第7話 家族
しっかりとお金を取られた燃は大蔵親子に別れを告げて病院を出た。
辺りはすでに闇に包まれていた。
だが、燃は急ぐ必要がない。
帰っても迎えてくれるものが居ないのである。
両親は二人とも1年前、原因不明の病にかかって死んだ。
あまりにも突然で燃は面会も許されなかったので分かっているのは死んだということだった。
さすがにしばらく落ち込んだが何とか立ち直って今にいたる。
そして燃には1人の兄弟が居る。
荒木慎之介という5つ離れた兄だ。
とてもやさしい兄だったのだが親が死に、財政が苦しくなってくると、
何か訳の分からない仕事をはじめ、たまにとてつもない金額のお金が送られてくるが、
兄は全く帰ってこなくなった。
だから、家には誰も居ない・・・・・・はずだった。
「ただいま〜。」
誰も居ないはずの家に燃はそう言った。
「おう!お帰り!」
「・・・・・・」
そこには、両親が死んでから全く姿を見せなくなった兄の慎之介が居た。
「いや〜、久しぶりだな。元気にしてたか?」
「あ・・・兄貴?」
「ああ、そうだ。俺が兄貴じゃなかったら泥棒だな。」
慎之介はそう言ってニヤリと笑った。
「ああ、そうだな。」
燃もニヤリと、だがとても嬉しそうに笑った。
「へぇ、てっきり泣くかと思ったんだけどなぁ。お前かなり甘ったれだったからなあ。」
と言って、慎之介はとても意外そうな顔をした。
「まあ、両親が死んで、信頼してた兄貴までにもいなくなられたんじゃあ、精神力も強くなるよ。」
燃は皮肉で返した。
「ははは・・・まあ、それもそうだな。」
「で?いきなりどうしたのさ?」
「いや、それがな・・・世界各地で変な毒での殺人が多発してるんだよ。それを調べようと思ってな。」
「へ・・・変な毒って?」
燃はまさかと思い、一応聞いてみた。
「なんだか、体中から血が噴出して死ぬ毒らしいんだよ。」
「へ・・・へぇ・・・」
「実はここだけの話、俺達の親もこれでやられたらしいんだ。」
「え?病気じゃ、なかったけ?」
「当時はそう思われてなかったらしくて・・・」
「え?でも・・・即効性じゃなかったっけ?」
「そうなんだけど、うちの親は何故だか遅かったんだ・・・・あれ?」
「・・・どうした?」
「俺、即効性なんて言ったか?」
燃は焦りを感じた。
「・・・・・・」
「・・・・・・燃?」
「・・・・・・」
「お前何かあったのか?」
「ま・・・正人さんから聞いただけだよ・・・」
「確かにあの人なら知っていそうだが、あの人は相当のことがない限り何もいわないはずだ。」
「うっ・・・・」
「燃・・・ちょっと外に出ろ・・・」
そう言って慎之介は外を指差した。
「あ・・・ああ・・・」
燃は曖昧に返事をする。