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荒ぶるカノじょ様  作者: 紅葉コウヨウ
1/7

プロローグ

書いてるとき、とても楽しかったです。

読者の方にも楽しんでほしいです。

楽しんでくれると、僕もさらに楽しいので。

「もうすぐ着くよ」


 ゆらりゆらりと波に揺られる船の中、不意に聞こえてきた船長の声で目を覚ます。

「…………」

 起き抜けのボンヤリした目で、辺りを見回すと一面海だった。うん、当然の事だな――俺は完全に寝ぼけている頭のエンジンに火を入れるため、パンパンッとやや強めに頬を手のひらで撃つ。

「いてぇ……」

 痛いだけで何も変わらなかった。眠気も全くとれるきがしてこない。

 というか、俺って何で船に乗っているんだっけ? と、いよいよ俺の寝ぼけレベルが頂点に達しているのを確認したところで、

「いい加減、準備しないと間に合わないんじゃないの? こんな島に行く人なんてめったに居ないから、にいちゃん送ったらすぐ引き返しちゃうよ。そん時に荷物が積みっぱなしでも問答無用で引き返しちゃうからね」

「それは困るってば!」

 船長のおっさんの声で、脳みそがついに覚醒した。

「だったら早く起きて荷物を用意するんだな」

「わ、わかったから、怖い冗談言わないでくださいよ!」

「…………」

「…………」

「冗談だと思うか?」

「……いいえ」

「じゃあ早く用意しなよ」

 俺は覚醒を果たした脳みそを引き連れて、そうそうに荷物の準備へと向かったのだった。


 この俺こと夏目虎太郎なつめこたろうは現在、織御島おりごとうという小さな島に向っている。まあ簡単に言うなら、お引越しアンド転校という奴だ。

 俺は明日から織御島、唯一の街である隼坂町じゅんばんまちにある美蘇殿学園みそでんがくえんに通う事になる。

 ちなみに家族は本土で三人仲良く暮らしている――俺一人が引っ越すことになったのは、けっして家族仲が悪いからとかではない。ましてや特に深い意味が有る訳でもない。

 ノリだ。

 俺の一時のテンションに身を任せたが故の行動だ。

 後悔は全くない! 俺は俺のしたいように行動して、人生をエンジョイさせてもらうのだ!

 とにかくそんなこんなで、

「ありがとうございました」

「あいよ。じゃあ、にいちゃんも元気でね」

「おっちゃんも、元気で!」

 桟橋に立って、遠ざかって行くおっちゃんの船に手を振る。感謝の意を込めたお見送りを済ませると、俺は改めて周りを見回す。

 まるでどこかのリゾートビーチかのような真っ白な砂浜、見上げれば雲一つない青空――月並みな言葉だが、まるで一枚の絵画の中に入ったような風景だ。

 続いて俺はさらに辺りを見回す。

「建物とかの密度はまあ……そこそこかな」

 ど田舎って程ではないものの、けっして都会ではない。実に微妙な発展具合……いや、この場合は寂れ具合の方が正しいのか?

 だがしかし、

「完璧だぜ!」

 一回でいいから、こういうところで生活して見たかったんだよな。

 俺は昔からの夢の一つが叶ったことに、胸を小躍りさせる。

「っと、忘れるところだった」

 背負っていたリュックを下して、中からとある物を探す。

 俺がこの島に一人で引っ越したい……要は隼坂町で暮らしたいと言った際に、両親から最低条件がいくつかつけられた事が有るのだ。

 まず一人暮らしは絶対に駄目――きっと俺を心配しての提案だったのだろう。いくら俺でも、親を心配させてまで好き勝手する気はないから、これは余裕で了承だ。

 二つ目の条件は、先ほどの条件に付随する事なのだが――なんでもこの島には、母さんの大学時代の後輩が住んでいるらしく、その人の家でお世話になれとの事だ。こちらの方も、母さんが事前に了解を取り付けてくれたらしいので、俺としても何の問題もない。

 そして俺が今探している者は、そのお世話になる家の地図だ。

「お、あったあった……と」

 物を詰め込み過ぎてパンパンになったリュックから、件の地図を引きずり出す。

「さて、とりあえず歩いてみるか」

 言って桟橋から陸に上がり、文字通り始めの一歩を踏み出し……、


「あんたどっち?」


 いつからそこに居たのか、一人の女の子が立って居た――おまけに、俺にビームソードを突きつけながら立って居た。

「……は?」

 いやいやいやいやいや! ありえないから……とにかくおちつけ!

