ふんどしじゃ高位魔法は防げない
全裸の女が道端を歩けば職務質問をされるだろう。
ふんどしのガチムチな魔導士やパンツ一丁の盗賊というのも。
前日の更新では『職務質問』と表現したが厳密には違う。
ファンタジーの世界に全裸に近い恰好をした女はいないわけではない。娼婦とか。
そして別にいても問題のない職業となる。
ではなぜ三人は衛兵さんから叱られる羽目になったのか。
謁見中だったからである。侯爵家で。
「ちょっと待った。そのような話など聞いていないぞGMどの」
ミザリィのプレイヤーであるオリジナル様の抗議をきかないGM。
「いいじゃないですか。楽しいでしょう」「私は楽しくないぞ」
勘違いしたノリでプレイヤーとGMの間で喧嘩発生はまれによくある。
「これはどういうことですか」
執事さんもブチ切れだがプレイヤーキャラクターたちだって状況を把握できていない。
「あれ? 俺たち温泉宿に」「何を言っているのだ。我々はあの戦いのあと方々に渡りをつけて侯爵家に宝石を返却する手はずを整え」「あ~?!! もう記憶が混濁してわけがわからないわよッ?!」
具体的にいうとシナリオとシナリオの間のプレイヤーキャラクターの行動をGMが決めたので侯爵家に宝石返還の手はずを整えた記憶と行動が後から付与されたが、キャラクターたちは先のシナリオでの敵魔導士である公爵との戦いの直後に魔王たちが現実世界に呼び出してしまっているゆえの齟齬である。
「ワケが解らないのはこちらなのですが」「みなさん衣服はどこへ?!」
うろたえる侯爵家の皆様。
奥から笑い声。靴音とともに扉が開き、仮面の男が姿を現す。
「面白い余興だな。冒険者ども」
三人はその声に聞き覚えがあった。
何度も何度も何度も連続6ゾロ(サイコロが全部六を出すこと。このゲームでは自動成功であるクリティカル判定)を強要された強敵を忘れるわけがない。
「公爵?!」「ほう。盗賊殿は知らなくても良いことを知っているようだな」
『私は侯爵家の婿である。以後よろしく』と笑う宿敵。
「侯爵はどこ!?」「確か侯爵家には跡取りの娘が」
半裸で問い詰める二人に公爵こと青の宝玉の魔法使いは笑う。
「『我が婚約者』は我が弟や父上と同じく病気のようだ。自室ににて休養中だ」「『病気のようだ』ねぇ……」
豪奢な衣服を嫌みなく着こなす男が間違っても病人に見えないように、お察しと言える。
そしてこの国では女性が爵位を継ぐ場合、結婚をしなければいけないらしい。
「マヌケにも赤の宝玉を持ってきてくれた君たちを粗末には扱わない。安心したまえ」「くっそ。盗賊ギルドに内通者がいたのかっ?!」
今回のこういった一連の流れがまったくヒサシの耳に入っていないということはいいように踊らされたということになる。
「もっとも、赤の宝玉を手に入れれば用済みなのだがな」「くッ?!」
青の公爵の周りが歪んだ。
いや、高温の炎の槍が幾重にも発生したために生じた陽炎と三人が気づいたときにはもう遅い。
『消えたまえ』
バスタオルやふんどしでは高位魔法は防げない。
「腰巻だといっているだろうが!!」サラマンダー。それどころじゃないぞ。
そして次回へ。




