに魔法バトル小説として一番受けを取ったのは魔王様、次に若干BL臭のあるギリギリラインを攻めて女性読者含む一般受けを取った神聖皇帝様。
なぜか詩集になったのがオリジナル様で受けがよろしくないのはGM様である。
ヒサシは素早く敵の後ろに回り込むとガッチリ首を締め上げ、首相撲に持ち込んで膝を何度も打ち付け、さらに首をひねって敵を倒した。あれ?!
「ん……?」「どうした? ヒサシ」「い、いや、なんかやりすぎてしまった」
すまないことをしたなぁ。
既に気絶しているのに解放されて正面に回られて膝をガンガン打ち込まれたらたまらない。というかぐったりしているのになぜできるのかやったヒサシですらわからない。その上さらに後ろに回って首をひねるなどできようはずがない。怪奇の事件は魔王(神聖皇帝)の仕業。
このNPCはGM様が頑張ってキャラクターデザインした本来中盤まで活躍する美形敵NPCであり、GM特権で双子の弟もしくは本人が蘇生して復活してくるのだがこのあたりは語る必要もない。
ミザリィは大公が雇った傭兵たちの蛮行で傷ついた人々の癒しを行う。
ヒサシには患者全員に優先順位タグをつけさせて軽症者は包帯を巻き、建物の消毒や密閉換気をサラマンダーに任せ、聖堂に集めて『回復の歌』『心の癒しの歌』。
生命にかかわる重症患者には素早い治癒。
地域の有力者の優先は戦時のような事態でない限りは皆平等。
敵も味方も癒す。さらには軽症者を手伝いに駆りだす。
「ん?」「あれ?」「私、どうしてこんな知識があるのかしら」
統計学に基づいた適切な初期治療、便所などの公衆衛生の重視。病院建築構造の革命を成したのは1820年の統計学者にして社会起業家。看護教育学者。そして看護師でもあるフローレンス・ナイチンゲールの登場を待たねばならない。
いくらミザリィが医学に精通しているといってもこんな知識はない。
人類どころか星々が滅んでいくさまを見続けていたオリジナル様には常識かもしれないが。
「くそっどこから湧いてきたんだこの餓鬼族どもは」「ヒサシ。援護するわ」「私も微力ながらお供します」「姫は下がってくれ」
サラマンダーは小麦粉の詰まった袋を投げるが早いか魔法をぶつけ、粉塵爆発を起こして敵を撃退した。
「……魔王よ」「なに?」
「一応、言っておくがこの状況で粉塵爆発は起こらぬ」「知ってる。読者が喜ぶもん」「一応、ルールにはあるな。おそらくデザイナーに知識がないのだろう」「このゲームはどうなっているのですか」「GM殿がいうな」
雰囲気最悪の四人。現場では『なんかすごい爆発を初級呪文でサラマンダーが放った?!』と慌てるプレイヤーキャラクター三名と姫君。
なお、粉塵爆発判定なるルールはあるにはあるが、プレイヤーが意図して使用することは避けてくださいとはQ&Aブックに書いてあるのだが。
情報の非対称性とは経済学の言葉である。つまり魔王はだんまりを決め込んだのだ。
更に雰囲気が最悪になる四人。もう面倒ところころコタツにもたれかかり、携帯ゲームを弄ったりカードゲームに興じたり漫画を読みだしたり。もはや雰囲気最悪というよりTRPGサークルとして末期である。
「あ」「どうしたGM」「ワンダリング(さまよう)モンスター判定の時間です」「ああ、適当に振れ」「つかれたよ」
ともすれば雑談になってしまうプレイ時間を短縮するためこういったルールがある。
もちろん実際に振るか否かはGM様の腹ひとつのランダムモンスター判定だが、今回は相手が悪かった。
「あ」
さすがに念力でサイコロを振りあうのは疲れたのかぐったりしている四人の娘たち。
「どうしたGMどの」「どうしましょう」
様子がおかしいGM様。
「なんだ」「どうしたのだ」「どうしたの。GMちゃん」
顔を青くしているGM様はこうのたまった。
「レッドドラゴン出ちゃった。どうしよう。明日のプロットを私は書き上げてしまったのですが」「……」「……」「……私もプロット書きおわっていたのだけど」
既に小説を書くためにゲームをしていた四人にサイコロの神は無慈悲なる試練を与えた。
これを因果応報といわずしてなんといおうか。
このままでは姫君含めて四人とも全滅である。どうしてこうなった。




