フ〇チンで姫君を奪い去る冒険者
部屋が歪むほどの高温を放つ炎の槍を幾重にも身体の周りに展開し、いびつに笑う仮面の男。その熱さに思わずバスタオルを落としそうになるミザリィ。
そっちかよ。そっちである。身体と顔はエロ担当。中身は結構純情ミザリィさん。
「部屋を壊すわけにはいかんからな。部下も大事だ」
肩をすくめて公爵は笑う。
「この程度の術で充分だ」
そしてその手を振り上げる。
そのとき、幾重にも飛来する槍があっというまに掻き消えた。
「え」「なに」「なんだと」
「私は何もしていないぞ」「私もだ」「わたしも」
ディーヌスレイト三姉妹にGMは笑う。
「援軍です」そして妖艶に笑って獺祭の残りを啜る。
「おいし♪」全然関係ないがGM様もボボンキュッボボンである。
三人と公爵に間に割り込んだのはうら若き乙女。その手には銀のレイピア。
「公爵?!」「婚約の日まで大人しくしていろと言わなかったかね。病死した執事や給仕長のようにはなりたくないだろう」
「私はあなたを許しません」「ふむ。その剣にはなんの力もないと思っていたが、赤の宝玉が近くにある場合は別なのか」
三人そっちのけで話を続けるNPCたち。
プレイヤー側としては暇で仕方ない。GMは超展開を行う時は気を付けよう。
「仕方ない。丁重に取り扱え」
公爵が術を唱えると幾重もの魔力鎖が現れたが剣と赤の宝玉はその術を打ち消した。
どうやら魔法を打ち消すと判断した公爵は即座に物理的拘束を命じた。
お嬢様育ちとバスタオルでは抵抗できるはずもない。
しかし、三人は結構大胆だった。
「あ」ヒサシがスキル『猫だまし』を発動。
明後日の方向を指さす。
引っかかる人間はあまりいなかったが引っかかるまいと冒険者側に視線を向けたのは拙かった。
躊躇なくミザリィがバスタオルを両手で開帳した。
同時にふんどし。もとい腰巻を解いたサラマンダー。
注目がそれたのを良いことに重たいテーブルに己の腰巻を巻き付け、姫君をそのマッシブな腕で抱き上げる。
「ばいばい」
ミザリィはそう告げてウインクすると同じく窓から身を投げる。
ごうっという音が彼女のとがった耳を横切るが彼女の表情には微笑みが浮かんでいる。
あわや墜落死。
しかし、彼女の身体は重力に逆らい、徐々に落下速度を落としていく。
「よっと」「ありがとう。ヒサシ」「どういたしまして」笑い合う二人。
「『落下速度制御』くらいなら私でも使える」『この術だけは詠唱なしで利用できるように先人たちが工夫を凝らしている』と後の雑誌展開にてQ&Aでデザイナーが明記しているため落とし穴に堕ちた瞬間にもかけることができるし、事前にかけておくことも可能だ。
もっとも、今回GMはそんな記事はノーチェックだったらしい。
ヒサシを使う神聖皇帝が『逃げ道』スキル判定を行ったのは許可したが。
「詠唱なしとか、事前にかけることができるなど聞いていないぞ?!」「GM、しかし私が先日買い込んだ『てぃああるぴぃじい専門誌』に明記されているぞ」「本当だ。あきらめろGM」「そうだそうだ!」「ふむ。他にもQ&Aブックというものも買っておいた」
こういうもめ事は多い。
GMより初心者だったプレイヤーが詳しくなることはまれにある。
まして神聖皇帝様は複数の書籍を同時に読んで尚且つ自書を執筆することも可能である。
そんなプレイヤーサイドのもめ事はさておき。
「ばいばい。公爵」
ヒサシは予め逃げ足を用意していた。
裏をかかれるだけでは盗賊は務まらない。
「違う。ヒサシ。こういう場合は」「あーばよっ! 公爵のとっちゃん!」
笑い合う二人は女二人を乗せた馬二頭で逃げだす。
「追いついてみやがれ~!」尻を叩いて挑発。でもパンツ一丁。
揺れる馬。風切る速さ。
停止を命ずる衛視たちだって大喜び、もとい大興奮。じゃなかった。
裸の男たちと女が馬を暴走させているので大混乱。
四人はあっという間に街を飛び出していく。
「ヒサシ」「なんだ。ミザリィ」
後ろにある大きな大きな二つの感触に『仏』『諸行無常』『理性』と必死でいろいろ耐える盗賊にその元凶が話しかけてきた。
『煩悩』『E E E E E E E E E 生の破壊力は想像以上G級』『生』『殿中でござる。殿中でござる』『カイコクシテクダサーイ カイコクシテクダサーイヨー』
「……私もう、お嫁にいけない」
萎えた。
「もうやだぁ……」「い、今更泣き出しても」
裸の男女が揺れあっているというと艶事を想像するが、この場合は正しく乗馬である。
「いい機転と脱ぎっぷりだったぞ」「サラマンダー!? 最悪?!」
そこにサラマンダーが止めをさす。
ちなみに彼は正しく全裸である。
姫君だって全裸の男に抱き着いたことなど一生のうち一度だってない。
最悪すぎるファーストコンタクトである。
全部魔王様たちの戯れのせいである。本当ならカッコいいシーンだったのに?!
「サラマンダーさん。でしたか。ひどいですね。アナタ」「姫君。えっと」
繰り返すが本当に最悪な出会いである。
果たして侯爵家の姫君を加えた三人は無事国王一家を助け、この国に平和を取り戻すことができるのだろうか。
え? 無理?
そうかもしれない。