 俺は落ち着いてもう一度、女の子を下から上までじっくりと見る。

 真っ白な肌、しなやかな足、きゅっと括れたウエスト、胸は……普通だ。そして端正だがやや気の強そうな顔立ち。中でも一際目を惹くのは、ツインテールに結ばれた暖かそうな栗色の髪だろう。服装はフリルがついたチェックのスカートにワイシャツと、シンプルにまとめられている。

美少女だ。

 紛う事なき美少女が俺の前に居た。

 しかしその手には切っ先から柄まで光り輝く剣――要はビームソードが握られていた……こいつはアレか? 遥か遠い宇宙で戦争でもしてるのだろうか?

「な、なに見てんのよ!」

「あ、いや……」

 見ていたのは本当なので、咄嗟に言い訳が出てこない。っていうか何でこんなこと考えてるんだ俺は!?

とにかく今は女の子の勘違いか何かで、ビームソードを向けられている――自分で考えてバカバカしくなる状況だが、悲しい事に真実なので仕方がない。

「えーっと、そのビームソードをとりあえ……」


「いたぞ! 一気にやっちまえ!」

「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」」」」


 そんな声と共に、遠くの方からホウキやモップをもった人たちが駆けてくる。駆けてくる人たちは老若男女、実にバリエーション豊かだが……どの人も必死な形相で怖い。というか、

「なに!? なんなのこれ!?」

 いったい何が起こってるの!? と、ビームソード突きつけられているのも忘れて、俺が慌てふためいていると、

「ち、しつこい連中ね!」

 言って、女の子はビームソードを俺に突きつけるのを止める。そして、持っていたビームソードをやり投げの選手の様に構えると、体を弓の様に引き絞り、

「死にさらせえええええええええええええええええええええ!」

 投げた。それはもう美しいフォームで投げた。

 もう何が起こっているのかわからない、しかし状況は俺を置き去りにして進んで行く。

「こっちも負けるなああああああ!」

「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」」」」

 遠くの方からホウキやモップが飛んでくるのが見える――心なしか淡く発光している気がする。

 大気圏を突破しそうな速度で飛ぶビームソードと、大量のホウキモップ連盟は、それぞれを投擲した持ち主たちの丁度中間でぶつかり……、


ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン―――――――――……―――――……――……………………


 バカみたいな大爆発を起こした。

「ちょ……」

 なにこれ?

 俺は現実離れしたその光景を、ただ茫然と眺めている事しかできなかった。

 本当にどうなっているんだ? ビームソードを突きつけられたり、ホウキやモップが飛んできて爆発し……、


ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ――――――――


「……え?」

 よくみたら、爆発はまるで収まる気配を見せず、凄まじい音を立てて俺の方へと迫ってきている。つまりこのまま行くと、俺は確実に爆発に巻き込まれてしまう訳で……、

「って落ち着いてる場合じゃねえ!」

 俺はとっさに逃げようとするが、ふと隣に居た女の子が気になる――俺をこんな状況に巻き込んんだ張本人だが、あんな美少女をこんな爆発の中に置き去りにたら、男がすたるってもんだぜ!

「な、なあ、君も一緒に逃げ……よ……う?」

 俺が少女が居たであろう方に振り向くとそこには、

「誰もいない!?」

 どうと言う事はない、すでに俺が置き去りにされていた。

「……は、ははは」

 もはや苦笑いしかする事のない俺はなすすべもなく、爆発がもたらす光の本流に巻き込まれたのだった。

 俺が織御島に訪れたこの日、隼坂町は跡形もなく消滅した。


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