第26話 親友
「いかん!!」
正人は嫌な予感がして立ち上がった。
大蔵病院の出口から出ようとすると、そこには燃の師匠、小泉あんながいた。
「どうしたの?おじさん。そんなに慌てて。」
あんなはにっこりと微笑んで言った。
「おそらく燃に危険が迫っている。」
正人は真剣な顔で言った。
「うん。知ってる。」
あんなは笑顔のままうなずいた。
「じゃあ、早く助けに行こうぜ。」
「駄目!!」
あんなが声を張り上げた。
「・・・何でだよ?」
正人はにらみつけた。
「・・・・・・」
あんなは黙ったままだ。
「何でだよ?敵が来てるんだぞ。」
正人はもう一回聞いた。
「うん。燃くんの親友がね。」
あんなは静かに言った。
「何・・・だと?」
正人は焦った。
「確か高橋正吾君って言ったかな・・・その子が敵に操られてるんだ。助かる方法は・・・無いんだ。」
「なら、尚更だろ!?燃が友達を・・・・ましてや、親友なんて殺せるはずが無い!」
「殺せなきゃ!・・・殺せなきゃ・・・いけないんだ。」
あんなは辛そうに言った。
「燃は普通の高校生なんだぞ!?何で高校生が人を・・・親友を殺さなきゃいけない!?」
「普通じゃないから!・・・燃くんはエネルギーの使い手だから・・・」
あんなはとても苦しそうに言った。
「畜生!!」
正人は床を思いっきり殴った。
「今回が絶好の機会なんだよ・・・」
「どういうことだ?」
正人は意味が分からなかった。
「私言ったよね。燃くんに足りないもの・・・」
「ふっ・・・そういうことか・・・」
正人は手から血が出るほど拳を強く握っていた。
燃は最早、化け物となってしまった正吾と向き合っていた。
「正吾・・・まさかこんな事になるとはな・・・」
燃は持っているナイフを構えた。
「ガーッ」
元々正吾だった生き物が燃に飛び掛ってきた。
燃はそれをかわし、熊を気を込めて蹴飛ばした。
熊はたまらず吹き飛び、転がった。
燃は仰向けになった熊の腹にナイフを刺そうとしたが、急に正吾との思い出がよみがえり、手を止めてしまった。
「しまった!!」
その隙を狙って熊は燃を鷲づかみにした。
「くっ・・・」
熊は捕まえた燃を食べようとして口に持っていった。
「くそっ!!」
燃は思い切り腕に力を込め、振りほどいた。
「ふう・・・」
正吾との思い出が全て思い出された。
燃は再び覚悟を決めてナイフを握った。
熊は鋭い爪で横凪に払った。
だが燃はそこには居なく、熊のはるか上空に居た。
「正吾!!すまん!!」
燃はそう言って熊の頭にナイフを刺した。
燃はナイフで刺す瞬間、熊が一瞬笑ったような気がした。