第6話 毒
「ここは・・・」
手術を終えた燃が目を覚ました。
(確か帰ろうとして・・・)
「そうだ!リン!確かあいつに・・・・」
その後の言葉が続かなかった。
「げほっ、ごほっ、ごほっ・・・」
口を塞いでいた手に赤いものがついていた。
「なっ・・・これって・・・血?」
燃の手には血がついていた。
「あんまり喋るな。喋ると血を吐くぞ。」
柱に寄りかかり、何かの資料を見ながら正人はそう言った。
「ま・・・正人さん!?何で俺・・・」
これもまた咳にさえぎられた。
「ごほっ、ごほっ」
「だから喋るなって・・・シーツを洗うの大変なんだからな。」
「こ・・・こんなときに・・・シーツの・・・心配ですか?」
息も絶え絶えだ。
「まあ気にするな・・・それで、どうやらお前の背中に刺さってたナイフに毒が塗ってあったらしいな。」
「そう・・・ですか・・・じ・・・じゃあ、解毒の仕方は?」
「今のところ無いな。」
「そうですか。」
だいぶ呼吸が落ち着いてきたようだ。
「じゃあ、今度は俺からの質問。」
「・・・何ですか?」
燃はどうせろくな質問ではないだろうと思って適当に聞いている。
「お前刺されたときに何かしたか?」
「・・・何でですか?」
「俺が駆けつけたときにはもうナイフによる傷はほとんど治っていた。これは普通の人間では無理だ。」
「な・・・何もしてませんよ。」
「それだけじゃない。さっき調べたんだが、お前が侵されているその毒は他にも例があったんだ。」
「・・・」
「一般的に公開されていないが、少数だがあるらしい。」
珍しく正人は真剣な顔だ。
「そ・・・それで何で俺が何かしたって思ったんですか?」
「今までその毒を打たれて生きている例はお前だけだ。」
「というと?」
「効果は即効性で、他は皆体中の穴という穴から血を噴出して死んでいる。」
「・・・」
「だが、なぜかお前だけその程度で済んでいる。これは何かしたと考えない方がおかしいだろう?」
「べ・・・別に・・・何もしてませんよ。正人さん冗談きついなあ・・・」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
「まっ、別にお前が何を隠していようと俺には関係ないけどな。」
そう言って正人さんはあきらめてくれた。
「・・・ありがとうございます。」
「あっ、それからその毒のことはなるべくばらさない方が良いぞ?」
「何でですか?」
「よく考えてみろ。生き残ったのはこの世界中でお前ただ1人。」
「・・・だからなんですか?」
「だったら世界中の狂研究者達がお前の体を求めて集まってくるのは目に見えるだろうが。」
「・・・・た・・・確かに・・・正人さんがいっぱい集まってくると考えると恐ろしい。」
「・・・なんか言ったか?」
「い・・・いえ、何にも。」
「・・・まあとりあえずもう退院して良いぞ。」
正人は信じられない言葉をはいた。
「あ・・・あの、正人さん?俺まだ解毒されてないんですけど・・・」
普通ならば解毒できるまで入院させておくところだ。
「いや、もう傷もふさがってるし、解毒も出来ないから入院する必要もないだろう。」
「ま・・・まあ、そうですけど・・・」
燃は何か納得できないようだ。
「どうしてもって言うんなら、入院させてやっても良いが入院費はきっちりもらうぞ。」
「い・・・いや、やっぱりいいです。」
「じゃあ、入院費払ってから気をつけて帰れよ?」
「は〜い。・・・って入院はしてませんよ!」
「ちっ・・・じゃあ、手術費。」
「まったく・・・」
燃はそう言って手術費を払って帰ろうとした。
「そうだ!おい、燃、まて。」
燃は何か忘れたのかと思い、振り返った。
「口止め料。」
正人はそう言ってにっこりと微笑んだ。