ところでぼくをみてくれ。ぼくをどう思う。『すごく……ちいちゃいです』
今、服を求めて全裸騎行している俺たちは酒場で腐っているごく一般的な冒険者。
強いて違うところをあげれば不幸属性が半端ないことと魔王や神聖皇帝やらゲームマスターとかを名乗る邪神どもの加護を受けているってことかな。
名前はヒサシ、サラマンダー、ミザリィ。
そんなわけで逃げる途中にある村に立ち寄ったわけだ。
「うん?」「どうしたヒサシ」「もう、もう風邪をひきそう。死んじゃう」
ふと見ると村の入り口に一人の子供が座っていた。
「あら。可愛い」「気を付けろ。『子供たち』だぞ」「ふむ?」
突然彼は三人の見ている前でツナギのホックをはずし、『歓迎。候女様ご一考我が村へ』とののぼりを見せたのである。
「とまらないか」是非もない。
こうして服のない俺たちはホイホイと彼についていったのである。
『子供たち』と呼ばれる種族は優れた身体能力と圧倒的な盗賊や狩人の技、卓越した暗殺の腕、さらに因果律に愛された意味不明なほどの運の良さを持っている。らしい。
俺たちの素性をあっさり見抜いたあたりお察しと言える。
敵か味方かというと怪しいが、基本的に善良な種族と聞く。信用はするなともいうが。
「人のサイズの服はないからちょっと待ってね」
暖かいシーツと毛布を貸してくれた彼とその家族。
それをトーガのようにまとった俺たちはようやく一息つく。
姫君の視線が相変わらず痛いのは全裸状態で二日近く旅をする羽目になったからだ。
姫いわく、『もういろいろと傷物にされた気がします』なにもしていない。
サラマンダーのアレが凄くデカい。ナニがと聞くな。察しろ。
こぽこぽと茶が湧く音に耳を澄ましていると、幼児にしか見えない主人の祖母である少女が巧みに針を動かして俺たちの服が見る見る出来上がっている。
可愛らしいアップリケはちょっと引くがステッチの出来あいはさすがの技だ。
「ありがとうございます。何から何までお世話になって」「いいのいいの」「なのの!」
先代の侯爵はひどいヤツだったらしいが、娘はなかなかの人格者だ。
取敢えず俺たちに対する視線は相変わらず冷たいが、彼ら『子供たち』に対しては優しい。
「ひめさまおんぶ」「だっこ」「ひさしひさし」「みざりぃ。お話読んで」「さらまんだー。高い高いして」
見た目は皆幼児なのでいろいろ間違えそうだが中には俺たちよりずっと年上もいるわけで。
「公爵との戦いは厳しいよ」
魔法抵抗力を持つ彼らは公爵から敬遠されている。
暗殺者を派遣されれば公爵とてたまったものではない。
しかし彼らは今のところ動くつもりはないらしい。
姫君の説得にも動く気配を見せなかった。
それでもかくまってくれるだけ好意的と言える。
「だから、いくつか贈り物をしたいの!」
彼らは小柄な体にケーキを乗せて、ささやかな宴を開いてくれた。
剣や鎧は彼らの祖先とともに戦った人間たちの遺品が主なものらしい。
「おじいちゃんのおとうさんのおともだちの鎧なの!」「お婆ちゃんのおかあさんのお姉さんの知り合いの女の子が将軍になったんだけど、将軍になる前に作った鎧なの!」
由緒正しい襤褸服や鎧を目を輝かせながら俺たちに試着を迫ったり直したりしている姿は微笑ましい。
「追っ手は適当にあしらっておくけど、姫様……ごぶじで」
手を振る幼児もどきたちに感謝の意を示し、新しい馬を得た俺たちはまた旅に出るのであった。




