第48話 知り合い
「くそ・・・」
燃は絶体絶命だと思った。
「ついて来て。近道、教えてあげる。」
リンはそう言って走り出した。
「は?」
燃はあっけにとられた。
「何で?」
リンが止まった。
「そんなこと言ってる暇あるの?」
リンはそう言ってまた走り出した。
「うっ・・・」
燃たちは顔を見合わせ、黙ってついて行く事にした。
やがて転送室にたどり着いた。
達也は急いで機械の前に座った。
「なあ、何で俺を助けようとしてるんだ?俺のことを殺そうとしたり意味わかんないぞ?」
燃はリンに訊いた。
「私はもともと人を殺すのには反対だった。それでも大将がやれって言うんだから仕方ないでしょ?でも、今その大将は居ない。だったら出来るだけ人の命を救いたいと思うのは普通だと思うけど?」
リンは真面目な顔で答えていた。
「なるほど・・・ん?待てよ?達也!その毒ガスが俺たちの降りたところに残っていたらどうするんだ?」
「その心配は無いよ。その毒ガスは着弾後3秒でその町全域に広がり、10秒後に毒素が抜ける。」
「そうか・・・」
燃は安心した表情になった。
「よし、準備完了だ。」
達也がそう言った途端、燃は大きなガラスの筒に閉じ込められた。
「なっ!?達也!?どういうつもりだよ!?」
燃は筒の中で騒いだ。
「悪いな、燃。俺は一緒には帰れないみたいだ。」
燃は達也が腹を抑えているのを見つけた。
そこからは大量の血が滴り落ちている。
「達也・・・その傷・・・」
「ああ・・・敵の大将と相打ちした。」
達也は笑いながら言った。
「じゃあな、燃。しっかりと世界を守れよ?」
達也はそう言って転送ボタンを押した。
「ま・・・待て、達也!達也!!」
燃の上から光が落ちてきて筒の中から燃は居なくなった。
「さてと・・・」
達也はリンの方に向き直った。
「君はもう敵意は無いと思って良いのかな?」
達也は苦しそうに言った。
腹の傷が痛むのだろう。
「?ええ。たぶん。」
リンは不審に思いながらも答えた。
「じゃあ一つ頼み事、していいかな?」
「私に出来る範囲なら。」
「多分出来る。あいつの・・・燃の助けになってやってくれないかな?」
達也は苦笑いしながら言った。
「は?」
リンも不意をつかれた様だ。
「やっぱり、世界を救うのってあいつ一人じゃ大変そうだからさ・・・」
「で・・・でも私あの人を殺そうとしたんだよ?」
リンは戸惑いながら言った。
「昔は昔、今は今。」
達也は笑いながら言った。
「そういうことで頼んだぞ!」
「で・・・でも・・・あなたが行けば良いじゃない。」
「俺はもうこの傷じゃ無理だ。普通の人間だからな。それにこの機械は連続で転送できるのは二人までが限度らしい。」
リンは上から降ってきた筒に閉じ込められた。
「燃のこと、よろしく頼む。向こう行ったら、まずあいつの手当てをしてやってくれ。」
「なっ!?ち・・・ちょっと!」
達也は転送ボタンを押した。
リンは光に包まれ居なくなった。
「はは・・・やっと終った・・・親父・・・もうすぐ俺も行くぞ。」
達也はそう言って仰向けに転がった。
リンが向こうの世界に着くと、燃が倒れていた。
「なっ!?リン!?」
燃は驚いた風に顔をあげた。
「達也って言う人のお願いであなたの助手になることになったんだけど・・・」
リンは周りを見渡した。
昼間だというのに人の気配が全くしなかった。
「さっきの20本のミサイルのうちの一つが俺らの町に着弾したみたいだ。」
燃は悲しそうに言った。
よく見ると人が居ないわけではなかった。
皆死んでいるのだ。
「俺の知り合い・・・皆死んじゃったな・・・・・・」
燃は今にも泣き出しそうな顔で呟いた。
「私の存在、忘れてない?」
リンが燃の顔を覗き込みながら言った。
「リン・・・」
「私、あなたと殺しあった仲だし、助けたりもしたよ?これで知り合いって言わないのは酷いんじゃないのかな?」
リンは笑いながら言った。
「ふ・・・は・・・はは・・・あははははっ!」
燃はいきなり笑い出した。
「確かにそうだな!悪かった。・・・そういえば自己紹介がまだだったな!俺は荒木燃。特技は一旦決めたらそれをやり通すこと!」
燃は嬉しそうに言った。
「私はリン。職業は荒木燃の助手。これからよろしくね、燃。」
リンはそう言って手を差し伸べた。
「ああ、よろしくな!リン。」
燃はその手をしっかりと握った。
「さて、どこ行くか・・・」
燃は適当に歩き出した。
「あれ?どこ向かってるの?」
「適当。」
燃は面倒くさそうに答えた。
「適当って・・・はあ・・・これから大変かも・・・」
リンは困ったように言った。
(正人さん、師匠、兄貴、達也・・・みんな、俺に命を授けてくれてありがとう。俺は絶対にみんなの命、無駄にはしない。この先どんな困難が待ち受けようと俺は生きていくつもりだ。俺なりの生き方で。)
燃は久しぶりに見る青空を眺めながら死んでいった皆に心の中でお礼を言った。
燃は空を眺めながら仰向けに倒れた。
「あっ〜〜〜!!燃!傷、傷!!って、あちゃ〜遅かったか・・・」
リンは包帯を持ってきながら言った。
大勢の犠牲が出た事件の直後、二人の男女が澄み渡る青空の中で楽しそうに話していた。
『エネルギーの使い手』をご愛読くださいましてありがとうございました。おそらくすぐに続編を書くと思いますので、その時はまたよろしくお願いします。おそらく題名は『妖』になると思います。