第23話 質問
燃と正人は畳に座らされていた。
「どうぞどうぞ。」
あんなは三人分のお茶を持ってきた。
燃は何のためらいもなくそれを呑むと急にいびきをかき出した。
「やっぱりな・・・」
正人は呆れたように呟いた。
「うわ・・・見破られちゃった。」
あんなは楽しそうに言った。
「当たり前だ。一応俺は医者だ。それくらいの見分けはつく。」
三つのお茶には睡眠薬を盛っていたのだ。
「俺の腕を確かめると同時に燃に聞かれたくない話だと思って、眠らせたか・・・随分頭がいいじゃないか・・・」
「ええ?そんなこと無いよぉ。ただいたずらで燃を眠らせただけだよぉ?」
あんなは子供っぽい笑みを浮かべた。
「まあ、そんなことはどっちでもいい。それじゃあ、本題入るか・・・」
正人は適当に流した。
「うん、そうだね。」
あんなは相変わらず笑っている。
「まずエネルギーの使い手について聞きたい。」
正人は真剣に話し始めた。
「はいはい。どうぞ。」
あんなは真面目なのか分からない。
「エネルギーの使い手って、どのくらい前から居るんだ?」
「う〜ん・・・それはちょっと答えられないなあ・・・」
あんなは顎に人差し指をもっていき、考えるそぶりを見せた。
「・・・・・・そうか。」
「うん!」
「じゃあ、燃をどうやって元気付けた?」
「?何のことでしょう?」
あんなは首をかしげた。
「とぼけるな。ここに来たのは約一年前だったな。そのとき、確かに燃は姿をくらました。
だが、燃は両親が居なくなり、兄まで姿をくらまし、どん底まで落ちていたはずだ。
なのに、1年後になって戻ってきたら、こいつはけろりとして居やがった。一体何をした?」
「ふ〜ん。やきもち妬いてるんだぁ。自分にはできなかったのに燃くんのこと何も知らない私ができちゃって。」
「なっ!?は・・・話を逸らすな!」
正人にしては動揺していた。
「あははっ。そうだね。」
あんなは楽しんでいる風があった。
「正直言っちゃうと私は何もしてないよ。勝手に落ち込んだ燃が家の前で行き倒れてて、
私が勝手に家の中に連れ込んだだけだよ?そこからは修行の毎日だったなあ。」
あんなは懐かしむように語っていた。
「何で修行なんか?」
正人は怪訝そうに聞いた。
「だって、燃ったら何か希望を与えないと死んじゃいそうだったんだもん。」
「たしかに・・・」
正人はどこか思い出したように言った。
「じゃあ、燃の強さについて。燃は正直言うとどれくらい強い?」
正人も一応強さを知っているが、他の人からの意見も聞きたいのだろう。
「そうだねぇ・・・燃はとっても強いよ。今でも油断すると私も負けちゃいそうになるもん。」
「ほ〜う。」
「だけど、まだ足りてないこともある。」
「?何だそれは?」
「死への覚悟。」
あんなは少し真面目な顔になった。
「死・・・?あいつ一応死ぬ間際まで入ってきたぜ?」
「違うんだ。」
あんなは首を横に振った。
「自分のじゃなく、仲間の死。それから、戦う相手の死。これが無いと、いつか負けちゃうよ。」
「た・・・確かに」
正人は本気で感心していた。
「だけど、こればっかりは実際に起こらないとどうしようも無いからね。」
あんなは少し悲しそうな顔をしていた。
「なるほどな・・・じゃあ、最後だ。エネルギーと気を合わせるとどうなる?」
正人がそう言った途端、あんなが真剣な顔になった。
「なんで?」
さっきまでの陽気な声とは違う、もっと低い声であんなは言った。
「いや、燃がエネルギーと気を両方出した瞬間に寒気がしたからさ、何かあるんじゃないかと思って。」
「それはね・・・」
あんなは正人の近くまで行き、耳元でささやいた。
「やっぱりな・・・」
「このことは、燃には内緒ね。」
あんなはそう言ってウィンクをした。
「ああ・・・」
正人は燃が将来エネルギーと気を合わせてしまうのではと嫌な予感がしていた。
「じゃあ、燃を起こして皆で夜ご飯食べよ。今日は私が奢っちゃう。」
あんなはそう言って親指を立てた。
「じゃあ、いただこうかな。」
正人はそう言って微笑んだ。