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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

アンデット属性サプライズ

作者: 雫 凜

元カレに、よりによって自分の大親友とフタマタかけられて、自分が捨てられた。


復讐しないと、怒りが収まらない。


そんな彼女が選んだ復讐方法は、なんともベタな都市伝説を使ったものだった。



暗い暗い闇の中は、とても居心地がよくて、いつまでも闇に包まれていたくなる。


…今日も朝が来た。

この季節は日の出が早い。

「また『今日』が始まる、んか…」


独り言を呟きながら、寝起きの重い体を起こす。

今日という時間が動き出す。


明日なんて来ない。

永久に。

今日は今日。



低血圧でまだボヤけている脳のまま、化粧という身だしなみをサッと済ます。



フラれた後遺症は、自分が思うよりも、くらった打撃が強かった。


まさにデッドボール。

そう。『デッド』ボールを思い切りくらったんだ。


だって、いくらなんでも、私の大親友とフタマタかけてたとか…あり得ないっ!

しかも大親友まで私を裏切ったうえ、早くも結婚間近だって、ウワサで聞いた。



くやしい。

とにかく何かしないと気が済まない。



…だから、ちょっとイタズラ心から復讐することにした。

『デッド』くらったなら、アンデッド属性になってビビらせてやる!って。



そうと決めてからは、毎日の通勤と帰宅の往復が楽しくなってきた。


五寸釘だとか呪いとか、そんなマジな復讐も、相手を陥れるようなやり方も、そういうのは自分の性に合わない。


望むのは、茶目っ気のあるようなイタズラ復讐。




なんだかんだと、せわしなく過ぎていく毎日の中、ある日ポンッっと思い付いた。

よし、バカらしいけどコレで行こう。




次の日、ドラッグストアで出来るだけ強力そうな二重瞼作り専用のノリを買ってきた。


部屋に帰り、早速使ってみる…結構むずかしいな…


自分の二重を、思い切りくっ付けて目をひんむいたようにしてみた。

これ終わったら、二重瞼メイクアイテムを愛用してる人にあげよう。


うん。

希望通りの目。



私はもう半分ほど本来の目的を忘れ、自分のメイク道具を使って遊んでいた。


そのうち、なかなかいい感じの、特殊メイクもどきが仕上がった。

独り、感嘆の声をあげる。




数日後、計画を実行に移した。


白いワンピースなんてもっていないから、裾あげしていない長めスカートの白衣に、包帯だらけの腕。

首にも包帯。

眼は、斜め掛けの包帯が弛んでるようにして、両目で見えるようにした。

包帯には所々に、暗赤色のシミを付けた。

これも、メイク道具を混ぜて作った色だ。



顔色悪く、口許だけは暗赤色にかなりオーバー気味に作り上げる。

眼はひんむいて、まばたきもまともに出来ないから、目薬持参で。

出掛ける直前にイカスミパスタをたべて、歯を黒くして。


アホな事やってるなぁ…と自分で思いながら、もう半ば楽しんでメイクしてた。



元親友の方が元カレより先に帰宅するはずだから、先に彼女に泣いてもらおう。


あまり遅い時間になっては、相手にも悪いから、不審者にならない程度の時間に人目を気にしつつ長いフード付きの上着を羽織って、いざ出陣。



元親友の携帯に非通知で着信を入れる。


「ワタシメリーサン…イマカラアソビニイクネ…」



ベタなネタで攻める事にした。

もちろん声色も変えていたから、彼女は「はぁ?ちょっと何?だれ?」とか言っていた。


どうやら私の声だとバレなかったらしい…

一方的に電話を切った。


声がバレなかった事は、私にとって好都合で嬉しくもあったけれど、同時に寂しくもあった。



それから徐々に移動する度に、非通知で連絡をする。


元親友と元カレが同棲するアパート付近まで近づいた頃には、電話の向こうの元大親友はややパニクってた。



「ワタシメリーサン…イマ…アパートニツイタノ…イマカライクネ…」



目指すは二階の一室。



「マジ来なくていいからっっ!ちょっ!来ないでよ!!」



いいえ。

行きます。

今日の私はアンデット系設定なので、聞く耳もちません。


二人して私を騙したぶん、結婚祝いにサプライズ&ホラーをあげるんだから。



「ワタシメリーサン…イマ…ドアノマエニイルノ…ネェアケテ…アソボウヨ…」


部屋の中からかすかに物音がする。

どうやら玄関に向かってきてるようだ。

相変わらず、勇気あるなぁ…



覗き窓越しに見える位置で下を向いてスタンバイ。

羽織ってた上着は、見えない位置に置いた。



扉の向こうに気配が近づいた。


私は、両腕をブラーンとちからなく下に垂らし、下を向いたままスタンバイした。



扉に手をついたような音がかすかにした。

「ひ…どちらさまですか……」

元大親友の声。



二人でふざけて笑ってた日々を走馬灯のように思い出して、少し泣きそうになった。


きっと私の眼は充血していただろうな…



早業で覗き窓に片目を、どアップで近づけた。ドタドタと部屋の奥に逃げていくのが、よくわかる足音の遠ざかり音…



私はまた上着を羽織って、足早にアパートを後にした。

元カレにもやるつもりでいたけれど、完全に戦意喪失…。

ただ悲しくて涙が出た。



あんなに何年も、長い間お互い大親友だったのに。

男がからんだら、すべて崩れてしまった。




手早く包帯をとって、ポケットに押し込む。

持ってきたウエットティッシュで、顔を拭いて、まぶたのノリをはずした。



歩きながらの帰り道、涙が止まらなかった。



その後、メリーさん事件が、二人の間でどうなったかは知らない。




しばらくして入籍したことを知り、お財布には痛かったけれど、ご祝儀を包んで、しれっと届けに行った。


まさか私からお祝いされるとは思わなかったらしく、二人に揃って謝られたが、ご縁の問題だから、と軽く流して帰路についた。




あの時、本気で演じるターゲットはあくまで元カレあてで、元親友にはあんなに驚かせる気はなかった。



でも…

ごめんね、ちょっとスッキリしちゃった。


幸せになってね。




人を呪わば穴二つ。

本気で誰かを呪ったりしちゃダメなんです。


いつか自分に返ってくるものだから。




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― 新着の感想 ―
[良い点] とても読みやすい文体で話の内容も面白かったです。 「サプライズ」と言うところに強く惹かれました。 呼んでいてスッキリしました。 [気になる点] 特に悪い点は無いです。 [一言] 現実でも…
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