短編に収めることはできなかったらしい
異世界の本屋にその三人はいた。
「なんでしょう。この薄い本は。何故殿方が女性のようなしぐさをして絡み合って愛し合っているのでしょうか」
一人は魔王。その名をディーヌスレイト。
すらりとした体つき。一言で言えばひんにゅー。
キリッとした涼しげな顔立ちはそれでいてどこか女性的な柔らかさを持つ。
間違っても魔物の大軍をかつて率いていたなんて思えない。
その魔王の手から剣呑な雰囲気乍らも表情だけはニコニコ笑いながら『ドージンシ』なる邪本を奪うのはかの魔王の『姉』である神聖皇帝。彼女の名もまたディーヌスレイト。
長身ながら。否、長身故にボンキュッボンな身体を真っ白なローブに包んで隠している。結構惜しい。色々と惜しい。
センスの欠片の無い金色の仮面もまたアレだが本人は気に入っているらしい。
彼女たちは心臓のあるべき位置に同じ『魔玉』なる宝物を埋め込んだ存在であり、血のつながりはないが仲は悪くはない。今はだが。
さて、そんな二人にはオリジナルと呼ばれる存在がおり、ある意味この姉妹の長女と言えるのがオリジナルの異世界の魔王。やっぱり名前は同じディーヌスレイトである。
覚えやすいがややこしい。カメハメハか。
容姿は二人の中間で、ミステリアスな雰囲気とどこか人を引き付ける柔らかさを持つ大人のエルフ女性って……みんなエルフで大人だよ?! 何歳だよみんな?!
彼女たち三名は異世界の魔導人形にして魔王である友人に導かれ、大型書店にいた。
魔王に至っては見たこともない書籍の山に歓喜している。
神聖皇帝は『我が書庫ほどではない』と言っているがすでにカートの中は満載である。
オリジナルはあらゆる世界の『声』を聴けるためあえてそれを求める事はしないがどこか楽しそうだ。
「取り敢えず、今日はコタツでTRPGをする」
すっと細い指先がミカンの皮に潜り込み、伸ばした爪の先がその汁気たっぷりの果実を掻きだす。
細かくカリカリカリカリと小さな筋を掻きだす魔王様。
皮が捨てられることに理解を示さず手元に来た皮を口に含むオリジナル。
「オリジナル。皮は食べない」「そうか? 柑橘類の香気は皮に集うのだぞ」
「美味しいの?」真似して食べようとする魔王。黙って首を左右に振る神聖皇帝。
「ぺぺっ?! 不味いよっ?」「お前は言わねば解らぬ子供か」「あ、またコドモって言った?!」じゃれ合う二人。無心に皮を小さくつまんでは噛み、つまんでは噛むオリジナル。
「ところで、てぃあーるぴぃじい? なるものはなんだ?」
オリジナルの質問に異世界の魔王の側近は『端的にいえばルールのあるごっこ遊び』と答える。
ただ、喧嘩で解決するところをさいころの結果などで被害を抑えたものだといわれて納得する三名。この三名が本気で暴れれば世界が滅ぶ。結構マジで。
マジと書いて本気と呼ぶ。
既に1000文字超えた。どうしよう。
「作者殿。これは連載にすべきでしょう」そうするよ。
次回に続く。




