第37話 敵の目的
「皆さん、いよいよ敵地に乗り込みます。予定は明後日。作戦に変更はありません。」
慎之介は簡単に連絡事項を済ました。
「何か意見はありますか?」
慎之介は皆の顔を見回した。
ほとんどのものは覚悟の決まった顔をしていた。
ただ一人、燃だけが不満そうな顔をしていた。
「では、意見がないようなので解散ということで。」
皆は慎之介の借り部屋から出て行こうとした。
「燃、ちょっとこっちに来い。」
慎之介が呼んだ。
燃はあんなの方を見た。
あんなもそれに気づいたようだ。
「もう、修行は終わりだよ。燃くん。後は明後日に備えてゆっくりして。」
あんなはそう言ってにっこりと微笑んだ。
「分かりました。師匠、ありがとうございました。」
燃は頭を下げた。
「うん、お互い頑張ろうね。」
そう言ってあんなは部屋から出て行った。
「なあ、燃。お前、なんか不満でもあるのか?」
慎之介は部屋に残った燃に聞いた。
「・・・・・・ああ。」
燃は少しためらった後、うなずいた。
「何だ?言ってみろ。」
「作戦のことなんだけどさあ・・・」
燃はためらいがちに言った。
「何でみんなに作戦を披露しないんだ?」
「だから言っただろ?みんなが混乱しちゃいそうだからって。」
「何で混乱するんだ?」
燃は慎之介に迫った。
「何でって・・・そりゃあ・・・」
「何か言えない事情でもあるのか?」
「燃、落ち着け。」
「あるんなら言ってくれよ!」
「燃!」
「みんなにはどんな作戦を与えたんだ!?」
「燃っ!!」
燃の体がビクッと動いた。
「なあ・・・頼むよ・・・俺、兄貴の作戦聞いたときから変な胸騒ぎがして止まらないんだ・・・何か、この戦いで嫌なことが起こるんじゃないかって・・・」
燃は泣きそうな声で言った。
「俺が言えることは三つだけだ。お前は何があっても止まるな。そして敵の大将を倒せ。そしてお前が世界を救え。これだけだ。」
達也は燃の肩に手を置きながら言った。
「兄貴・・・」
燃は泣きそうな目で見る。
「頼みの綱はお前だけだ。だからどんなことがあっても振り返るんじゃないぞ?」
「でも、兄貴・・・」
慎之介は突然燃のむなぐらをつかんだ。
「いいか、燃?俺たちは何のために戦う?これは個人的な戦いなんかじゃない!この地球上の生物の命がかかってるんだ!」
「なっ!?どういうことだよ?」
燃は驚いたように言った。
「いいか?敵の目的はこの地球上から生物を全て消すことだ。」
「何でそんなこと?」
「俺はこの間まで向こうの世界に行っていた。そのとき分かったんだ。向こうの世界はもうすぐ人間の住める場所じゃなくなる・・・」
慎之介は燃から手を離した。
「何でだよ?」
「向こうの世界の科学はかなり発達してるって言ったよな?」
「ああ・・・」
燃は頷いた。
「それと反比例して森林が減ってきてるんだ。そうすると酸素が供給できなくなり人間は生きていけなくなる。そこで奴らが考えたのはこの地球にミサイルを打ち込む・・・という作戦だった。」
「それって、ただの戦争じゃん。」
燃はあきれた。
「いや、ただのミサイルじゃない。強制的に心臓麻痺させられる毒ガスを積んだ三ミリ程の小型ミサイルだ。一つで一つの町の人間が全て死ぬ。それを幾億と持っているんだ。」
「はあ?そんなこと・・・」
「出来るんだよ。やつらの科学を持ってすれば。」
燃は恐くなって震えた。
「でもなんでそんな手間のかかることをするんだよ?普通に大型ので打っちゃえばいいじゃん。」
「やつらの目的はこっちに移り住むことだ。変に俺たち人間に反抗されたら森林が破壊されて減る、それじゃあ、やつらにとって意味がない。」
「なるほど・・・」
燃は納得した。
「で?どうなんだ?俺と約束できるか?」
正人は燃を見据えた。
「・・・・・・ああ、分かったよ。」
燃はしばらく考えた後、そう言った。
「よし。それでこそ俺の弟だ。」
慎之介は嬉しそうに笑った。