第3話 医者
「・・・・どうするかな。」
燃は先程倒れていた女の子を反射的に背負ってきてしまったのだ。
「とりあえず怪我は無いみたいだけど病院に行っとくか・・・」
この近くに病院はあったかと考えていると、ふと頭にある病院の名前が浮かんだ。
燃は一瞬顔を渋らせた後、ため息をついた。
「本当は行きたくないんだけどなあ・・・まあ、しょうがないか。」
そう言って燃は再び走り出した。
しばらく走ると、大蔵病院と小さく書かれた病院が見えてきた。
これではほとんど誰にも見つからないだろう。
「来ちゃったよ・・・」
燃は相当来たくなかったようだ。
燃は嫌がりながらもその病院へ入っていった。
「こんにちは〜。どうしました?・・・おっ、燃か・・・どうした?彼女なんか連れて」
病院の待合室の席でふんぞり返っている白衣の男が話しかけてきた。
「彼女じゃないですよ・・・正人さん。」
普通の人ならば戸惑う風景だが燃はもう慣れているようだ。
「じゃあ何でおんぶなんかしているんだ?まっ・・・まさか、お前そこまで落ちぶれたのか・・・」
「なんか勝手に妄想しているみたいなんですけど、
多分正人さんの想像していることはしていないと思います。」
「ちっ・・・」
「と、言うかここの院長なのに待合室でタバコなんて良いんですか?」
二人ともまるで子供のような会話をしている。
「院長だからこそいいんだろ?と、言うか何の用事だ?」
「あっ、そうだった・・・この娘、道に倒れてたんですよ。こっちで預かってもらえないでしょうか?」
「嫌だ!」
即答だった。
「何でですか!?」
「面倒くさいし、自分でしたことは自分で責任をとれ。」
「俺何もしてませんって!それに面倒くさいって、あんたそれでも医者か!」
「ったく、しょうがねえなあ・・・じゃあ、ほい。」
そう言って正人は手のひらを差し伸べた。
「ありがとうございます。」
「そっちじゃねえよ。」
燃が女の子を引き渡そうとすると、そう言って止められた。
「これだよ、これ!」
正人は人差し指と親指で円を作って示した。
「これってもしかして・・・お金!?」
「そうそう。治療代と入院費。」
そう言って正人はにっこりと微笑んだ。
「そりゃあないよ・・・」
燃は深いため息をついた。
「何でこんなことになっちゃったのかなあ・・・」
燃は少女をベットに寝かせながらそんなことをつぶやいた。
「あ〜、こりゃあ何かとんでもない圧力がかかったんだろうな。」
正人さんは少女を見ながらそんなことを言い出した。
「えっ!?それって助からないってことですか!?」
「ああ、助からない。・・・普通ならな。」
「・・・」
この正人と言う人物は何をしているか分からないが、腕は確かなのだ。
それにどこから仕入れてくるのか、かなり珍しい薬品も持っている。
「しかしそれには問題がある。」
正人は深刻な顔をしてそんなことを言い出した。
「な・・・なんですか?」
「さらにお金がかかる。」
正人はとても嬉しそうにそう告げた。
「・・・・・・はぁ」
燃は今にも死にそうな顔をしていた。